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第7話 はじまりはこの場所から


イリノアの街で兄の代わりの用事を引き受け、預かった物を渡すために待ち合わせ場所に向かっていた深琴。中央広場に着くと周りをキョロキョロ見渡してしまう。




(いったいどんな人が来るんだろう?)




そんな表情を覗かせながら待っていた。そこに仲間と話ながら歩いてくる一団があった。深琴は気づいていなかったが、その中に夕べ深琴を助けた青年の姿があった。彼は仲間と話しながら深琴のいる方に近づいて来ていた。




「今の所、賞金は俺がトップだな! このまま、今月のトップも決まりだね~まあ~俺様にかかればこんなものよ」




青年が話をしていると悔しそうにその事を聞いている仲間は声を漏らした。




「しかし、なんでヤンヤだけが、あんな美味しい盗賊一味と巡り合えるんだよ」




ふてくされたような態度の仲間。そしてヤンヤと呼ばれた青年は仲間とは逆に、にこやかな表情で答えていた。




「日頃の行いだな! ハッはっはっははー」




「ちぇ!」




そんな会話をしながら歩いているとヤンヤが深琴に気がついた。




「あれ? あの子は昨日の……女神さんかな?」




ヤンヤは深琴に近づくと笑顔で話しかけた。




「やあ女神さん、昨日は賞金を稼がせてもらってありがとう」




不意に声をかけられて、深琴はわからないといった顔のまま、ぎこちなく答えていた。




「え? 私ですか?……どこかでお会いしましたか?」




「やっぱりあの暗がりじゃ~見えてなかったか、昨日の夜セテの村に抜ける森の道で盗賊を頂かせてもらった男です」




昨夜の話をすると深琴は注意深くヤンヤを見た。そして昨日の暗がりの中で唯一はっきり見えて覚えていたのが、彼の胸板にあるマークだった。それを見て、深琴も思い出したように、はっとした表情となり応えていた。




「あ! 昨日の!――その節は助けていただいてありがとうございました」




「いや~君のおかげでガッツリ賞金稼げたんだから、こっちの方こそお礼をいいたいよ」




深琴は頭を深々と下げてお礼を言い、ヤンヤは顔の前で手を横に振りながら返していると彼の連れが軽く咳払いをして話に入って来た。




「ヤンヤ、こちらのお嬢さんは?」




「昨日俺が稼がせてもらった女神さんだ」




「女神さん?……あ、なるほど、はじめましてお嬢さん、わたくしジョージスター・クルンテル・マーハン・ナビューテリア・チャーウォン・ハマーンです」




ヤンヤの連れの一人である長い名前の男が、深琴の様子などお構いなしにグイグイと自己紹介を始めた。




「はぁ?」




ちょっと小洒落た帽子にこれまた洒落たメガネ、背は高くはなく着ている服装もどことなく洒落た感じを醸し出しているが、なぜか格好よさが出ていない男で、メガネを上げる動作もツルを中指で上げるようなインテリを自負する者がよくおこなう仕草さえも、どこかきまっていない。そんな彼のあまりに長い名前は覚えられず深琴は困り顔であったが、ヤンヤが苦笑いをしながらフォローで説明してくれた。




「ごめん! こいつ名前が長いから皆からはハマって呼ばれてんだ」




「それともう一人、そこにいるのがピロってんだ――そんで俺がヤンヤ、よろしくね」




その説明に深琴は、もう一度頭を下げながら挨拶をした。




「はじめまして! 深琴です」




深琴は挨拶を済ませると、話している間にも荷物を渡す相手が来ているかもしれないと思い、辺りを見渡してしまう。そのようすを見て誰かと待ち合わせしているのが分かったヤンヤが聞いてきた。




「誰かと待ちあわせかい?」




「はい、兄の代わりに用事を済ませる為に、ここで待ち合わせしてるんです。」




簡単な説明をヤンヤたちにすると、彼の方から深琴にお礼を込めて提案をした。




「君のお兄さんからの用事が済んだら、一緒に飯でもどうかな? 昨日のお礼も兼ねて」




良い思いつき! と言わんばかりにハマがその意見を更に押してきた。




「そうですよ! 深琴さん! 皆で食べた方が食事は美味しいし! 一緒にしましょう! お近づきのしるしにも!」




ハマの矢継ぎ早の話に深琴は押し切られるような感じで応えていた。




「え、ええ……」




「やった!」




ハマは指を鳴らして喜び、ヤンヤも食事の提案を受けてくれたので笑顔で返した。




「その用事はどのくらいで終わるのかな?」




「え~と、そろそろ来てもいいとは思うんですけど」




深琴は辺りを見ながら答えていると、一人の黒ずくめの身なりをした小さな男が近づいてきた。そして徐に手を差し出すと、か細い声でその男は言葉をかけていた。どうやら物乞いのようだ。




「何か、恵んでくれないかい……」




「あ! ちょっと待ってね」




深琴は何かあげようと自分の持っている荷物を弄まさぐる。男はその隙に、深琴の置いてある方の鞄から素早く何かを盗んでいた。そのまま男は素知そしらぬ顔をして施しを待ち、食べものを少し恵んでもらった。




「ありがとう」




そう言ってその場から消える物乞いの男と入れ違いにローブをまとった小さな老人が深琴の前に現れた。




「預かりにきたんじゃがの……」




「あなたが?」




言葉をかけられた深琴は兄に頼まれた相手だと理解したが、予想と違い年配の老人であった事に少々戸惑った感じをうけた。深琴は老人に兄から預かった物を渡す為に荷物を探すと、先程まであったはずの荷物が見つからない――どこにも見当たらないのだ。




「どうかしたのかね?」




老人が深琴に尋ねると焦りからなのか、その声も届いておらずそのまま必死に探していた。




「あれ?! ない! ない!」




さらに騒ぎ出した深琴のその様子に気がついたヤンヤたちが、何かあったものと思い深琴に近づいて声をかけた。




「どうしたの? 深琴ちゃん」




「さっきまであった荷物が! 兄に頼まれてた大切な荷物が……ないんです!」




焦りながら探す深琴――その盗むのを目撃していたヤンヤの仲間ピロが、素っ気なく深琴に告げた。




「さっきの男が何か盗って行った……あいつ多分盗賊技術シーフスキルもってるよ」




「え? さっきの人?」




ピロの言った意味をヤンヤがすぐに自身の経験値から理解して声にした。




「まさか! 悪い盗賊シャドウシーフ?」




「なんでさっき言わないんだよ! ピロ!」




ハマもちょっと焦り気味に言うがピロ本人は気にしたようすもなく。




「自分の事じゃないからさ、金にならないし」




冷静に特に感情を込める訳でもなく言うピロ。それを聞いてハマは顔に手をあてた。




「もうピロはそういうところが……」




ハマが責めるような言葉を抑える様にヤンヤが現状を把握して対処した。




「そんな事を言ってもしょうがない! とりあえずその悪い盗賊シャドウシーフ

を見つけるぞ!」




ヤンヤが言うと、みんなは手分けをして先ほどのシーフと思われる者を探し始めてくれた。

深琴も急な状況ではあるが、深々と頭を下げて皆にお礼を言う。




「あ! ありがとうございます! 皆さん、ご迷惑かけてすみません」




感謝する深琴に女性に甘い表情をするハマは笑顔で応えた。




「何言ってるの! これも何かの縁だからさ、仲間のヤンヤが稼がせてもらったお礼にもなるんだ! 皆で手分けして探すよ」




「すまないが荷物を受け取る事しか言われてないので、わしは何もできんよ」




ハマの言葉で盗んだ奴を手分けをして探してくれることになり、また荷物を受け取りに来ていた老人は、深琴に何も手伝えないことを告げると、そんな老人に屈かがんで話をした。




「はい、申し訳ないのですが、私の宿に行っててもらえませんか?」




「じゃ~そこで少し待たせてもらうよ」




深琴は宿の場所を教えると老人は宿に向かって行った。それを見送り、深琴とヤンヤたちは手分けをして盗んだ者を探す行動に移った。




「見つけたらこれで連絡するんだ」




ヤンヤが渡したのは鳥の絵が描かれた紙だったが、すぐに魔法のかけられた道具だと理解できた。各自別々の方向に探しに行くが、その時ハマがピロに指示を出していた。




「ピロ! アーマーたちにこの事を伝えてくれるかい? 人手は多い方が助かるからさ」




「わかった」




ハマはそうお願いをすると、ピロはその指示に従って仲間のもとに走って行った。

深琴、ヤンヤ、ハマ、ピロ、そしてまだ見ぬ者たちの運命が少しずつ動き始めた。



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