残像
車はかなり走った。
日が暮れる頃に走り出した車は、朝になる頃やっと止まった。
「この辺りまでくればいいか」
人気の無い川の傍。
独り言のように呟き、リィーグルは車から降りた。
私も同じように車から降りる。
水辺に近づいて、リィーグルは伸びをする。
私はその隣に座り込んだ。
「どうして、どうして私を助けたの?」
聞きたくて、聞けなかった言葉を口にする。
「助けたかったのはイファの方でしょ?」
何も言わないリィーグル。
風の音だけがサワサワと通り過ぎた。
「最初はイファだけを助ける気だったんだ。
イファは自分は後でいい。それよりも、他のドールを助けてというから手助けした。
結局、イファだけを助けられなかった」
淡々とリィーグルは話し出す。
「イファは死んだと思った。その後でディメル、お前を見たときは驚いた。
ドール達は皆、散じりになって全て回収されたとも思ったからな。
お前を見つけたのは偶然だったんだ」
「偶然?本当に?だったら、なぜ黙っていたのですか?」
私は不思議そうに聞く。
「本当だ。ドールだって事を黙っていたのは、本当の事を知れば傷つくと思ったから……
その後で、イファにあった時も驚いたよ。
あの時はガードがいたから、下手な事は言えないんだって判ったしな。
こっそり貰った手紙には『サファを渡して、その代わりにイファを渡す』って書いてあった」
「なんで、それで私を引き渡してしまったのですか?私は……」
私の言葉を遮ってリィーグルは話を続けた。
「何考えてるのか知らんが、考えがあっての事だろうと思って渡してみたら、
こっちに来たドールが教えてくれたね。研究所は短命の不良品を俺に渡したんだって」
リィーグルは私に視線を合わせるように、座った。
「お前を助けなきゃって思った。
どうしてかな。イファを助けたかったのに、助けられなかったのに」
唇をかみ締め、拳を強く握り締める。
「リィーグルのせいじゃないよ」
慰めにもならない言葉を私は言ってしまった。
リィーグルは私の髪を掻き揚げて、笑った。
「お前が、ディメルが助かってよかったって今は思うんだ」
どくん。
小さく胸が躍った。いけない。だって、リィーグルはイファを……
「どうして」
「どうしてかな」
繰り返す言葉。
風だけが舞うその場所で、私はリィーグルの瞳から目が離せなかった。
やがて、リィーグルが視線を遠く、家のあった場所へと向ける。
「さて、行くか」
どれくらいそうしていたのか、唐突にリィーグルが立ち上がる。
私も同じように立ち上がった。
「何処へいくんですか?」
「さぁ?風の向くままかな」
「これからどうするんですか?」
「気の向くままに……ってね」
私の質問にはぐらかしたように答える。
「とりあえず、幸せ探しに行くか?」
「はいです」
私たちは車に乗り込んだ。
まだ見ぬ、幸せを探して。