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校外学習と過去の因縁⑦




結人の部屋


「なぁなぁ。 藍梨さんとの同棲生活の方は、どうなってんだよ?」
その頃結人の部屋では、男子3人が呑気に恋愛話で盛り上がっていた。
「藍梨? そりゃあもう最高だぜ。 朝目覚めたら、目の前には愛しの藍梨がいる・・・。 そう考えただけでも、俺はもう天国に飛び立っていけそう!」
「七瀬さんは、色折くんの・・・彼女、だもんね。 色折くんが彼氏だなんて、七瀬さんはきっと・・・幸せ、なんだろうな」
結人と真宮の会話に、おどおどとしながらも積極的に入ってくる櫻井。 そんな彼に、二人は嬉しく思っていた。

―コンコン。

「あ、俺出るよ」
藍梨の話で盛り上がっていると突然ノックの音が聞こえ、ドアに一番近かった真宮がそう言って立ち上がる。
「ッ、真宮ー!」
「うわッ」
ドアを開けるとそこには今にも泣きそうな椎野が立っており、彼は真宮の姿を見るなりすぐさま抱き着こうとした。 だがその行為を、真宮は見事にかわす。
「なッ、おい! 真宮避けんなよ!」
「悪い悪い。 あまりにも急だったもんで」
ムキになってそう口にした椎野に、真宮は苦笑してこの場を流した。 そんな彼らのやり取りを見ていた結人は、優しく尋ねかける。
「椎野? どうしたー?」
「ユイぃ! 聞いてくれよ!」
その一言により、椎野は今までのことをこの場にいる3人に全て話した。 北野とストラップの件で喧嘩したことを、最初から丁寧に説明していく。
「ちゃんと俺は、北野にストラップを手渡して見せたんだ! 一度手に渡っているんだから、これは完全に北野のせいだろ! 
 北野が盗んだのか北野がなくしたのか、絶対にこのどちらかだ!」
椎野はベッドの上に腰をかけ、目の前にいる結人に向かって真剣な表情でそう言葉を放した。 そんな彼を見て、結人は難しい表情を見せる。
「そのストラップは、北野に返してもらったのか?」
「それは記憶にない」
「記憶にない、って・・・」
その問いには堂々とそう断言され、次に少し呆れた表情を見せた。 そして椎野は、早速本題を切り出していく。
「そこで、だ!」
「?」
「ユイには頼みがあって、俺はここへ来た!」
「頼みって何だよ」
「今日一日、俺と部屋を代わってくれ!」
「え?」
頼み事を言うと同時に両手を合わせ、深く頭を下げる椎野。 そして続けて、言葉を発した。
「今は折角の校外学習なんだ。 なのに夜騒げないなんてつまんねぇし、何か勿体ねぇ! だから今日だけでいいから、俺と代わってくれ!」
そう言って、もう一度頭を深く下げてくる。
「ッ・・・。 まぁ、朝にはちゃんと戻るなら、俺は別に構わねぇけど・・・」

―――断る理由なんて、特にないし。

「え、マジで!?」
困った表情をしながらそう返すと、椎野は一気に顔を上げ結人のことを驚いた顔で見た。
「俺は構わねぇけど、北野はいいのか?」
「いいんだよ。 北野は『返した』の一点張りだし、もう話し合いもしたくねぇ。 明日の朝には絶対に戻る! マジありがとう!」
その答えを聞いて満足そうに笑顔を見せると、真宮が口を挟んでくる。
「つか、なくしたストラップってどんなヤツ?」
その問いを聞いた椎野は、自慢するような態度で堂々と説明し出した。

「それはもうカッコ良いストラップでさぁ! まぁ普通のストラップなんだけど、黄色い旗の形をしたシンプルなものなんだ。 
 しかも真ん中には『黄』っていう文字も入っていて、まるで俺たち結黄」

「・・・」

「あー・・・。 うん。 黄色が好きな俺にはピッタリだなーって」

“結黄賊”というワードつい口にしてしまいそうになった椎野を、真宮がすぐに気付き睨み付ける。 その視線を浴びた彼は、慌てて修正を入れた。
「・・・え、何?」
そんな違和感を感じさせる彼らに、櫻井は困った表情をしながらそう問う。
「何でもねぇよ。 それより、俺が椎野と代わるのはいいんだけど、櫻井は大丈夫か?」
折角結人と櫻井の距離が縮まったというのに、今ここで自分が抜けてしまうと彼に不安を与えてしまうのではないかと思った結人は、優しい口調でそう尋ねた。
すると櫻井は一度真宮と椎野のことを見て、落ち着いてから返事をする。
「うん。 真宮くんと、椎野くんなら・・・大丈夫かな」
真宮と椎野は、櫻井が文化祭でかなり世話になった二人だ。 彼らなら少しでも慣れていて大丈夫だと思ったのか、優しい表情になりながらそう答えてくれる。
それを聞いた椎野は、突然あることを櫻井に向かって口にした。
「つか、櫻井くんってユイと真宮と同じ班だったんだな。 いい班にいるじゃんか」
「うん」
いきなり話を変えられるも、彼はその言葉に笑顔で頷く。
「よし。 じゃあ北野を一人にしてはおけないから、俺はそろそろ行くよ。 椎野、明日の朝食前にはちゃんと戻るんだぞ」
「了解! ユイマジありがとう!」
ベッドから立ち上がりながらそう言うと、椎野はもう一度両手を合わせ礼を言った。 結人はそれを受け止めた後、部屋を出て北野の部屋へと向かう。

北野の部屋に着いてノックを鳴らすと、そこからは北野ではなく御子紫が現れた。
「あれ? 椎野かと思ったぜ」
ドアを開けるなり苦笑しながら御子紫がそう言うと、結人はここで彼らのことを察する。
「・・・ここへ来たということは、椎野と北野の事情は知ってんだな」
その言葉に再び苦笑を返すと、御子紫は部屋の中へ入るよう促してきた。 するとそこには北野だけでなくコウと優もいて、少し驚いた表情を見せる。
「でもまぁ、一応大丈夫だ。 今丁度、その件について対策を考え終えたところ」
「対策? ・・・そうか。 上手くいくといいな」
結人は深くは彼らのことには突っ込まず、上手くこの場を流した。 その様子を見て、優が続けて口を開く。
「ユイは、どうしてここへ?」
「ん? あぁ、椎野が今日一日、部屋を代わってくれって」
「・・・そっか」
そう言うと、その言葉を聞いた北野は俯いて少し寂しそうな表情を見せた。 だがそんな彼を安心させるよう、結人は微笑みながら優しい口調で言葉を紡ぎ出す。
「北野、大丈夫だよ。 ・・・北野と椎野なら、すぐに仲直りできるさ」

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