プロローグ
オルマの大通りをオートモービルが走り抜ける。
後部座席で昼風に叩かれつつ、むっと視線をそっぽ向ける男女が居た。
「なあ、本当にこいつとバディを組ませるのか」
「仕方ないだろう。傭兵協会も騎士団みたいに、規律が重視されるようになったんだ」
「だからって何で俺が」
運転する友人に毒づきつつ、シンはちらりと隣を見やる。
座っている女性、いや少女は笠を深く被り、異国情緒溢れる服を身に纏っていた。
頭一つ分低いが、硬く締められた口元は子供らしさを相殺している。
今にも噛みついてきそうな子犬、そんな印象を覚えた。
「お前は今暇なんだろう? バディといっても一ヶ月そこら、ついでに金も出る。文句は出ないはずだ」
「出るね、出まくるよ。なにより暇じゃない」
「そうか。だが決定事項だ。そういう訳だからお嬢ちゃんも我慢してくれよ」
「……お嬢ちゃんはやめろ」
「おっと、アオバさん、失礼」
運転手はラフに返すが、アオバは依然として表情を硬くしている。
むしろ段々と煮えたぎるような気配すら感じる始末だ。
しかしそんな状態でも車が止まることはなく、魔導機関を噴かせ続けて街を出た。
しばらくして森の麓までたどり着くと、後ろの二人が下車する。
「じゃあ頑張れよ。簡単な依頼だし、タバコでも吸ってるから」
「……今からでも変わらないか?」
「文句なら会長に言ってくれ」
反論のしようがない答えを返されて、渋々シンは森へと歩き出す。
五、六歩離れてアオバが追従し、ようやく運転手は肩の力を抜いた。
「無事に終わると良いんだけどな」
紫煙が風に流れた。