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4 話

いくら龍の手下に対して劣勢とはいえ、夜にもなれば酒場はそれなりに賑わっていた。この喧騒で頭がガンガンするので、本当に苦手だ。

そんなことを1人思っている俺はさておいて、リリーが反省会を開きだす。

「今日のクエストで、うちらのパーティーには足りないものがあるとみた!なんだと思う!?ミツル!」

足りないものかぁ。確かに、何かが足らないように思う。なんだろう。ここは思ったことを正直に言おう。

「まともな攻撃手段かな。」
「ほぅ、言ってくれるじゃねぇか。今日はたまたま運が悪かったんだよ!次は当てるわ!なんならお前に当ててやろうか!」

ギャアギャアと叫ぶリリーをガブは全力でなだめてくれている。リリー怖いなぁ。俺はそんな姿を横目にしながら、踊り子の踊りに夢中になっていた。

「踊り子…」
ふと口にしたその言葉に、リリーが反応する。
「なんだ!わかってんじゃんか!まぁ、踊り子でなくても良いが、敵の足止めが出来るやつが必要だ!」

あ、なんか当たった。

確かに、今日のクエストでもモンスターの足止めが出来ていたなら作戦通りリリーはもう一度ダイスを打っても、俺もガブも攻撃される怖れもなかったので全滅の確率がグンと下がることになる。かなりまともな意見だ。

「そしたら、ミツル。お前、ちょっとあの踊り子をナンパしてこい。」
リリーがイタズラに笑う。ガブは無理しないで良いと言っているが、これは皆の命に関わることだ。ナンパではなく、勧誘として行かなくてはならないと感じた俺は

「そしたら、ガブが変わりにいってきてくれ。」
「え!あ、はい。それでは、踊り終わった後で行ってきますね?」

なんて情けないんだろう。リリーがなにか言いたそうにしながら、じっとこちらを見てくる。
…ごめんなさい、俺には無理です。

リリーは手元の酒を飲み干すと、ガブにターゲットを伝えた。
「あの、右隅から2番目にいるおばさんを誘ってこい。」
「え、それはなんで…?」

リリーはなんとなくとだけ答え、踊りの終わったところをガブに勧誘に行かせた。前から思ってたんだが、リリーは少し賢いような気がする。なのに貧乏神なのか。よくわからんやつだ。

さて、勧誘に行ったガブがトボトボと歩いてきた。こんなに失敗したと分かりやすいリアクションはない。

とりあえず聞いてみよう。
「なんで失敗したの?」
「なんで失敗と決めつけるんですか!?まぁ、失敗でしたけど、、、どうやら」

どうやら、年齢が30に近いということで、冒険なんてしてる場合じゃないということらしい。それで踊り子というのもどうなのかと思うが、まぁ、それは仕方ないのだろう。

「とりあえず、今日はもうあきらめて、宿に…」
「ちょっと待った!」
いい加減宿でゆっくりさせて欲しかったところをリリーが割り込んでくる。寝かせてくれよ。もう疲れたんだよ。

そんな俺の気も知らないリリーは
「ここに連れてくる!」

これ長引くやつだ。


「えっと、冒険なんて流石にしてる場合じゃないんですけど…」
ミシェルという踊り子は、茶髪の綺麗な長髪をしており、容姿もそれなりに端麗だ。目鼻立ちが特に美しい。

俺がそんなことを思っていると、リリーはすかさずに言う。
「お前、行き遅れて焦ってるんだろ?」
初対面の年上に言うか。こいつ凄いな。流石にあかん、フォローせねば喧嘩になる。俺はガブの方を見ると、ガブは親指を立てた。よし、これでなんとか。

「それで踊り子をやってたとしても相手は見つかるわけないですよ!」

違う、そうじゃないんだ。なぜお前はそうなんだ。今回は首も振ってないだろう。そういえばこいつの知力はどうなっているんだろう。後で確認しておこう。あと、リリー笑ってないで何とかしてくれ。

ミシェルは二人の発言に
「なによあなた達!そんな急に失礼じゃないかしら!」
ごもっともです。
随分と女性らしい話口調だが、怒りがこもっているからか柔らかい印象は一切受けない。いや、もう怖い宿に帰らせてくれ。

ミシェルが席から立ち去っていく。リリーはその背中に語りかけた。
「容姿端麗。話口調から粗暴な訳でもないのだろう。なのに、行き遅れている。不思議とな。これから若くて綺麗な女なら沢山この後も出てくる。お前はそいつらに踊り子をしてて勝てる自信があるのか?」

ミシェルのがピタッと止まる。
「な、なによ。そんなのわからないじゃない。」
リリーは畳み掛ける。
「まぁ、厳しいだろうな。だから、これから失っていく若さと引き換えにお前は手に入れなくてはならないものがあると考える。なんだと思う?」

「な、なにかしら。」ミシェルは向き直って改めて着席する。

「金だよ。金。お前の容姿とか性格は素敵でも決定打にはなってない。そこに資産という長所を付け加えれば、お前は若いやつにはない魅力があることになる。違うか?」

リリーはすげぇな。でもそれって、典型的なダメ男を集めてないか?

ミシェルはリリーの話を聞いて、なるほどと頷く。
「でも、冒険してる人がお金持ちなんて思わないんだけど。」

正論だ。現に、説得してる人が借金持ちという全く説得力の無い状況だ。

「しかし、こいつらはここ2日で10万ハンス稼いでる。一昨日からはじめてこの金額だ。簡単なクエストでも、最近は冒険するやつが少なくて需要過多だから報酬も高い。もしパーティーにお前が来て、もう少し経験を積めば莫大な富を築くことも可能だ。うちらはあんたの踊り子スキルを必要としている。どうだ、悪い話じゃないだろう?」

「そ、そうね。たしかに、そうかも。少し考えてみるわね。明日もう一度話せないかしら?」
「よし、わかった!明日もクエストに行くから、酒場には来る。昼13時にここに来てくれ!」
リリーはそう言って、ミシェルと別れを告げた。

え、明日もクエストに行くの?
3日くらいは休ませてくれるのかと思っていたのに。

そんな俺の様子を見て、
「今日は流石にもう疲れましたよね、帰りましょうミツルさん。」
隣の天使が天使らしいことを言ってくれたので、お言葉に甘えて宿に帰った。

宿に着いて、ガブが一言言ってきた。
「明日まで、とりあえず冒険に付き合ってもらっても良いですか?そしたら少しゆっくりする時間も取るので。」

俺は、うんとだけ言う。うん、明日までと決めてもらえると少しだけ出来そうな気がする。ガブは一応、俺の鬱病の治療を考えてくれているようだ。その気持ちは少しだけ嬉しかった。

「今日もよく頑張りましたね。それじゃ、お休みなさい。」
隣で寝てる天使がそんなことを言ってくれている。俺はお休みとだけ返して、眠りについた。

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