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2話

「なるべく楽ですぐに済むやつで頼むぞ?」

そんな俺の情けない声が酒場に響く。それはそうだ。
なんせ、無気力な役職浮浪者な俺と攻撃がろくに出来ないヒーラーのガブ。この二人で出来ることなんて限られているからだ。当然、討伐という時点で不可能だ。

「これなんてどうですか???」
ガブが明るく微笑みながら語りかける。あぁ、本当にもう少しだけ、本当にもう少しだけ鬱な俺への配慮があれば美人で良い娘なのになぁ。

そう言いながら、気だるそうにクエストを見て俺は驚いた。

「解毒草5本の回収で3万ハンス?1本で6000ハンス!?このハンスってとんでもないインフレなのか!?」
正直、この価格設定日本円と同じ感覚ならとんでもない。

そんな様子で俺はガブに尋ねると、ガブは相変わらずの明るい笑顔で
「インフレというのはよくわかりませんが、1ハンス1円と思ってくれれば良いですよ?ミツルさんに分かりやすく言うならば、解毒草1本6000円です。ね?意外と簡単なものでしょう?」
「因みに、宿はいくらくらいかかるんだ!?」
「宿は二人なら狭いところで、6000ハンスですね。解毒草1本で1泊が可能です。」

なんだこれ、採集だけで生きていけるような価格じゃないか。なるほど、ガブは無気力な俺でも生きていけるような甘い世界を用意してくれたわけだ。さすがは天使!見直したぞ!

俺はギルドから貰ったお金で買った、初心者用の防具と剣を持って見てくれはすっかり冒険者になっていた。
ガブもそれらしい樫の木の杖と魔力増強のローブを身に纏い、それは見事な初心者ヒーラーになっている。
なんだかこれなら行けそうだ!

そうして、俺たちはあまりにも楽に済みそうな解毒草のクエストを受注した。これならもうすぐゆっくり出来そうだ。なんなら、明日もなにもしないで済みそうな気がする。正直、今日は頑張りすぎだ。さっさと解毒草を取ってきて宿代を稼ごう。


そんな楽勝クエストに旅立つ俺たちに、受付嬢は笑いながらいってらっしゃいと言った。
その声にはどこか気持ちがこもっていないように感じたのはきっと俺が浮浪者呼ばわりされたからなのであろう。気にせずに進む。


さて、草原に出てみると意外とモンスターが多い。確かに、龍の手下が強い勢力を持っているのでそれもそうかと思いながら、前に進む。
ただ、目の前にいるのはスライムばかりでそこまで強くなさそうだ。これなら…

そんな俺にガブは
「折角ですし、スライム一匹くらい倒してみましょうか」
と明るく話しかけてきた。

いやぁ、それは少し。なにもしてこないスライムを殺すことも辛いし、なにより、疲れそうだ。解毒草を採集する以外はしたくない。はやく帰りたい。

そんな俺の気も知らずに一匹のスライムが突っ込んできた。俺は仕方なく剣を振るう。

ザシュ

スライムは本当に弱いようで、適当に振った剣に当たっただけで死んだ。あれ、この世界、意外とちょろいぞ?俺ってば戦いの才能が少しあったりするんじゃないのか!?

そんなことを考えていることを見越してか、ガブは笑みすら見せない顔を向ける。
「スライムは、大半の人は素手で叩けば倒せるような存在ですのでお手軽です!今後は基本的に無視していきましょう!」
なんなんだそれは。俺の達成感を返してくれ。


すると俺のステータス帳を確認するようにガブは言う。俺はしぶしぶステータス帳を見てみると、基本情報だけではなく、不思議なことに今倒したスライムとその経験値が載っていた。これは驚きだ。どういう仕組みなんだろうか。


「討伐クエストでは、このステータス帳を見せてギルドの方から収入をもらうようになっているのです!」

ガブはらしくもなくナビゲーターのように振る舞う。なんだこいつ、仕事するのかしないのかはっきりしてくれ。


そんなこんなで、途中で襲いかかるモンスターを倒したりガブに助けてもらったりしながら、解毒草の生息地に辿り着いた。なんだちょろいじゃないか。

5本で十分なのだが、売れそうなのでそこに生えているものを出来るだけ取っておこう。これで当分クエストなんてしなくていい。


ガブは嬉々として解毒草を10本も抱え、
「これで当分は暮らしに困りませんね!」
と言う。

全くその通りだ。流石は天使だな、こんなに甘い世界ならはじめから言っておいてくれよ。何も強敵なんて倒さずに、解毒草屋さんでもやればいいじゃないか。


そんな甘い考えがいけなかったのだろう。目の前にいたガブの顔は突然青くなり、俺の後ろを指差していた。

俺はその指の先の方向をゆっくりとみると、それは綺麗な毛並みの、虎にライオンのたてがみを着けた5メートルもある巨体を見つけた。あぁ、これはもう無理だ。なるほど、道理で甘いと思ったら、こんな生き物が近くにいたわけだ。

ガブもこんな事態は予測していなかったらしい。この無能悪魔め。ナビゲーターの役割なんて出来ると思った俺の間違いだった。

「ミツルさん!!!逃げて!!!!」
泣きそうな顔でこっちをみてくるガブ。もう遅いだろう。俺はここで死ぬことにする。まぁ、仕方ない。俺は十分に頑張ったのだから。
そもそも生きることに希望が見いだせなかったから自殺をしたわけだからな。

俺は覚悟を決め、目を瞑る。すると、
「ダイス!」
そんな声が遠くから響いた。
その瞬間、先ほどまで口を開いていた虎とライオンのキメラのような生き物は目の前で爆散した。

「大丈夫か!?!?」
遠くからするその声の主の方を見てみると、緋色の長い髪をした、モデルのような綺麗な女性が立っていた。
…この世界の女性は皆綺麗なのか?

俺はなんとなくそちらの方をぼぉっと見つめていると、ガブは泣きながらその女性に礼を言っていた。

どうやら、その女性も解毒草目当てでここまで来ていたらしく、ガブが抱えていた10本のうち5本をその女性に差し出した。


実は、俺もこっそりと5本持っていたので15本。もう十分だろうということで、町に戻ることにした。


さて、差し出した解毒草は合計で9万ハンスとなった。宿代を考えても、大分余裕が出来たので、命を救ってくれたその女性と酒場で共に晩御飯を食べることにした。

その緋色の髪の女性は酒を豪快に飲みながら、自己紹介をする。
「私の名前はリリー!年齢は20歳!役職は魔法使いだ。よろしく!ちなみに…」

なるほど、このリリーという女性は攻撃魔法を得意とする魔法使いらしい。
ん?ちなみに?

「ちなみに、趣味はギャンブル!借金は300万ハンスだ!基本的に物事は上手く行くと思っているので、ギャンブル系の攻撃魔法しか使えない!」

あぁ、これはあかん。どう考えても今後苦労しそうな人だ。関わりたくないなぁ。

そんな思いのなか、俺はガブに向けて首を振る。ガブは満面の笑みでウィンクをすると、

「素晴らしいです!その物事を前向きに考える姿勢!私も尊敬しなくてはなりませんね!借金を負ってもなお、挑み続けるその姿は憧れそのものです!ねぇ!リリーさん!あなた、私たちの仲間になってくれませんか!?」

あぁ、またやってしまった。こいつには首を振ることはYESの意味だった。

リリーは少し戸惑いながらも
「えっと、私なんかでいいのか!?というか、そこまで褒められると逆にバカにされているようにも感じるのだが、、、まぁ、でも私なんかがパーティーに誘ってもらえるとは!正直、パーティーを組んでくれる人もいなくて困っていたところなんだ。いや、本当に助かる!是非ともこちらこそお願いしたい!」
緋色の美しいビンボー神はそんなことをおっしゃっている。あ、これ仲間になるやつだ。

いや、本当に困る。勘弁してくれ。ただでさえ俺というなんの役にもたたないような鬱病放浪者と攻撃出来ないヒーラーというパーティーに借金持ちのギャンブルマジシャンとか。もう笑えない。これで古の龍の退治とか、最早なめ腐ってるとしか思えない。

かといって、当然俺はなにもしたくないのだか、そのためには大金が必要で、大金を得るためにはクエストを受けなくてはいけないというジレンマに囚われている以上、ポンコツを集めていては戦えない。

そんな地獄のジレンマのなか、パーティーにポンコツマジシャンが加入した。

「あ、パーティーになったら借金は皆で割り勘な!私達、仲間だもんな!」
どうしよう。また本当に死にたくなってきた。

ガブは続けて、
「さぁ!明日は強力魔法使いのリリーも加えて冒険に行ぎしょう!リリーさんが一緒ならもっと経験値と稼ぎの効率の良い相手と戦えそうですね!ワクワクがとまりません!!!」

あぁ、どうしよう。絶望が止まらない。止まることを知らない。こんな、ろくに攻撃できるのがギャンブラーだけとかじゃあ、死ぬことは目に見えてる。

…死ぬのは良いんだけど、痛いのは嫌だなぁ。


そんな俺の気持ちも知らずに、綺麗な貧乏神は俺を見て
「君がこのパーティーのリーダーになるんだろ?これからよろしくな!ミツル!」
ガブとは違う、太陽のような元気な笑顔をしながら握手を求めてくる。
あぁ、これはいつものパターンだ。

俺は、そっとはにかむと差しのべられた手と握手をした。
あーあ、ただでさえ生きるのがしんどいこの世界で、更に厄介な仲間まで抱えてしまった。

こうして俺は解毒草を手に入れた分で45000ハンスを稼ぐと、300万ハンスもの借金とギャンブルマジシャンという負債を抱えることになった。

もう、どうにでもなってくれ。俺は酒を飲み干すと、眠くなったと言い、ガブが取ってくれた宿に向かって先に帰った。

こうして、俺の長い転生初日が終わったのである。

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