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御子柴のヤキモチ勉強会㉑




火曜日


テスト二日目。 昨日御子紫は、本当は勉強をやらずにそのまま寝ようとしたのだが、やはり成績のことで焦りを感じ結局は夜に勉強をした。
そのおかげか、テスト最終日の今日は何とか無事に全問解くことができ安心する。 

―――間違っているかはともかく、全部埋められたから十分だろ。

少しの手応えを感じたまま、御子紫は二日間のテストを乗り越えることができた。 あとは結果を待つのみ。 
今日も授業は午前中終わりで、テストが終え解散となった今、すぐさま教室を飛び出し隣の2組へと向かう。

「コウ!」
中へ足を踏み入れると同時に、彼の名を叫んだ。 
「あ! また来たな、御子紫!」
御子紫の姿が目に入ると、すぐに優はそう口にしこちらまで駆け寄ってくる。
「何だよその言い方。 俺たちは仲間だろ?」
少し怒ったような口調でそう発した優に対し、行く手を阻まれた御子紫はその場に立ち止まり苦笑した。
「そうだけど! でも! 最近御子紫は、コウを一人占めし過ぎだ!」
そう言って、可愛らしく頬を膨らませる。 そんな優に対し、御子紫は目を細くして彼を見据え反撃した。
「優だって、毎晩コウを一人占めしているじゃないか」
「もぉー! それとこれとは別だ!」
「何だよ別って」
二人の言い合いには終わりが見えず、そんな彼らを見かねたコウが“やれやれ”といった感じで口を挟む。
「まぁまぁ、二人共。 で、御子紫はここへ来てどうしたんだ?」
自分の席に座りながら顔だけを御子紫の方へ向け、そう尋ねてきた。 
その問いに目の前にいる優を避けるように身体を傾け、彼のことを見ながら言葉を返した。
「あ、折角テストが終わったし、一緒に帰ろうと思ってさ」
「あぁ、いいよ」
その答えにあまりにもあっさりと返事をしてしまうコウに、優は慌てて口を挟む。
「え、ちょ、コウ待ってよ! 今から俺と一緒に遊びに行くって、約束したばかりじゃん!」
「約束はしたけど、別に二人でとは言っていないだろ」

「・・・嘘つき」

「嘘なんてついていないよ」

その返事にふてくされた優は、突然とんでもないことを言い出した。
「じゃあ今からこのクラスの誰かに喧嘩を売って、コウに構ってもらうぞ!」
必死になってそう口にした彼に、コウは驚きもせず淡々とした口調で言葉を返す。

「ユイの許可なしでは人に手を出したら駄目だ」
「え、でもコウは昨日手を・・・」
「・・・」
「あ」

二人の会話を聞いていて御子紫は思わず口を滑らせてしまうと、コウはそれに気付き御子紫のことを鋭い目付きで睨んできた。
「俺が、何?」

だが――――睨んだのはほんの一瞬で、すぐ笑顔になってそう口を開く。

「いや・・・。 別に」
何事もなかったかのようにそう言い捨て、慌てて視線をそらした。

―――コウを怒らせると、怖いんだな・・・。

「え? 何?」
不自然な二人のやり取りを見ていた優は、困惑した表情で交互に見つめる。 だがそんな彼には構わず今もなお笑顔のまま、コウは御子紫に向かって口を開いた。
「御子紫、俺はいつも通りだよ。 どうしたんだよ、様子が変だぞ? もしかして、勉強のし過ぎで頭がやられたのか」
「ッ・・・」

―――コウは、黒いというか・・・何というか・・・。

「あはは・・・」
何も言い返すことができなくなった御子紫は、苦笑いをしてこの場を流す。 そしてまたもやその様子を見かねたコウは、続けて言葉を発した。
「というより、テストで分からなかったところを復習したいから、今日は遅くまで遊べないぞ」
優しい表情でそう口にした彼に、心から安心する。
―――・・・よかった。
―――いつも通りの、真面目なコウだ。
そんなコウを見て、御子紫が優しい表情になった――――その時。

「みーこーしーばぁー!」

「ん?」

―ドスッ。

突如背後から、訳も分からず蹴りを入れられる。
「いってぇ・・・。 おい椎野、危ねぇな!」
背中を蹴られたその衝撃で、御子紫は身の回りの机に思い切り身体をぶつけた。 その場に座りながら打ったところを優しくさすり、目の前にいる椎野に向かって怒鳴り付ける。
すると彼も当然、怒った口調で反抗してきた。
「御子柴こそ、どうして俺たちを迎えに来なかった! いつもみたいにずっと待っていたんだぞ!」
御子紫の目の前で仁王立ちをしながらそう言うと、彼の後ろからは北野がひょっこりと姿を現す。
「あぁ・・・。 悪い。 忘れていたよ」
椎野と北野とは、いつも一緒に放課後帰っている。 
普段は帰りのホームルームが終わるとすぐに3組へ足を運ぶのだが、今回は忘れて2組に来てしまったため素直に謝罪の言葉を述べた。
「忘れていた、って・・・。 つか、俺たちのクラスじゃなくて2組にいるし」
少し怒ったような表情をしながら椎野がそう言うと、彼の後ろにいる北野が静かな声で口を挟む。
「御子紫は、優たちに何か用でもあったの?」
「いや、用っていうか・・・。 一緒に帰ろうと思ってな」
「だから、コウは俺のものだ!」
その問いに答えると、すぐさま優が口を挟んできた。
「一緒に帰るくらいいいだろう!」
「駄目だ駄目だ! 今からは俺たちだけの時間なんだ!」
「夜は一緒にいないから、今くらいいいじゃないか!」
「だから駄目ー!」

「・・・最近御子紫は、コウとよく一緒にいるよね」

二人の言い合いを見た北野は、椎野の後ろで小さくそう呟いた。 その言葉を聞いた椎野は、目の前でコウ争奪戦を繰り広げている二人を見て、優しく微笑む。

そして――――御子紫とコウは一度関係が崩れたものの、今はいつも通りの生活に戻りいつも通りの関係になった。 今のコウは昨日とはまるで違い、普段の彼に戻っている。
あの破天荒な姿は、もう一生見られないのかもしれない。 というより――――昨日は少し、驚いた。 
あぁいう言動をするなんて“やっぱりコウは人間なんだな”と改めて思う。 だけど――――昨日の彼の一部始終を見たのは、御子紫だけ。 コウ自身もそう言っていた。
コウと誰よりも近くにいる優でさえ、知らない一面を見ることができた。 これは二人だけの秘密。 そのことが、御子紫は何よりも嬉しかった。

そしてこれからも御子紫は、コウは完璧な人間だと思い彼を敬い続けるだろう。 それにできれば、もう荒れている姿なんて見たくない。
だってまた荒れたりでもしたら、御子紫の理想であるコウの姿を――――壊してしまうことになるから。 
だからそのために、御子紫はあまりストレスをかけないよう、自分の言動に注意しようと思った。 
またあまりストレスを溜めないよう、彼のことをこまめに気にかけようと思った。 こうすることによって、少しでも楽になってくれるのなら。 

いつもみたいに優しくて、自己犠牲をするコウに――――戻ってくれるのなら。 

これは後から聞いた話だが、コウは昨日本当に勉強をしなかったらしい。 が――――全ての教科、コウが高得点を叩き出したのは言うまでもない。 
御子紫もテストは平均並みを取れていて問題はなく、苦手な数学でも――――58点は取れていた。


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