20話 早朝の校門にて
練習試合当日の朝。
朝早くにロードレーサーに乗って学校へ向かう。校門のところで争っている男女を見つける。ロードレーサーを止めて、ゆっくりと校門へと向かう。
揉めている女子は心寧だった。心寧は見知らぬ男子に腕を引っ張られている。男子の服装はブレザーの色もパンツの色も違う。他校の生徒だ。
「どうしたんだ?」
「刀祢、助けて!」
「朝から心寧に絡んで、お前は他校生だろう?」
なるべく平静を装って声をかけると、心寧は男子の手を振り解いて、刀祢の背中へと隠れる。
「俺は県立第七高校の
「私はあなたと話すことなんて、一切ないわ。いい加減に私につきまとうのはやめて!」
心寧は大事な友達だ放っておくことはできない。それに心寧は涙を溜めて震えているじゃないか。これは普通じゃない。
「心寧が嫌がっている。ここは退いてもらおうか!」
「君は剣道部の部員か?見たことはないが?」
「剣道部の部員ではないが、関係者だ」
それを聞いた倉木は楽し気に笑う。
「今日の剣道部の練習試合で、五月丘高校が負けたら、心寧さんとデートさせてもらう。この勝負を受けてもらおう!」
「なぜ、あなたが勝手に私とデートすることになってるの? 冗談じゃないわ。あなたなんて大嫌いよ」
倉木の通う県立第七高校は、県大会で3位の成績を誇る、剣道部の強豪だ。普通であれば、五月丘高校の弱小剣道部では勝てる相手ではない。
そのことをわかっていて無理な条件を突きつけてきているのだ。ずいぶんと卑怯なやり方だ。倉木という男子の性格がわかるというものだ。
「心寧は泣いて、お前のことを嫌がってるんだから、手を引けよ。もう嫌われているんだよ。心寧とデートしても無駄だ。心寧はお前のことが嫌いだ」
「それは違う。他校だからあまり交流がない。本当の俺のことを知ってくれれば、必ず心寧さんも心を開いてくれるはずだ。そのことを俺は知っている」
「お前、正気か? 前向きすぎないか? 少しは現実を見ろよ」
なんとポジティブな性格なのだろう。そして自己中。心寧の気持ちなんて全く理解しようともしてない。この手のタイプは厄介だ。
「勝負を受けてやっても良い。その代り、こちらからも条件を出す。大将戦に俺が出る。お前も大将戦に出てこい。その勝負で俺が勝ったら、お前は2度と心寧につきまとうな。俺が負けたら、心寧とデートしてもいい」
慌てて、心寧が刀祢の後ろから前に回る。
「刀祢、勝手にデートの話しを進めないでよ。私は嫌よ。絶対に嫌!」
刀祢は心寧の耳元でささやく。
「俺は絶対に勝つ。安心しろ」
刀祢の言葉を聞いて頷くと、心寧は刀祢の後ろへ隠れた。よほど倉木のことがイヤらしい。
「やっと話し合いは終わったか。俺はその条件で勝負を受けてもいい。俺相手に勝負を挑んだことを、後で後悔させてやる。俺は実力は県内3位だ。せいぜい頑張ってくれ」
「ああ、俺がお前を倒す」
「その言葉をそのまま返そう」
そう言って倉木は校門から去っていった。
「あいつは何者だ? どうして心寧に付きまとっているんだ?」
「以前、県立第七高校と練習試合をした時に、いきなり一目惚れしたって告白されて、それからずっと付きまとわられているのよ。すっごくしつこいの」
気の強い心寧が、これだけ困っているんだから、相当しつこくデートに誘われているな。心寧は嫌がっているし、何とかしたほうがいい。
まだ生徒達が通ってくる時間よりも少し早い。生徒達の注目を集めなかっただけでも良かった。
心寧が刀祢の背中を叩く。
「刀祢、試合に出るには剣道部員になる必要があるわよ。入部届を先生に提出して、認め印を貰わないとダメだよ。急がないと時間がない」
「あ! あいつと戦うには剣道部へ入部する必要があるのか!」
「刀祢、そのこと、考えていなかったの? 早く入部の手続きを取り行こう」
心寧の言う通りだ。倉木と戦うためには剣道部に入部する必要がある。朝のうちに書類の手続きを済ませておいたほうがいい。刀祢は駐輪場へロードレーサーを駐輪させて、心寧と2人で教室まで急いだ。
教室に着いて、自分の鞄を机の上に置いていると、直哉が登校してきた。刀祢と心寧が慌てている姿を見て声をかけてくる。
「2人共、何を騒いでるんだ?」
「丁度、良い所に来た。直哉も一緒に手続きに行くぞ!」
「刀祢、何のことだ? ゆっくりと説明してくれ」
今日の朝の校門での一軒を直哉に説明する。
「また厄介事か。俺も剣道部に入部する。手伝わせろ」
「初めから直哉には手伝ってもらうつもりだった。よろしく頼む」
「わかった!」
心寧を先頭に廊下を職員室まで歩いていく。
職員室の中へ入って剣道部の顧問の先生の前に立つ。心寧が、2人が剣道部へ入部することを告げると、顧問の先生はダルそうに机を開けて、入部届を出して刀祢達に手渡す。
その場で入部届にサインをして顧問の先生に手渡す。心寧が詳細は私から説明しておくと説明する。顧問の先生は頷いて了承した。これで刀祢と直哉は剣道部員になったわけだ。
「刀祢も直哉も、私のせいで2人を巻き込んでゴメンね」
心寧が申し訳なさそうな顔をする。
「気にするな! 俺もあいつは気に入らない! 絶対に助けてやるから!」
「刀祢がその気なら、俺も協力しないとね」
刀祢の言葉を聞いた直哉は心寧と刀祢の顔を見て、爽やかに微笑んでいる。
「それじゃあ、俺は五十嵐にこのことを説明してくる」
直哉は2年3組の教室を目指して歩いていった。刀祢と心寧は2人で自分達の教室へと戻る。
小さい声で心寧が呟く。
「刀祢、助けて! 絶対に勝ってね!」
「おう! 任せておけ!」