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俺の連れです、仲間です1

「あまり気にするなよ」
僕より10センチ以上も背の高い百木(ももき)が声をかけてくれた。
気づくと、いつも傍に居てくれる、それに彼は、僕より2か月先に入社したけど同時期扱いもしてくれる。
フェアであると言ってくれる有難みを覚えて居るんだ。

「福織(ふくおり)、悩み続けると、それがいつか当たり前になる。悩んでいるのが普通になっちゃうぞ」
彼のダークブラウンの髪が夜の風に揺らぐ。
アイスマッシュの髪型が、まるで風に撫でられたかのよう。
膨らませず無駄を削いだ、耳が少し隠れるその髪型が似合う、きみは清廉だから。

「気楽に行こう、同士」
そういって僕の髪を撫でてくれた、いつの間にか先を越された。
入社時は、たった2か月遅れのスタートラインだったはず。
気楽と言われても、余計に焦る。きみの背中を追いかけなければ。
いつも磨いている革靴、きみを見習ったんだ。
おかげで『ぴかぴかの新期』と揶揄されたけど、僕はきみを目指せば磨いていける。
必ず追いつくから、その背中に。

百木ばかり気にかけてしまうが、僕はこの想いの名前を知らない。
22年間生きてきて、未だかつて一目ぼれした経験が無いからだ。
この曖昧な気持ちのまま、彼の背中を追いかけている。
しかし、きみはいつも気が付けばかまってくれている。
同士だからだろうか、志が同じだという意味だろうけど。僕の勘違いか?



ああ、きみとの距離が遠くなってしまう。
冬の雪道に足を取られて、僕の社会デビューは延期になった。
採用通知を貰った会社への入社が叶わず、この商社の5月に臨時採用として雇用されて助かった。ここから立て直さねば。そう逸る気持ちで勤務開始した初日に百木と出会った。
彼は背が高く、僕より15センチは上背があるし、鼻筋通った男前。眉目秀麗というものか。
アイスマッシュの髪型が爽やかで、容姿もさながら、初見から覇気があった。
「福織くん、宜しく」

僕の名前を呼んでくれた。しかも、珍しい苗字なのに覚えてくれている。
高揚した。嬉しい。
しかし、かなり見上げないと彼の細身な胸元しかみえず。
品のあるネクタイだと思ったら、ポールスミスか。洒落ているな。
だが、見上げたまま。苦しいが、こんな事は初めてではない。僕は小柄だから。

「俺は百木。3月に入社したばかりで順風満帆とは言えないけど、この会社で一旗揚げる心積もりだ。必ず輝く職位を手にしたい、きみはどう?」

ええ、涼し気な目元に端正な顔立ちとは裏腹に、新緑より鮮烈で熱い風が吹く。
見とれそうになった。これは、出会いだろうか?
それに、スタートから挫けた僕とは違い、奇麗なレールを走る彼が眩しくて、背伸びして、僕もそうです・と胸を張った。
「折角のチャンスですっ! 自分も上へ行きたいんです」
「おっ?」
「自分の可能性を試したいんです、僕はここで腕試しではなく、骨をうずめる所存ですっ!」
「熱い、実にいいと思う。小柄なのに覇気があるから大きく見えるよ」

え、そんな事、初めて言われたぞ。自分は宣った(のたまった)ようで恥ずかしくもあり、高揚する。
でも感激だ。きみの名前を胸に刻むよ、覚えたから。百木くんっ。

「よし、今日からきみは俺の同士だ」
同士・志を同じくするものか。初見から嬉しい出会いだ。


商社の仕事は業務取引先である大手流通店舗へ包装資材やPOP用品・事務用品を卸す。
主に消耗品だ。その中でも季節の催事に合わせて前もって包装資材を提示する。
お客様が母の日のギフトを買う3か月前には、善き包装紙を提案して、催事用資材の販売実績で会社の業績をあげていく。
提案内容は先方の意向やすり合わせだろうか、僕は今一つつかめずにいるが、百木はどうも違う。世間慣れしているようだ。
僕が見て居る限りでも、抜きんでている。流石、初見で抱負を熱く語るだけあるなあ。


百木がステンドグラスのような、美麗な柄の包装紙を見せてくれた。
すごく奇麗だけど、これは卸問屋のカタログに掲載されて居ないはず?
「印刷してもらったんだ。工場へ直接、現品を持ち込んで、担当者に直談判」
えっ。よくよく聞けば、家庭でもインテリアに使う窓用のガラスフィルム、透明ビニールシートを持ち込んだという。正気か。
「福織、そんなに驚くか? 現品は窓サイズだから、W20XH91センチ。PVCが0.3ミリだから容易いじゃないか。それを工場でデータ化して、ああ、模倣じゃないよ、元々再現は不可能だし。フィルムと紙では使用するインクも違うし、発色が異なるから」
それでも、このイメージで印刷してほしいと相談したと。
「これ、分かるかい。和紙の雲龍紙という種類で、白無地に金銀の粉が舞って居る。そこへ上書きするように印刷したわけさ」
「どうしてですか」
「透けるような感じがするだろ。ステンドグラスを再現してみた」
ああ、そうなんだ。発想力が違うなあ。きみはすごいや。
「ロット生産で、一気に20000枚印刷してもらった、明日全部、取引先へ納品するんだよ。勢いつけて商談したら、全部買うって言われてよかった、もし売れ残ったら在庫だもんね。どうなっていたかなあ、商品部に恫喝されるか? アハハ」
無茶したなあ、しかし、明日納品だって? きみはどこまで先を走るんだ。
「楽しそうだね、福織。そういう顔がいいと思う」
ん? しかし、百木は工場まで出向くし、無茶な納品日を決めてきたな。
納品は商品部の認可を経て、手配準備のために中2日がお約束だろう。どんな魔法を使ったんだ。

「どうも混沌としている。おかしい、俺は興味があるとか好意が無ければ、そう簡単に声を掛けないんだけど。ふーん、そうか。曖昧なんだね」
何か言った? きみの魔法を知りたいんだが、どう切り出してよいものか。
これは営業の手腕だからな、あまり教えたがらないかもしれないし。ううん、僕は曖昧だなあ。

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