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進化



『ベビードラゴン、ショコラのレベルが上がりました』
『進化先を選択してください』

「…………。し、進化……?」

 文字を読むと、そう書かれている。
 そして絵柄にも、それぞれ名称があるのが分かった。

【火属性ドラゴン】
 ファイヤードラゴン(幼少期)
【水属性ドラゴン】
 レインドラゴン(幼少期)
【風属性ドラゴン】
 ウインドドラゴン(幼少期)
【土属性ドラゴン】
 アースドラゴン(幼少期)
【木属性ドラゴン】
 ウッドドラゴン(幼少期)
【金属性ドラゴン】
 メタルドラゴン(幼少期)
【氷属性ドラゴン】
 アイスドラゴン(幼少期)
【雷属性ドラゴン】
 ライトニングドラゴン(幼少期)
【太陽属性ドラゴン】
 サンシャインドラゴン(幼少期)
【月属性ドラゴン】
 ムーンドラゴン(幼少期)
【無属性ドラゴン】
 ドラゴン(幼少期)

「多っ!」
『ふーん、この世界は十二属性か……』
「……十二? 十一しかないぞ?」
『これ以外に『時間』の属性か『空間』の属性、多分どっちかがあるはずだ。十一しか表立った属性がないのは、『時間』とか『空間』がレアすぎるからだろう。このドチビには無理っー事だよ』
「あ、ああ、そう」
『俺には相変わらず見えないから、契約者にしか見えない仕様なんだろう。スキルとかは見られないのか?』
「……お前なんかワクワクしてねぇ?」
『ゲームみてぇでワクワクしてる』

 ワクワクしてんのかい。
 しかもゲームみたいって。
 軽い頭痛を感じながら、恐る恐るポチッと【火属性ドラゴン】を押してみる。

【火属性ドラゴン】
 ファイヤードラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『ファイヤーボール』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
[取得可能耐性]
『火耐性』
『火傷耐性』

「…………戦闘スキル……それと、耐性……」
『なあなあ、他のも教えろよ!』
「…………」

 めっちゃワクワクしておられる。
 なるほど、ジークはゲームみたいなものが好きなのか。
 しかし、それがなんだというのだろう。

【水属性ドラゴン】
 レインドラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『ウォーターボール』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
[取得可能耐性]
『水耐性』
『毒耐性』

【風属性ドラゴン】
 ウインドドラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『ウインドショット』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
[取得可能耐性]
『風耐性』
『裂傷耐性』

【土属性ドラゴン】
 アースドラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『グランドボール』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
[取得可能耐性]
『土耐性』
『裂傷耐性』

【木属性ドラゴン】
 ウッドドラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『エナジードレイン』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
[取得可能耐性]
『木耐性』
『毒耐性』

【金属性ドラゴン】
 メタルドラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『メタルパンチ』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
[取得可能耐性]
『金耐性』
『錆耐性』

「……錆耐性」
『突っ込むな。金属だからだろう』

 突っ込んだら負けか。
 と、思う事にした。

【氷属性ドラゴン】
 アイスドラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『アイシクル』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
[取得可能耐性]
『氷耐性』
『氷傷耐性』

【雷属性ドラゴン】
 ライトニングドラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『サンダーショック』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
[取得可能耐性]
『雷耐性』
『火傷耐性』

【太陽属性ドラゴン】
 サンシャインドラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『ファイヤーボール』
『フラッシュ』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
[取得可能耐性]
『太陽耐性』
『月耐性』

【月属性ドラゴン】
 ムーンドラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『ブラッドボール』
『ダークネス』
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
[取得可能耐性]
『太陽耐性』
『月耐性』

【無属性ドラゴン】
 ドラゴン(幼少期)
[取得可能戦闘スキル]
『ドラゴンパンチ』
『ドラゴンキック』
『ドラゴンクロー』
『ドラゴンテイル』
[取得可能特殊スキル]
『力強化』
『防御強化』
『鱗強化』
『素早さ強化』

「! ……あれ、なんかシンプルなドラゴンが一番強そうじゃないか?」
『その代わり耐性系はゼロだな。完全なる脳筋だろこりゃ』
「の、脳筋……」
「きゅうる」
「……この、全体的に『幼少期』と付いているのは……これからも成長するって意味なのか?」
『そうじゃないか? ほほう? 無価値な世界と思っていたがなかなかどうして……俺の守備範囲ドストライクなラインを突いてきたな⁉︎』
「…………」

 基準が分からない。
 全然分からない。
 しかし、ジークはこのゲームのような状況がドストライクなのだと言う。
 いや、しかし、それならば、だ。

「な、ならジーク、ショコラの世界を助ける方法を教えてくれないか? お前もこの世界には、その、興味が湧いたんだろう?」
『ん? ……うーん、そうだな。……まあ、確かに面白そうではあるが……』
『面白いを理由に異世界に過干渉するのは感心しないなぁ!』
「!」

 新たな声。
 これは、時折ジーク以外に聞こえる子どもの声だ。
 いつも声だけで姿は見えないが……この声は一体誰なのだろうか。

「だ、誰の声なんだ?」
『ああ、ボクの事かい? ボクはギベイン・ヌイ。彼の、ジークの小間使いとでも思ってくれたまえ〜』
「あ、ああ、そうなのか……俺は——」
『ああ、名乗らなくていいよ。人の名前を覚えるのは苦手なんだ! すぐ死んじゃうしね、ニンゲンって! それよりも異世界への過干渉は感心出来ない。ジークの好きそうな要素があるから、残してあげたい気持ちは分からないでもないけど! いや、ぶっちゃけ全然分からないけど!』
「…………」

 意外と、いや、かなりよく喋る。
 よく今まで黙っていたものだ。
 そしてどこで喋っているのだろうか?

『ボクらの——いや、君の世界は一応『閉じた世界』なんだ。この世界もそう。世界を救うとか、そういう事はこの世界の生き物がやらねばならない。そういう世界のルールがあるんだよ。それが適応されない世界もあるけれど、それはその世界の神が定めるものだ。それを破るのは、神に逆らう事。天罰ものだよ。世界同士の喧嘩にもなりかねない。分かる? とても面倒くさい事になりかねないんだ』
「……そ、そうなのか……、で、でも……!」
『待てギベイン。それなら……そのドラゴンを鍛えてなんとかさせればいいんじゃねーか?』
『うん? そのドラゴンを? ……あ、うーん、まあ、それなら確かに条理には触れないねぇ。そこの人間はそのドラゴンの契約者だし……手を課すくらいは問題ないだろう』
「! ほ、本当か⁉︎」
『それに、【界寄豆】は人間がどうにか出来る事象じゃねぇ。……そうだな……【厄災級】のドラゴンになれば、【界寄豆】を破壊する事は可能だろう。俺の『兵器』でも可能だが……居酒屋の店主風情が手を出せる値段じゃあねぇしなぁ?』
「…………」

 とても悪い笑顔だった。
 美しい顔立ちなので、余計。
 しかも『兵器』だと?

(……うん、俺が思ってるより本当にヤッベェこい)

 しかも値段。
 これまでのぼったくり的な商法を思うと、考えるのも恐ろしい。
 いや、そもそも戦車や戦闘機なども何億とかする、的な事をネットで見かけた事がある。
 それなのにこのいかにもぼったくりそうな男の取り扱う『兵器』ともなれば……。
 ……考えるのはやめよう。

「じゃあ、ショコラを強くすればいいのか。……木を燃やすんだから、火属性ドラゴンがいいのか?」
『いや、残念ながら【界寄豆】は『火耐性』がある。火属性ドラゴンで育てたところで燃やし尽くすのは結局【厄災級】並の破壊力でなければ不可能だ』
「……その【厄災級】ってのは、どのぐらいで到達するもんなんだ?」
『さあな。その世界のドラゴンの成長速度なんざ分からん。ドラゴンもそうだが、基本『幻獣種』は大雑把に五段階で強さが区分される。【無害・幼年期・成長期・その他】、【災害級・成長期】、【厄災級・成熟期】、【天災級・完熟型】、【神格級・神格化】。一部の幻獣種を除いてドラゴン種はこの【神格級・神格化】まで到達する事が多い最強生物。故に真ん中の【厄災級】程度に強くなれれば、【界寄豆】の破壊は難しくない』
「え、えーと……つまり、あと二回くらい成長すれば良いのか?」

 ショコラは。
 と、腕の中の小さなドラゴンを持ち上げる。
 可愛らしい、大きく青い瞳が忠直を覗き込み、首を傾げた。

「可愛いなぁ〜」
『…………。これはあくまで区分の話だ。その名前の横にカッコで幼年期とあるのなら、区分的にはまさに【幼年期】だろう。そいつがあと何回進化して成長するのかは分からん。だが、成長させれば今より強くなるのは間違いない。この世界の生き物であるそいつ自身が強くなり、【界寄豆】を薙ぎ払うのなら異界のルールにも反するわけじゃねぇ。お前はそいつの契約者。手助けぐらいならしても構わないだろう。だから、進化先を選べ、と言うのなら助言くらいすれば良いんじゃないか?』
「え、あ、そ、そうか。そうだな……」

 と、言われて悩む。
 こんなにたくさん進化先があるのでは、どれがショコラの為になるのか……。

「……ショコラが自分で強くなって、この世界を救う……か……」

 ショコラの世界は危機に瀕している。
 忠直は異世界の人間なので、この世界が忠直に助けを求めない限りこの世界の危機に立ち向かう事は許されない……らしい。
 だからこそ、この世界の生き物であるショコラが自分で強くなって、この世界の養分を吸い尽くそうとする【界寄豆】を破壊する。
 その手伝いぐらいなら、契約者である忠直も許される。
 世界を救えばショコラは英雄だろう。
 その為には……まず進化先を選ばなければならない。
 ショコラの為に。
 ショコラがこれから暮らす、この世界の為に……。

「うーん。ショコラはどんなのが良い?」
「きゅうきゅう」
「ええ? 俺が良いやつ? うーん」
『なんで言ってる事分かるんだろうねぇ』
『知るか』

 考えども考えども分からない。
 いや、よりどれがいいのか分からなくなる。
 特に……。

「こ、この太陽と月の属性ってどんななんだ?」
『太陽と月はいわゆる光と闇のような関係性だな。お互いに弱点であり、お互いに耐性がある。他の属性と違い、同じ属性同士、力が重なり合ったりすると相乗効果で効果が増したりするのが特徴だろう。太陽属性は回復や治癒、身体強化補助など。月属性は防御、呪いや呪いの無効化、相手への能力低下など』
「えーと、じゃあ木属性と金属製は……」
『火が水に弱く、水は土に弱く、土には風に弱く、風は火に弱い。と、同じように木、金、雷、氷もそれぞれに強い弱いがある。氷は木に弱く、木は金に弱い。金は雷に弱く、雷は氷に弱い。……まあ、八属性しかない場合は雷と氷は互いに強く弱い関係だが……この世界は十二属性のようだから、こんなところだろう』
「ふ、ふーん?」

 覚えられる気がしない。
 アラフィフの記憶力はそんなに有能じゃない、無理だ。
 と、早々に諦めて……残りの『無属性』を指差す。

「コレは?」
『まあ、名の通り他の属性に対して強くもなければ弱くもない。ただ物理でぶん殴るやつだな』
「……ふむ」

 考えなくて済むのは良い。
 属性やらスキルやら……小難しくて覚えられる気がしなかった。
 なので、ニッと笑った忠直は、この『無属性』の『ドラゴン(幼少期)』を指差す。

「これにしよう! 小難しく考えなくて良いのは良い!」
「きゅうい!」
『はあ〜? 普通ここは雷属性だろ! 王道四属性をあえて避け、攻撃重視! 破壊力重視!』
「いや、そういうのより分かりやすい方が良い。な?」
「きゅうぃ! きゅーい!」

 ショコラもそれで良いと喜んでいる。
 ジークの舌打ちが聞こえたが、忠直とショコラは『無属性』ドラゴンを選択した。

『進化先——【無属性】ドラゴン(幼少期)。決定』

 文字が浮かぶ。
 決定、を押すと……ショコラの体が光り、浮かび始めた。
 眩い光の線が幾重にも重なり、ショコラの体を瞬く間に包み、編み上げていく。
 光の中から新たに生まれたのは、青い瞳を持つグリーム色のドラゴン。
 体躯はやや大きくなり、忠直の上半身ぐらいのサイズになっただろうか。
 手足も伸び、小さくともあった翼は消えていた。
 しかし爪や尻尾は伸びている。
 二足歩行も可能なようだが、腕が大きい為地面に付いていた。
 顔付きも以前より凛々しい。

「……おお〜! ……可愛さは変わらないな!」
「きゅ、きゅー!」
『…………』

 一瞬不安そうな顔をしたショコラ。
 忠直がそう言うと、両手を広げて駆け寄ってきた。
 可愛い娘の成長に、忠直もデレデレと抱き上げる。

「おお、なかなか重くなった! はは! 大きくなったなぁ! 格好良さも加わって、イけてるぜショコラ!」
「きゅー、きゅー!」

 鳴き方も少し変わっただろうか?
 だとしても、可愛い娘に変わりはない。
 うんと撫でてやると顔を擦り付けてくる。

「可愛い、可愛い」
『おいダメオヤジ』
「だ、ダメオヤジ⁉︎」
『……とりあえずまず、その鳥を応対したらどうだ?』
「鳥?」
「きゅ?」

 鳥。
 そこに立つのは先程倒した『七色鳥』。
 キラキラとした瞳。
 疑問符を浮かべる忠直の前に、再びウインドウが現れた。

『七色鳥が仲間になりたそうにこちらを見ています』
『七色鳥を仲間にしますか?』
【はい】 【いいえ】


「……え?」

しおり