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俺の連れです、仲間です3

高級住宅街へ寄り道なんて、新たな取引先開拓なのかな。
尋ねず、ついていくと、一角に黒板を出しているショップが見えてきた。
しかし、女性が入り口に行列を作って居る、何屋さんだ、黒板を凝視するとサンドイッチのメニューが書いてある。

「いつ来ても繁盛して居るな。イートインだと並ぶから、テイクアウトにする」
うん、だけど初めて来たから何が美味かな。黒板には3種類あった。
ん? 百木が勝手にオーダーして居る。まあ、いいや。お任せしよう。

ああ、かわいいお店だ。白い壁に大理石のカウンター。その向こうにはワインバーが見える。
夜も営業しているのかな? 黒い丸椅子が上品。
「動物に限らず人も群れると騒がしくなって、周りに迷惑をかけてしまう。帰社して食べよう」
思わず、百木が手にした紙袋の柄を見た。シマウマかあ。
洒落れているお店だ、野菜が多いから草食動物なのかな。
どうも、気になる。好奇心旺盛だろうか。

それに気配りが行き届いている、前から知っては居たがこういうところも凄い、社会人として仕上がって居ると思うんだ。きみの背中を追いかけていく、いつか届くと信じたい。


帰社して、百木が渡してくれたサンドイッチ。
凄いボリュームだな、茶色いライムギパンにサンドされて居るのは、アボカドとトマト、サニーレタスがぎっしり。それに、食欲をそそる色合いのパストラムハムにチキンかな。
「ターキーだよ、珍しいだろ。チーズはプロボローネ。低脂肪マヨネーズ使用でカロリー抑えているからヘルシーなんだよね」
ふうん。ぎっしりだけど野菜も多いし、たんぱく質もあって意識高い系。
「その断面が人気なんだ」
はい?
「みっちり挟んだその様が『萌え断』と呼称されて、インスタ映えするから、ああして女性が並ぶのさ」
へえ、そうなんだ。おう、美味。
BBQソースも入って居る。シャキシャキな食感もいい、人気があるのは味じゃないか?
「岡惚れってあるんだなあ」
どうした。いつの間に上着を脱いで、しかも邪魔くさそうにネクタイを首に回している。
こんなラフな格好、初見だな。まあ、今日は少し暑かったからな。
「俺はかなり分かりやすい言動だと思うけど。かつてない相手かもしれん」
「どんな取引先へいくんですか?」
「並みいるものを押しのけた強豪。いや、潜り抜けたというべきか」
曖昧でなにがなんだか。
「本当に剛腕だね、きみは」
ふうん?
「傍に居ると思想が似る。気持ちに寄り添いたいと思うからだろうな。俺は自我が強いほうなのにいつの間にか曖昧がいいなんて思ってしまう、病だろうか」
ぶつぶつ言わずに病院へ行けば善かろう。
どうしたんだ、百木。きみらしくない、覇気はどうした?
「呆けている福織。処方箋を貰うぞ」
「すみませんが薬剤師ではなく。自分は商社で花形・営業担当ですが?」
「何を言おうと通じない。混沌としてきたぞ。鉄壁を超える手段を講じねば。林のように静かに、そして風のごとく刺す。兵法を読もう、きみと出会って俺はつくづく負け戦はしたくないと思う。だから病なんだ」
煩い。どうしたんだろ。


夢を見ていたんだ。きみに追いつくことを。
このからっぽの体に乾いた風を纏わせて、いつかきっと、きみと並んでいけるんだと信じて居た。追いかけるのは苦ではないと平気な振りをし続けた。
……周りが見えない。きみしか見て居ない。



取引先へジューンブライド用の包装紙の提示に向かう。ここで巻き返しだ。
しかし、担当者が提示した包装紙を一瞥し、蔑視する。何かまずいだろうか?
「福織くん。いや、小豆(こまめ)ちゃん?」
え、今。もしかして軽んじられたのか。
小豆ちゃんだなんて、初めて呼ばれたが、良い気持ちはしない。しかし、相手は取引先。
「我々を侮辱しているのかな。きみの上司・部長さんへ連絡しておくから、今日はもう帰りなさい」



「お、お帰り。どうした、笑顔を取り繕って曖昧にしようとしてない?」
鋭いな。百木に話すと、彼は道を正してくれた。
アネモネの包装紙が法事用とは知らなかった。
華やかな花なので、これはいけると思ったのだが。
アネモネには『嫉妬』『別れ』の意味があるという。提示する包装紙の柄に迷っていた時、卒業式ではかま姿の女の子の写真をSNSで見かけ、髪に大輪の花の飾りをつけていたので「これだ」と飛びついた柄がアネモネ。花の名前は詳しくない、よく調べもせずに挑んだ僕が悪いのか。

「スノードロップの柄が隣にあったろ。その見た目で勘違いしたと思うけど、スノードロップも可憐な小ぶりの百合だけど『別れ』の象徴だからさ。卸問屋は用途まで確認しないしな」
確かに。購入の際に「何に使うんだい」は聴かれたためしがない。
「仏事用と記載しないカタログも悪いが、きみもおかしいと思わないといけない。こんな派手な柄が、一般包装紙より安価な訳。流通量が多いんだよ。法事で使うから」

如何したらと困惑する。ん、 俯いたらうなじを突かれた。指先の感触にぞくりとする。
その拍子で顔をあげた。
「混沌としているな。だけど、部長へ連絡がいく前に話してくれてよかった。俺から代替え案を提示すれば丸く収まるかも」
「きみに迷惑は、いや、僕のしりぬぐいはさせたくないや、いえ、させたくないんです」
動揺してしまった。
「甘いことを言わない、ここは会社。きみの失態を同僚の俺が埋めたらまずいか? 貸しじゃないから安堵しろ。俺は一日一善を心がけている、それなら納得する?」

取引先は、僕が接待をすることを望んでいるとまで話せなかった。
一緒に温泉施設へ行こうと言われている。
お酌で済むならとも思うが、これは枕営業の悪寒がして恥ずかしい。
口が裂けても百木には言えない、共に会社を背負おうと夢を語り合った同士だ。
部長に話して指示を仰ごう、そうする。
「天に従え」
話してから、すぐにそう返された。そうか。
「では、参加します」
人身御供のような気はするが、僕が悪いんだから上司の思惑に沿おう。
「きみはそれでいいのかい? わが部下」
え? でも、もう行くと言ってしまった。部長は俺を生かせる腹じゃないのか?

「福織、ちょっと」
あ、百木。腕をとられて、歩き出すがこの身長差。僕は引きずられそう。
給湯室に潜り込むと、百木は「聞いたぞ」と切り出す。
「なんでも上司に聞けばいいってもんじゃないだろ。きみは相談相手を間違えた。もう、全社が知ること。答えは出てる」
僕が行けばいいんだろ。
「道を違えた人に付き合ったらだめだ。きみは今まで、相手に押していたから逃げられなくなる」
え? きみは行くな・と言いたいのか。
LINE交換して、と初めて言われた。
「いい? きみはお酒を一滴も飲まないこと。ドタキャンしたら、うちの会社にダメージが来る。悪いけど、顔だけ出すんだ、直ぐ俺にLINEして。急用ができたと言えばいい、なんなら親御さんの調子が悪いと嘘でもいい。身を守れ?」
それは嫌だな、親は元気だ。引用して逃げ場にするなんて男が廃るし、何より嘘つきは、後からまた「元気になりました」と嘘を重ねていくしかない。そんなフェイクな自分は避けたい。
「嘘をつくのは嫌だろうけど、そうでもしないと、きみ。貞操の危機だと思う」
まさか、でもそうなのか。枕営業ってそうだよな。
「躱せるようには見えない」
胸に響く。
昼間はそんなに会話をしないのに、夜にだけ響く声があるのだと知った。
僕は『こんとん』という翼をもった神様ではないけれど、百木には羽根がある。
僕をいざなう、そして身軽に飛べる羽があると思う。

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