41話 エピローグ
冬が過ぎて涼と愛理沙は青雲高校を卒業した。
センター試験にも無事合格し、涼と愛理沙の2人は某有名私立大学へ合格を果たした。
アパートで使っていた家財道具には思い出が詰まっていたので、できるだけ引っ越し業者に運んでもらった。
今は都内某所の2LDKのマンションに2人で同棲している。
歩いて5分ほどの所に大きな公園があり、公園の中には小川も流れていて、とても緑がきれいだ。
高台の公園では沢山の思い出ができた。この公園でも愛理沙との思い出を沢山つくれたらいいなと涼は思う。
2人黙って夕暮れの公園を散歩する。小型犬を連れた人々が多い。ランニングしている人もいる。涼と愛理沙は雨除けのある小屋のようなベンチに寄り添って座って、夕陽を眺める。
都内は高いビルが多く、夕陽はすぐに沈んでしまうように感じる。
空も曇り空が多く、夜空も街の光で、星の光が小さい。
まったく違う土地に来たのだという実感が湧く。
しかし、愛理沙と一緒なので、孤独感はまったくない。
これからの愛理沙との生活を考えるだけで幸せが心の中から湧いてくる。
「涼……この公園なら外灯も沢山あるから……少し遅い時間でも散歩できるわね」
「それでも愛理沙1人だと危ないよ。 愛理沙はきれいで美しい美女になったんだから」
「アウウ……そんなことを、また言う……いつも恥ずかしいんだからね……」
「事実だからね。愛理沙は俺の宝だから、愛理沙に何かあったら困る……だから夜の散歩は俺が一緒にいる時でないとダメだよ」
「はーい」
愛理沙は大学に入学してから一段と美しさに磨きがかかり、今では美少女というよりも美女だ。
雰囲気も変わり、清楚さに加えて艶やかな色気もかもしだしている。
これからは一層、愛理沙を守らないといけないと、涼は密かに心の中で誓う。
今は愛理沙は髪を少し茶髪にしてミディアムのふるゆわカールにしている。そしてフレアーの白のワンピースにダイヤのネックレスが輝いている。
どこから見ても清楚な美女だ。
大学に通い始めてから、すぐに愛理沙は大学でも噂の美女となった。大学の中を2人で歩いていると男子生徒の嫉妬の視線が涼に降り注いでくる。
しかし、これぐらいの視線は高校時代にも味わっているので、涼もすっかり慣れてしまい、意識すらしない。
大学の中でも、今は平気で2人でイチャついている。
湊と聖香も都内の某有名大学へ合格し、今では都内で同棲を始めている。週に1度は愛理沙と聖香が遊びに行くので、必然的に湊と涼も顔を合わせている。
陽太と芽衣は……陽太が大学の合格に失敗してしまい、芽衣は地元の国立大学へ進学した。今でも芽衣から愛理沙へ手紙が送られてくる。
いつも芽衣から陽太に対する愚痴の手紙ばかりだが、あの2人のことだから上手く付き合っているだろう。
「あの―――そこのカップルさん、1枚写真を撮らせてもらえるかな?」
30歳代ぐらいの男性で、少し軽薄そうな感じを漂わせているが、ヨレヨレのグレーのスーツを着込んでいる。
「私……こういう者でして……お2人を見ていて、お似合のベストカップルだなと思いまして、声をかけさせていただきました。名前は石田と申します。」
石田という男性はサッとスーツの胸ポケットから名刺入れを取り出して1枚の名刺を涼と愛理沙に渡す。
そこには『一ノ瀬プロダクション
「芸能プロダクションの方ですか? 俺達、そういうのには興味ないんですけど」
「今回は仕事抜きです。 美男美女を見ると写真を撮りたくなるんですよ。頼みますから1枚だけ……仲良い所を写真に撮らせてくださいよ」
人懐っこい笑顔で石田が笑いかけてくる。どこか童顔の石田は人が良さそうに見えて断りにくい。たぶんスカウトか、何かを担当している仕事に違いない。
「仕方がないですね。1枚だけですよ」
スマホを取り出して、嬉しそうに涼と愛理沙の2人が寄り添い座っている写真を撮ると、石田は満足そうに撮った写真を見て頷いている。
「お2人はこの近くに住んでるんですか? この公園は広くて気持ちがいいですよね。私もたまに休憩をするために、この公園に立ち寄るんですよ」
「ええ、私達2人、今年になって大学に合格したので……2人で引っ越してきたんです」
「それじゃあ……同棲中ですか。一番、楽しい頃ですね。羨ましいです」
石田に羨ましいと言われて、愛理沙は顔を赤くして、照れて俯いてしまった。
「これ以上、お邪魔するのも申し訳ないので、また公園でお会いましょう。私の名前は石田ですが……お2人のお名前は?」
「俺は涼……彼女は愛理沙と言います。それではさようなら」
「失礼しました」
石田は現れた時と同じように、ヒョウヒョウと涼と愛理沙の前から去っていった。
夜の帳が降りた小屋の中で2人で寄り添って、誰も見ていない時に軽くキスをする。
「私も涼のことを大好き……愛してる……涼といると幸せ」
「俺も愛理沙といると幸せだよ……愛理沙のことを愛してる」
お互いに強くギュッと抱きしめて熱いキスを交わす。
END