光の示す道の先―④―
バンクーバーを巡る事件で、TPTP参入を目指さんとする、韓国の財閥、政界、官僚の醜聞も明らかとなった。
其々を代表する御曹司だけでなく、
市場に出回っていない青いSUVが見舞われた、惨憺たる経緯に関して、ロックの預かり知ることでは無かった。
だが、ドラ息子と父親達の顛末は、
特に、ブルースは語れるどころか、
『
レイナーズ署長が、公式発表で簡潔に伝えた。
不良息子たちの性暴行の訴訟、兵役逃れの海外滞在――しかも、良心的兵役拒否でなく、
無論、電脳世界にもこの動きは波及し、父親たちの韓国での悪事も明らかとなったので、彼らの安息の地は、
同誌は、
“ウィッカー・マン”来襲後の市民生活に関わってきた”ベターデイズ”も
“ベターデイズ”は、”ウィッカー・マン”被災者の救済の他に、配偶者暴力の避難場所、性的多様性を尊重する活動も行っていた為、その方面への影響が懸念されていた。
“バンクーバー・コネクション”の呼んだ関心は、“UNTOLD”と接点のあったカラスマの活動だけでなく、彼女の
“ブライトン・ロック社”と”ワールド・シェパード社”はそれを防ぐ為、彼女の子供は施設に送られることになった。
エリザベスの肝いりの場所らしいので、情報漏洩の心配も無いだろう。
また、”A Flash Of Nano”誌は、ロック達とリリスの戦った場所から、人間たちが保護されたことも伝えた。
路上に敷き詰められた
健康診断と共に、今後の生活を含めた支援が、市と”ワールド・シェパード社”の主導で進められる。
だが、彼らの政治的権利に付け込んだ政治闘争の動きを警戒して、記事は終わった。
“
“鬼火”ケネスの襲来によって、消えたキャニスの遺体と彼女の
何より、サロメの安否と、リリスの逃げ場所が、現時点でも未解明である。
“救世の剣”に入り込んだリリスに、ロックが攻撃を加えた後、サロメが体を差し出した所に放たれた、サミュエルの一撃を、彼は確かに見届けた。
だが、誰も彼女たちの
“救世の剣”の
サロメに協力していた者達に、彼女との関係に加え、消息も含めた尋問が、現在行われている。
カナダと合衆国に加え、大西洋を横断する形で行われているが、有力な証言を得ることは叶わないだろう。
“A Flash Of Nano”誌を閉じようとしたロックの両手が、止まる。
彼の眼を引いたのは”
欧州に”救世の剣”が到来した”ワイルド・ハント事件”以前より、彼の存在が確認されていることが書かれていた。
行政機関や経済団体に加え、”市民たち”は、彼に
現に、電脳空間内でも、その名を知る動きが後を絶たない。
その正体については、徹底して秘匿されている。
仮に、ロックの顔を撮影し、画像検索に掛けても、画像検索用に用意された
名前に至っても同じであり、”ワールド・シェパード社”の情報分析部門の”ハティ”にも、ロックに関する情報を削除するよう、”ブライトン・ロック社”が働きかけた。
“A Flash Of Nano”誌は、
『
そう記事の最後は、”ジェニー=オースティン”の名前と顔写真で飾られた。
――
苦笑いしたロックは、雲一つない空から照らされた日光に目を奪われる。
二つ折りした”A Flash Of Nano”誌を日傘代わりにして、考えた。
雨が止んで以来、ロックはフラッシュバックに悩まされることは無くなった。
サキの二つの
だが、シャロンは、
「ロックの
彼らの、”ウィッカー・マン”の動力炉が見える体質は変わらない様である。
シャロンが“ウィッカー・マン”から得た
シャロンによる
“ブライトン・ロック社”と”ワールド・シェパード社”の二社による初めての
ミカエラは計画の被験者として、サキを契約社員としての雇用を決定。
学業との両立もあるので、その補填はどうするかは、近い内に伝えられるだろう。
――
ロック達の戦いで、バンクーバー市は
そんな中、命を落としたキャニスへの弔いも、ロック達は満足に出来ないでいた。
“ワールド・シェパード社”――特にミカエラ――は、バンクーバー市の出来事に関しては、”ブライトン・ロック社”と協調路線を取ったが、ロック達を含めた”UNTOLD”への敵意は変わらない。
リリスとサロメの影は消えた訳ではなく、“ホステル”は組織として健在。その中の構成員が、ロックとサキへ干渉する為に、手薬煉引いているのも事実である。
先行きに立ちはだかる不確定要素群を考えていると、陽光がきつくなり、思わずロックはサキに目を向けた。
自分よりも
「……どうした?」
ロックの呆れた声に、
「……分からないのです、ロックの家」
サキが声を小さくして、項垂れる。
彼女の
TPTP加盟国ばかりでなく、世界中から寄付の受付と、開発についての会議が重なり、当面は、”ワールド・シェパード社”のナオト寄りの社員と、”ブライトン・ロック社”が贔屓にしている建築会社が、”ウィッカー・マン”占拠で放置された市街の整備に駆り出されていた。
“
そう考えるロックを他所に、
「ロックの家、見てみたいかな……」
サキが、突然言い出したのだ。
「家に帰れるなら、行っておいた方が良いよ……」
本土でも、帰る家を失うことになったサキの言葉は、ロックに反論の余地を与えなかった。
ナオトとエリザベスは、サミュエルとシャロンも合わせて、一時帰宅という名目で、
行先は、
“
サミュエルとシャロンは、事件が終息に近づいたことがわかると、姿を消していた。
――生きてりゃ、何時か
そう思いながら、ロックが、サキを案内することになったのだが、
「道も分からずに飛び出す馬鹿がいるかよ?」
鼻を鳴らして彼は、サキの前に出る。
彼の眼に伸びる、陽光に照らされた瓦礫の
振り返りつつ、サキが自分の後から付いて来る姿を捉えた。
柔らかい春の陽気を彷彿させる、サキの柔和な笑み。
彼女の黒真珠の瞳に映る、紅い外套の少年。
サキの双眸の中に映るロックの顔は、微かに笑っていた気がした。
End