魔法が使えなくても可愛い先生（幼女）を愛でるだけで満足です

とある日、俺の元に王立魔法学院から一通の手紙が届いた。

フィリア＝トライデント様。
この度は王立魔法学院への入学をお願いしたくこの様な手紙を送らせて貰いました。
私は王立魔法学院で教師をしているリシア＝ファインドです。貴方の噂は前々から聞いておりました。貴方が魔(・)法(・)を(・)使(・)え(・)な(・)い(・)のは重々承知の上です。
どうか学院に来て貰えないでしょうか？　きっと私が貴方を魔法使える様にしますから。
王立魔法学院 教師リシア＝ファインドより

これは王都にある魔法学院への推薦入学の手紙だ。それも魔法が使えない事を知っての推薦入学だ。
魔法が使えないのにそれで推薦はふざけてるのかバカにしてるのしか思えん。

「でも──魔法を使える様にするか」

手紙にあった一つ文。“魔法を使える様にしますから” これがあったから直ぐに丸めて捨てなかった。
これまで幾度なく自分が出来る範囲内で魔法を使おうとしたが全てが無駄に終わり、それでも諦めずに魔法を使おうとした。

でも、それは十三歳になる時には諦めていた。原因が分からなく幾らやっても魔法が発動しないその現実をやっと受け入れて新しい道を進もうとして三年が経った今にこんな手紙を貰っても────嬉しいに決まってるじゃねーか。

別に魔法を諦めた訳じゃなかった。使えるなら使ってみたいし、使えないなら使えないで良い。もう使えなくても大丈夫な道をみつけたから。
それに、まだ俺を見捨てないで居てくれる人が家族以外にも居るんだから、これは絶対に行くべきだ。


「駄目よ」
「………」

父さん達に学院に行きたいと話すと、母さんが断固拒否を決めつけて許しが貰えない。いや、まぁ、母さんの許可なんて要らないんだけど、喧嘩したまま出て行くのも嫌だしなんとか説得しないとなぁ。

めんどくさいと思いつつも口を開く。

「ねぇ、さっきから駄目ばっかだけど、何で許可くれないの？」
「そんなの決まってるじゃない！　可愛い可愛いフィリアちゃんが王都みたいな離れた場所に行くのはお母さん許しません！」

この、過保護過ぎる親が………

まぁ、こうなったのも少なからず俺のせいもあるけど、元からこの人は過保護なんだ。何かにつけて俺を縛ろうとするし。可愛い子には旅させろって言うのにな。

「あのなぁ、ミッシェル？　フィリアは行きたいって言ってるんだから、行かせてやれ」
「貴方は心配じゃないの！？　フィリアちゃんはシルクみたいに魔法が使えないのよ！　そんなフィリアちゃんが王都の魔法学院に行くなんて私は心配で心配で！　仕方ないのよ！」


うん。心配は嬉しいけど、母さんそろそろ黙ろうか。人が一番気にしてる事をズバズバ言いやがって穏便な俺もいい加減にしないと怒るよ？

「駄目だからね！？　誰が何と言うおうがお母さんは絶対に許しません！」

泣きながら部屋のドアを開けて走って行く母さん。
それを静かに見届ける父さんと俺は母さんが見えなくなると一斉に溜め息をついた。

「フィリア、母さんには俺から言っておく。あ(・)れ(・)が(・)変(・)な(・)気(・)を(・)起(・)こ(・)す(・)前(・)に(・)明日にでも王都に行きなさい」
「うん。父さんありがとう、母さんにごめんって言っておいて」

俺は父さんに「ありがとう」と、もう一度感謝の言葉を言ってから部屋に支度を整えに行った。

「はぁ」

本当は嫌だったんだけどなぁ。母さんが反発するのは分かってた事だからなんとか説得したかったけど、あれは無理だったか。
昔から俺を何かと可愛がってくれる母さんに嫌だと思った事はない。むしろ感謝しかない。こんな魔法が使えない俺を可愛がってもくれるし魔法が使えなくても大丈夫な道を俺に提案してくれたりするから嬉しいは嬉しいんだけど、過保護な所がなんとも言えない。

あの時だって説得するのに時間掛かって兄さんが夜に転送魔法で送ってくれたし、俺が街に行こうとするだけで重装備にさせてくるし。
はぁ、困った母さんだ。それでも俺を心配してくれるから悪くは言えないけどな。

「よし。これで行けるな。後は行くって言う手紙を………」

学院への手紙を書こうとしたら部屋のドアからの視線に気づいてそっちに顔を向けると。

「………はぁ。おいで、ノエル」

母さんかと思ったらメイドのノエルがしくしく泣いて、猫耳をピコピコ動かしながらドア越しから俺を見て居て、俺が声を掛けるとドタドタ足音を立てて俺に勢い良く抱き付いてきた。
その勢いで俺は床に倒れ込み、ノエルが俺の上にのしかかってきた。

「フィリア様、王都に行ってしまわれるのですか？」
「うん。もしかしたら魔法が使える様になるかもしれないからね」
「な、なら！　私も一緒に連れてって下さい！　何でもします！　お掃除でもお料理でも、夜のご奉仕でも！」
「いや、そこまでしなくて良いから」
「チッ………。フィリア様、どうか私も連れてって下さい！　夜のご奉仕もしますから！」

うん、この際だ。舌打ちをした事は見逃してやろう。でもな、さっきから人の股間に手を伸ばそうとするのは止めろ。

「ノエル、止めなさい」
「何がです？」
「止めなさい」
「うっ………はい」

ノエルはそっと俺の上から降りてしゅん、と顔を下に向けた。うん、聞き分けの良い子だ。
俺はノエルの頭をそっと撫で下ろす様に触り、しゅん、となっていたノエルだったが撫でるとゴロゴロと喉を鳴らして満足げな顔になった。

ノエルを撫で終わると体制を整える為に起き上がってベットの方に腰を下げて座り、隣をポンポン、と叩いてノエルにも座る様に合図をした。そうすると「今からですか！　仕方ないですね～♪　優しくして下さいね！」と変な誤解をしてるので頭をチョップして大人しく隣に座らせた。


王都は獣人を差別する奴らが多いと聞くから余りノエルは連れて行きたくないんだが。
そっとノエルの頭にある猫耳を触る。うん、相変わらず触り心地は良いな。

「ひゃん！」

今の声も可愛い。獣人は耳や尻尾が性感帯みたいで触ると変な感覚がして頭がふわふわするんだとノエルから聞いた事がある。
でも、触り心地が良いからついつい触ってしまう。
ノエルは顔を真っ赤にしながらも大人しく撫でられ「うぅぅ」と唸ってる姿も可愛くてついつい触り続けてしまう、
でも、そろそろ可哀想になってきたから少ししたら止めた。

「ノエル、俺と来ると何かと大変だけどそれでも来るか？」
「はい。行きます。フィリア様が居ないなら私はここに居る意味はありませんから」
「王都には獣人嫌いが多いと聞くんだぞ？」
「はい。それでもフィリア様に付いて行きます。フィリア様が嫌だと行っても行きますからね」

迷いが無い真剣な瞳を向けてくるノエル。
分かってた。ノエルが何があろうが俺に付いて来ることなんて。ノエルから好意も分かってるつもりだ。ノ(・)エ(・)ル(・)は(・)俺(・)が(・)好(・)き(・)なんだって。だから意地でも俺に付いて来ようとする。
自意識過剰な考えかもしれないが、ノエルが良く俺に向けてくる視線と態度やらを見てたら誰だって気づくと思う。ノエルからの好意は素直に嬉しい。可愛くて美人なノエルからの好意なら俺は喜んで受けたい。でも、多分それだけじゃ駄目なんだ。容姿が良いからって結婚とか性行為とかはしちゃいけないと俺は思う。かと言って、ノエルが異性として好き？　と訊かれると少し困る。
だから、まだその好意は見て見ぬフリをする。変に気を使うより知らないフリをして居た方がお互いにも良いしな。

フィリアはそっとノエルを引き寄せて腕の中でぎゅっと抱き締めた。ノエルはそれにびっくりしたみたいだが、直ぐに頬を赤くしてフィリアに寄り添う様に抱き付いた。

「王都に行っても俺から離れるなよ」
「はい。私は貴方のも(・)の(・)ですから」

ノエルはフィリアの顔にすりすり、と頬ずりさせて「大好きです」と声を漏らした。