すごい、まどーぐ
「な、なぜ……こんな……こんな酷い事ができる……くぅ……くそぉ……なんて、無力……無力……無力……ぁあ……っ、うぅ……」
溺れるほど涙を流しているサリエリに近づく影が一つ。
その黒いローブをまとったリッチは、サリエリを見下ろして、
(勇者側がクソで、魔王側がマシなヤツ……まあ、これも異世界転生モノじゃあ、あるあるだな。もっと言えば古典か)
「ぅ……ラムド、か……こんなところで……な、何をしている……貴様には……我が王を……守る……役目が……私は……もう――」
「治療、ランク8」
「うぅ……なっ、何……バカな、ランク8の治療魔法だと?」
ボロボロだった肉体が、淡い光に包まれて、ほぼ一瞬で完治した。
サリエリは、切り傷一つない自身の両手を見ながら、
「ら、ラムド、どういう事だ。召喚士の貴様に、なぜ、これほど高度な治療魔法が使える」
サリエリの言葉を聞き流しながら、そのリッチは、心の中で、
(……つっても、魔王側が全員、お花畑主義者って訳でもなさそうだな。今、俺が擬態している、このラムドってリッチとか、心底から人間を下等種扱いしているし)
「おい、聞いているのか、ラムド! ぃ、いや、今は、そんな事を追及している場合では! とにかく我が王を……ぁ、その前に」
そこで、サリエリは、先ほどまで、子供たちが立っていた場所にかけより、
灰一つ残っていないその場で両膝をつき、
「すまない……守ってやれなくて……無力で……すまない……」
天に祈りをささげた。
心は、王を心配し、焦っている。
しかし、祈るぐらいはしてやりたかった。
また、一筋の涙が流れる。
そんなサリエリに、
「さっきのガキ共なら、勇者の魔法が当たる前に、外の小屋へ、転移魔法で送っておいたぞ」
「……は? 転移魔法? ど、どういう……」
「誰も死んでおらんと言っておる」
「バカな……子供とはいえ、数百の生命をいっせいに転移させることなど……いや、というか、そもそも、お前にそんな魔法は――」
「少し面白い魔道具が召喚できてのう。ちょいと変わった魔法も使えるようになったんじゃ。詳細は教えてやらんがのう」
「面白い魔道具って、転移や治療ができるようになる魔道具など聞いた事……って、そ、それも今はいい! ほ、本当に全員生きているのか?」
「ああ、間違いない」
「……そうか。すまない。礼を言う。しかし、なぜ? お前は、人間を軽視していたはず」
「使えるモノは使う。実験道具は何でも構わん。ネズミでも、人間の子供でも。それだけの話じゃよ」
言いながら、センは心の中で、
(もちろん、お花畑脳って訳じゃねぇぜ。ああいうのを見逃した際に善属性系の魔法威力が下がってしまうアリア・ギアス(自分に課したルール)をかけているってだけの話)
下がると言っても、自分の手で悪を行う訳ではないため、もちろん、その減少値は微々たるもの。
デジタルに言えば、ランク500以下の善属性魔法の威力が0.001%ほど下がるだけ。
(心底から、終わりたいとは思っているが……まだ終われない以上、なるべく能力は下げたくねぇ……まあ、それだけのこった)
『それに』と、心の中でつけたして、
「あと、ちょうど、ぬしに恩を売りたかったんじゃ。ハイエルフの羽が少し足らんので、今度、集めておいてくれ」
「なるほど、そういう事か……本当に、お前は、召喚魔法にしか興味がないのだな」
「それで何か問題あるかの?」
「いや、ない。……ハイエルフの羽だったな。必ず用意しておく」