第8話
「それでは今日から修行を始めるわよ!」
「今日は月曜日なので金曜日まで毎日一つの修行を行います!」
「基本五業と言います!」
「これは式神の修行ではないけど!」
「私が必要と思うから教えます!」
「今日は紙を作ります!」
「紙?」
「紙ってあの?」
「木を切るのか?」
「作ると言ってもバレンタインデーのチョコみたいなもの!」
「ああ!」
「カカオマスから作るんじゃなくて!」
「溶かして型に入れるだけの方ね?」
「それって意味あるのか?」
「意味はあるわ!」
「確かにテンパリングするわけでもなく溶かして固めるだけなんて!」
「味が落ちるだけで無意味にも思えるわ!」
「テンパリング?」
「チョコレート制作時の技法の一つ!」
「これがうまくいくかいかないかで決まるといっても過言では無いわ!」
「カカオマスから作ったかどうかなんて素人には解らないわ!」
「でも、溶かして固めただけでも手作りという事は誰にでも解る!」
「手作りチョコには言い訳は通用しない!」
「言わばもろ刃の剣よ!」
「どんな言い訳?」
「それは絶対に本命チョコである事!」
「市販のチョコなら多少高価でも義理の度合いと本人の金銭感覚で誤魔化せるけど!」
「手作りでは無理!」
「想いがバレるしフラれたら曖昧な関係も断絶されてしまうかもしれない!」
「本気紙という事だな!」
「その作った紙では失敗は出来んな!」
「そう、だから失敗はしてない!」
「あ、みこちゃんの件は別だからね!」
「あれは本来とは違う使い方だからノーカンだからね!」
「ノーカンも何もあれは命が入れなかっただけで失敗でも何でもないんだが!」
「ともかく、その考え方は解らないでもない!」
「大家ならとかかく駆け出しの書家や画家は!」
「高価な紙を使うのにはかなり精神を消耗するが!」
「それを克服しなければ大家にはなれない!」
「言い訳出来ない状況や高価な紙を使って自分を追い込み、それを克服する!」
「京子はそんな事を当たり前にこなしているという事だ!」
「そんなに褒めても何も出ないわよ!」
「では、材料です!」
京子が出したのは小さい四角状の紙で所々破れている。
「これは古い障子紙?」
「そうよ!」
「これはあるつてで貰ってきた古い家の障子に使われていた紙です!」
「ざっと100年以上前の年代物ばかりよ!」
「古物100年で魂を成すか?」
「そのとおりよ!」
「何のこと?」
「付喪神と言ってね!」
「古い物が100年経つと魂が宿って妖怪化するって言うの!」
「だから式神に使うのにはもってこいでしょ?」
「これなら誰でも成功しそうじゃない?」
「言い訳しないか!」
「凡人はするよな!」
「道具が悪いとか材料が悪いとか!」
「時間が無かったとか!」
「だが京子は時間をかけ、道具や材料にも拘っている!」
「それが天才と言われる正体!」
「と、とにかく!」
「やってみるからね!」
「まずは材料を確認します!」
「これは使用済みの障子紙だから、よく見て糊の残っている部分は切って捨てます!」
「次にこのミキサーで紙を細かくします!」
「次にこの水を張った盥と金ザルを使用します!」
「材料を金ザルに入れ、水につけ沈めて上げてこのくらいのサイズになったら!」
「乾燥して圧縮して平らにしてサイズが均等になるように切ります!」
「難しそう!」
「中々の手練れだな!」
「では、今日の修行は終わりです!」
「え?」
「どういう事だ?」
「どういう事って?」
「一度見せたから出来るでしょ?」
「私が作ったのがたくさんあるから無理に作る必要は無いし!」
「仕組みさえ解ったら問題ないわ!」
「京子さんちょっと!」
霊士は命を遮るように京子に話しかけた。
「これは面白いからもっとやりたいんだが?」
「こんなのが面白いの?」
「おかしな人ね!」
「まあいいわ!」
「修行時は特別だから寝る時は隣の部屋を使っていいわ!」
「みこちゃんも続けるの?」
「う、うん!」
「じゃあ後は任すからみこちゃんはちゃんと自分の部屋で寝るのよ!」
「わ、わかった!」
京子はそう言うと自分の部屋に戻っていった。
「やっぱり天才だよ!」
「そうだな!」
「もう出来る?」
「出来るか!」
そう言えば霊士って京子さんにかなりライバル視されてるけど。
明確な実力は解らなかったから二人とも所見のこれで解りそう。
二人はそれぞれ練習してみる。
「えーと、手順はこれで良いんだっけ?」
「違うぞ命そこは少量ずつだ!」
「よし、これで!」
「駄目よ霊士、垂直に上げるのよ!」
こうして二人は夜遅くまで練習に励みそれなりに上達した。
結局霊士は万能では無かった。
頭もよくたまに思わぬ閃きもするから京子さんに一目置かれているんだろうけど。
動作に関しては勘の良さとかの見込みの良さとかがイマイチだった。
霊士は学科が得意なタイプで命は実技が得意なタイプだった。
それに比べて京子はどちらも得意だった。
もともと才能があり、努力も人一倍している、
「普通だったら霊士なんかにコンプレックスを抱く人じゃないんだけどな!」
「おい!」
「なんかとは何だ!」
「あ、ごめん!」
「声に出してた?」
「次の修行も頑張ろうね!」
「あ、ああ!」