23話 私の反省、私の気持ち?-心寧side
莉奈の家に泊まりに来て、今は莉奈のベッドで、莉奈に抱き枕状態にされている。
莉奈がにっこりと笑って、悪戯する時の子猫のような顔をする。
「最近、刀祢君と口喧嘩もしないで、仲良くしてるわね。心寧の心中で何か変化でもあったのかな? 莉奈はすごく興味あるんだけど!」
「最近の刀祢は私のことを庇ってくれる。何回も助けてくれた。それなのに口喧嘩するのはおかしいと思って」
「それで最近、心寧は刀祢くんに優しいのね。刀祢くんの言葉に過剰に反応していなもそのせいね」
刀祢とは小学校3年生に道場に入門したからの付き合いだ。小学校の頃は道場に行くと、刀祢が色々な剣術を教えてくれた。
館長の大輝おじさんも師範代の公輝兄さんも寡黙だけど温かくて優しい人だった。誰も見ていない所でよくキャンディーを貰ったことを覚えている。
剣斗兄さんはいつも凛々しくて、規律正しくて、正義で、いつの間にか剣斗兄さんを目標にするようになっていた。
しかし、中学生になった頃ぐらいから、刀祢が両親や兄達に反発するようになった。今でも心寧はその原因をハッキリと知らない。
心寧の目からは刀祢のワガママに映った。その頃から刀祢は眉間に皺を寄せて険しい顔をするようになった。刀祢は長身だから中学校の皆は刀祢のことを怖がった。
公輝兄さんや剣斗兄さんを見習うように刀祢に注意すると、すぐ口喧嘩になった。その頃から心寧を見ると刀祢は口喧嘩を吹っかけるようになる。
中学校の中でも刀祢は1人だけで浮いていた。その頃に直哉と仲良くなっていつも学校では直哉とだけ話していた。心寧が他の皆とも仲良くするようにいうと、口喧嘩になるか、無視されるようになった。心寧は辛かった。
いつも自分勝手な行動をしている刀祢のことが我慢できなかった。剣斗兄さんに怒られている刀祢を見て、当然だと思った。刀祢が心寧と道場で組手をする時に本気をださないのも心寧の不満の1つだった。
「中学の時、心寧はいつも刀祢くんの愚痴ばっかり言ってたものね」
「うん、あの頃は私は剣斗兄さんのことを信じていたし、剣斗兄さんの言葉は全て合ってると思っていたから」
「今は違うのね?」
「館長のいう通り、刀祢は優しいと思うの。自分なりにペースで人に気遣いしているとってわかったから」
莉奈は心寧の小学校からの親友だ。だから小学校からの刀祢と心寧のことを知っている。
高校2年生になって刀祢と一緒のクラスと知った時、心寧はため息が出た。心配していた通り、刀祢はクラスの皆から浮いていった。刀祢のほうもまったくクラスの皆を気にせず、仲良くしようともしなかった。
そのことが心寧には刀祢のいつものワガママに映った。いつも道場でも1人で黙々と稽古をして、組手を誰ともしようとしない姿もワガママに思った。でも、1人で稽古している刀祢の姿が格好良く見えて、悔しかった。
「心寧は高校で刀祢くんと一緒のクラスになった時、そんなことを思っていたんだね。それがどうして変わったの?キッカケは何?」
「刀祢は本気で組手をすれば、私が怪我することを理解していた。だから、手加減してくれていた。そこを段々と理解できてきたの?」
「以前、それが心寧は嫌だって言っていたじゃない?それがどうして変わったの?」
「刀祢の本気の実力を見たから。今まで私は刀祢と実力は僅差だと思っていた。それは間違いだった。刀祢は遥か上を歩いていることがわかったの」
道場で心寧と刀祢が組手して、刀祢が負けた時、剣斗兄さんが刀祢を罵倒した。それに怒った館長の大輝おじさんが2人に本気の試合を命じた。心寧は刀祢の本気の試合を初めて見た。結果は刀祢が勝ち、剣斗兄さんは負けて、救急車で運ばれていった。
試合の時の刀祢の剣技を見て、体に電流が流れるような衝撃を受けた。今まで心寧は刀祢と互角に戦えると思っていた。それは心寧の傲慢だった。
刀祢の剣技は心寧の遥かに上を行くものだった。不覚にも心寧は刀祢の剣技に見惚れた。
館長の大輝おじさんは剣斗兄さんの考え方を間違っていると言った。そして刀祢のことを優しすぎると評価する。
剣斗を目標としていた心寧にとって館長の大輝おじさんからの一言はショックな出来事だった。心寧が信じていた目標がガラガラと崩れていく。
はじめは刀祢が優しいということがわからなかった。でも刀祢は道場でも木刀で女性の顔を狙おうとしない。女性と組手をしたがらない。
刀祢は心寧以外の女子とは口喧嘩をしない。心寧と口喧嘩はするが、いつも刀祢のほうが心寧のいうことを聞いてくれる。よく考えると刀祢が優しいという意味が段々とわかってきた。見えてきた。
館長の大輝おじさんが、刀祢のことを優しすぎると言ったことは正しい。剣道部の男子部のことも、面倒そうにしていたが、きちんと稽古をつけてくれる。道場でも担当している門下生3人に基礎から優しく教えている。
ハイキングに行った時は心寧が怪我をしたのに、文句も言わずに傷の手当をしてくれて、おんぶまでしてくれた。あの時はすごく恥ずかしかったし、嬉しかった。
県立第七高校の倉木に絡まれた時は、倉木と勝負して勝ってくれた。おかげで心寧は倉木につきまとわれることはなくなった。刀祢のおかげで剣道部の男子部が初めて練習試合で勝つことができた。
「刀祢は剣斗兄さんのように実力を振りかざさない。刀祢はいつも組手をする時、私に怪我をさせないように気遣ってくれる」
「刀祢くんは心寧の実力が発揮できるように組手をしれくていたんだね」
「刀祢はいつも口喧嘩を吹っかけてくるけど、口喧嘩で勝とうしとしない。結局、私のいうことを聞いてくれる」
「最近、心寧は刀祢くんに、いっぱい優しさをもらってるね。だから心寧も変わろうと思ったのかな?」
「少しは恩返しをしたいと思っただけよ!」
今まで心寧が刀祢を見ていたのは態度だけだった。きちんと全てを見ていなかった。きちんと刀祢のことを理解しようとしていなかった。ずっと心寧は自分の気持ちばかりを刀祢にぶつけていた。
これからは刀祢のことは刀祢に任せようと思う。心寧は黙って刀祢を見守っていこう。刀祢は大事な友達と言ってくれた。だから刀祢を大事にしようと思う。
「心寧は刀祢君を理解することに決めたのね。やっとそこまで気づいたんだ。少しは進歩したかなか?まだ自分の気持ちに気づいていないみたいだけど」
「私が自分の気持ちに気づいていない? 刀祢への気持ちに気づいていない?」
「小さい頃から一緒だから、それが当たり前になっていて気づかないのね。でも段々と理解するようになるから大丈夫だよ」
莉奈が意味のわからない謎の言葉をいう。
「心寧はまだまだ成長しないとね。どうして刀祢くんのことが、そんなに気になるのか、心寧も少しは自分の気持ちに気づいたほうがいいよ」
「どうして、私が、刀祢のことをそれほど気にするのか? 私、そんなに刀祢のこと気にしていないよ!」
「そう? 今日の心寧も刀祢くんの話ばっかりしてるよ。心寧も自分の気持ちに、もう少しだけ素直になったほうが良いかもね!」
(私の気持ちは刀祢のことを――――)