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逃亡

「おい、起きろ!!ディメル!!」
 目の前にいたのはリィーグル。
 なんで?
「ボーっとするな、逃げるぞ」
 グイッと引かれた手は温かかった。
「ど、どうしてですか?」
 私は立ち止まる。リィーグルが助けるのは私じゃない。
「んな事言ってないで、来い!!」
 私の言葉に答えず、リィーグルは手を引いた。
 部屋から出て、館の中を人に見つからないように歩く。
 一階まで来て窓から外へ出た。そのまま、裏門まで走る。

「やっぱ、人がいるか……」
 リィーグルは舌打ちして、門を見据える。
 そこは無人ではなく、ガードが2人いた。
「ディメル、塀を乗り越えられるか?」
 突然振り返り、私に聞いた。
「え、あの、ちょっと、高い気がします」
 私は2、3メートルはある塀を見上げて答えた。
「だよな。俺でさえやっとだった」
「登って来たのですか!?」
「それ以外、道は無いだろ。と、やばっ」
 話をしてる私たちに気づいたのか、ガードの一人が近づいてきた。

「あなた達、ちょっと実験室に来て、手伝って欲しい事があるそうよ」

 館の方から聞こえた声に、ガードが足を止める。
「ですが、警備の方は……」
「そう易々とは入れない所だもの、大丈夫よ。行ってきて」
 その声はイファだった。
 イファが館へと指を差す。
「はぁ」
 曖昧な返事でガードたちが館の中に入って行った。

「逃げるのはいいけど、もう少し計画を立てて欲しいわね」
 私たちのほうは見向きもせず、足を門へと進める。
 ピピッと小さな機械音。
 私たちは茂みから出て行った。
「監視カメラにばっちり姿は映ってるし」
 ぶつくさと言いながら手を動かしている。
「暗証番号も知らないんでしょう」
 リィーグルがイファを後ろから抱きしめた。

「イファ、来い。助けてやる。今度こそ絶対」

 胸が苦しくなったのはなぜだろう。
 イファは苦しげな、悲しげな表情をする。
「このままガードを呼び戻してもいいのよ」
 それは一瞬で、イファはリィーグルの腕を解いた。
「茶番は終わりだろ。お前を助けるために俺は!」
「私は、助けて欲しいなんて思ってないわ」
 リィーグルの声を遮ってイファは言い放つ。
「行って。私はやるべき事があるの」
 イファは外を指差した。
 私はリィーグルの袖を引く。
「イファ……」
 リィーグルは手を伸ばしかけて、やめた。
 ぎゅっと宙で拳になり、やがて諦めたように手を下げる。

 私は何もいえない。
 言っちゃいけない。
 リィーグルはくるりと向きを変え歩き出す。
 イファの指先が揺れていたのを知っているから。

 しばらく歩いた所に車が止めてあった。
「帰ろうか」
 呟くようにリィーグルが言って、車に乗り込んだ。
 私もそれに続く。パタンとドアが閉まると同時に動き出す車。

 イファはきっとリィーグルの傍にいられない。
 イファは……もう、助けられるような場所にいないから。

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