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婚約者セラ・ミズキ

「……ねえセラ。 それだとこの都に住んでる人は良いけど、他の村や町に住む人達は何されるか分からないんじゃない? 略奪や暴行も考えられるし、そうなるとセラの好みの女の子が知らない間に誰かに食べられちゃうわよ?」

リリアの言葉にハッとした。
この都の中だけ無事なら良い、という問題では無かった。
やるなら、この国に住む人全員を守るつもりでいかないと。
ただそうなると、人数的にかなり厳しい状況となる。

「リリアのお陰で大事な事を忘れていたわ。 でもこの国全体を守らないといけなくなったから、何か対策を考えないと……」

セラはボッチとリアジュウを交互に見た、2人を同時に帰らせるとすぐに戦争に突入してしまう。

(どちらか1人を残すなら、事の発端のボッチにでも詰め腹を切らせるか)

「ボッチ。 この国の多くの人を巻き込んだ責任を取って、しばらく人間として生活しなさい」

「生活ってどれくらい?」

「……そうね、最低でもテルメキアがこの国にちょっかい出さなくなるまで」

この後、ボッチは数十年を地上で過ごすこととなる。
続いてセラは、リアジュウにも1つの指示を与えた。

「さて今度はリアジュウの番だけど、遺書を残しなさい。 文面だけどこの国の未来はボッチとその婚約者に委ねると」

「婚約者役の女神は、連れてきていないが?」

リアジュウの会話に周囲の大臣や妃達は、違和感を感じた。

「ボッチの婚約者役は、わたしがするわ。 影でこいつを操れないじゃない」

(うわぁ……)

リリアとリィナは思わずボッチに同情した。
セラはボッチを傀儡にする気満々だ。
自分の夢の国(百合の園)の為に、偽りの嫁を演じるつもりらしい。

そして数日後、1枚の文書が周辺各国に配られた。


【公王リアジュウが急病で逝去され、公子ボッチが後継者としてその地位を引き継ぎました。 また遺言で公国の将来については、公王ボッチとその婚約者であるセラ・ミズキに全てを委ねると言い残しており外交につきましても御二人の意思で決められますのでご承知おき下さい】

これを見たテルメキアは、威力外交で吸収併呑出来ないか使者を派遣した。



ブゥウウウウウン!

「……っであるからして、亡き弟が治めていた国の不安定な情勢をこのまま見過ごす事は出来ない。 よって叔父に行政権の全てを委譲する為、速やかに退位される事が望ましいとのことです」

ブゥウウウウウン!

「……っだそうだけど、どうするセラ?」

「答えるまでも無いでしょ、返事はノーよ。 帰ったらこう伝えて頂戴、『この国がどうしても欲しければ、力ずくで奪いに来い!』ってね」

ブゥウウウウウン!

セラのまるで見下しているかのような態度に、使者は怒りを露にした。
しかしすぐに抗議が出来ないのは、先程から大きな音を立てている物に気を取られている所為である。

「はぁ~♪ これ本当に肩叩きに丁度良いわ。 リリアも試してみる?」

「止めておくわセラ、流石に私やリィナでもダメージ受けてしまうもの」

セラが肩叩きに使っていた物、それはファランクスであった。
毎秒5000発の断罪塔が、セラにとっては肩叩きマシーンと成り果てる……。

テルメキアにとっても脅威だった全神教の魔装兵団を、壊滅させた2つの塔。
そのぞんざいな扱われ方に、使者の顔は引きつっていた。

「それはそうとボッチ。 あなた私という婚約者が居ながら、寝室に若い女性を連れ込もうとしたでしょ?」

「な、何を急に!? 根も葉もないでたらめだ!」

「私が寝室に可愛い女の子を連れ込むのは良いけど、あなたは駄目よ。 城のメイド達も全て私の彼女候補なんだから」

2人の会話を聞いて、使者は内心でほくそ笑んだ。

(どうやらセラ・ミズキが自分の欲望の為に、力ずくで婚約したようだ。 それなら新王を悪女の魔の手から救い出す名目で派兵し、そのどさくさで王家の血を根絶やしにする事も可能となる!)

使者はゆっくりと立ち上がると、戦端を開くキッカケを与えてくれた愚かな女とその操り人形と化した男に侮蔑の感情を込めながら宣戦の意思を伝える。

「あなた方のご意思、たしかに我が君にお伝え致します。 この地がテルメキア領土となる日も、そう遠くないことでしょう」

強気な使者にセラも軽く笑みを浮かべると、こう言い返した。

「反対にテルメキアがトリタリス公国の一部となる可能性も少しは考えておいた方が良いわよ、周囲の国々に応援を頼んでも構わないわ。 ただしその場合、加担した国もきっと後悔する事となるでしょう」

「その軽口、いつまで言う事が出来るのか楽しみだ」



使者が城から去っていくと、ボッチはこの国が心配になってセラに問いかけた。

「セラ、流石にあれはやりすぎだろ。 使者がテルメキアに戻れば、間違いなく即時開戦されるぞ」

「でしょうね。 だから緒戦でテルメキアはもちろん、便乗して甘い汁だけ吸おうとする周辺の国を残らず返り討ちにする。 逆侵攻を掛けるかどうかは、その後の彼らの態度次第よ」

絶対的な勝利を疑わないセラ、だが戦争はたった3人の強者の存在だけで勝てるものでは決してない。
諭そうとするボッチの顔を見て、セラはその自信の種を明かした。

「防衛線の要は私たち3人じゃないの、私たちはこの城から一歩も出る必要はない。 だって最強の守護者達がこの国を守ってくれるのだから……」

翌日、最強の守護者達の正体を知ったボッチはその場で昏倒した。
守護者達の力が振るわれたのは、テルメキア連合軍が各々の国境を越えた直後。
世界がその日、圧倒的な力に震撼した。


断罪塔の裁きの章   ~完~

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