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第一話 その言葉は、届かない

 私には一人、親友がいる。親友の優衣はいつもどこかを怪我しているけれど、中学生になった今も、その理由を私に教えてくれたことは一度もない。
「早苗、いつも心配してくれてありがとう」
 私がその傷に触れながら大丈夫かと口にする度彼女はそう言って微笑むから、私はもう何も聞かなくなった。昔から人の発する空気に敏感で、それ以上踏み込んではいけないという一線を見分けることだけは上手かった私が、傷だらけの彼女に唯一できる傷の癒し方がそれだったからだ。彼女が微笑む度に、実はその傷の理由を知っていることを打ち明けようかと迷ってきた。それでも、言わない。その一言はきっと、彼女を何よりも傷付けてしまうから。
 授業中、決まって突然、彼女は体調不良を訴える。教師と生徒にまたかと笑われながら教室を出る際、彼女が開けた扉の先に四人の生徒が待っていたのが見えた。部活もクラスも一緒になったことがないはずなのに、彼女はよくその四人と一緒にいた。彼女と同じように傷のある華奢な身体で待ち構える四人は、彼女が合流すると目配せだけで何かを伝えるようにお互いを見た後、五人で走ってどこかへ行ってしまうのだった。
 「これ、プレゼント」
 私が彼女にミサンガを見せたとき、彼女は慌てて自分の左腕を見ていた。私はそこにあの四人と揃えた石が埋め込まれた腕輪があることは知っていた。彼女が教室を飛び出す前には決まっていつもその腕輪から音が発されることも、その際慌てて彼女が腕輪を右手で隠していることも。だからこそあえて、ミサンガを渡した。無条件で繋がる五人の絆が羨ましくて、妬ましかった。大好きな彼女が傷付けられるくらいなら、そんな絆なんてなくなってしまえ。そんな自分勝手な願いを込めて編んだものだった。私が無理矢理に左腕に結んだそれを見て、彼女は悲しそうに微笑んでお礼を言った。大好きな彼女を傷付けているのは私だということに、見て見ぬ振りをした。
 「次のニュースです。昨日起きた爆発事故について、いつも私たちの世界を救ってくれている魔法少女たちの活躍により、事故現場で暴れていた怪人を確保しました。現場は……」
 キャスターが伝えるニュースを教師に見えないようイヤホンで聴きながら、私は右斜め前に座って授業を受ける彼女の通学鞄に目をやる。私が渡したミサンガは見事に外され、鞄の側面に寂しそうにぶら下がっていた。左腕を見ればいつもの腕輪。きっとミサンガは外すだろうと思っていた。あの四人との絆には、敵わない。
「……まぁ、いっか」
――だって優衣は、魔法少女なんでしょう?
 その一言は、きっと今日も言えない。

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