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第09話 掘り出し物

 今日の予定というか、王都での用事は終わった。
 元々、国家公認冒険者の承認のために来ただけだし、その認定もしてもらい、別件で報酬までもらったからもう用事は無いんだよね。
 来る途中でユーを魔族から助けるというイレギュラーもあったけど、今はクラマとマイアがレベリングをしてくれてるから、一人前の勇者になるべく頑張ってるだろう。

 そういや、昨日はバタンキューだったから聞けなかったけど、ユーは今後どうするんだろ。魔王討伐に向けて頑張るんだろうか。勇者なんだからそうするんだろな。

 三人はダンジョンに行ってるし、俺は来るなって言われてるから、今日は王都観光でも楽しもうかな。
 まだフィッツバーグの町を出て五日目なんだよね、帰りの道中で地図の場所を巡る予定だから時間は潰れると思うけど、あれだけの壮行会をしてもらってて、一週間や十日で帰ったら受け入れてくれないかもしれないからな。

 ノワールも一人じゃ暇だろうし、ノワールに乗って王都巡りをしよう。歩いて回る方が色々と立ち寄れるけど、近場はクラマ達が帰って来てから明日にでも回ればいいよね。今日は王都の端の方に行ってみよう。


 この王都ジュレは五メートル程の高く厚い壁に囲まれている。フィッツバーグの町の壁より厚くて高い。しかも広さも相当ある。フィッツバーグの町の何倍あるかも分からない、十倍以上はあると思う。その辺りはさすがに王都だ。

 人口も多いが種族も多い。
 俺達が入って来た門から王都の中央にある城までのメインストリート辺りは、ほぼ人族しか見かけない。偶に奴隷の首輪をしている者も見かけるが、それも人族が多い。
 獣人をほんの偶に見かける程度で、亜人種や妖精族などは全く見かけない。まだフィッツバーグの町で見かける方が多い。

 フィッツバーグの町では獣人は何人もいたもんね。冒険者ギルドでも犬耳アイファや馬耳ポーリンに解体係のガンさんもそうだね。アイリスの従者をしてるターニャも猫耳さんだったね。
 それが、この王都ではさっきの冒険者ギルドで冒険者をしている奴が何人かいたぐらいで、受付や職員は全員人族だったよ。

 この王都は人族至上主義なのかな?
 同じ国でも中央と地方では違うのかもね。

 ノワールでゆっくりと町並みを進んで行く。いつもながら乗り心地がいい。
 走ってる感じはしないし、背中はフワフワとまでは行かないがピッタリフィットというか、低反発の寝具みたいにいい感じなんだ。

 余裕を持って町並みを眺め、クラマ達と王都見物をする時のためにどんな店があるかも確認しておく。
 ノワールには王都の端を目指してとしか言ってないけど、どの方角か言ってないから適当に選んで走ってくれてるんだろう。宿の厩から出てそのまま道なりに走ってくれてるけど、この方角だと北に向かってるみたいだね。城の横を抜けて行くんだけど、もう城は過ぎちゃったね。

 宿で聞いた所によると、王都には東西南北に門があって、俺達が入って来た門は南門、クラマ達が出て行ったのは西門。一番大きな門はその南門で正門に当たるそうだ。
 だから南にある正門から城までのメインストリートが一番店や人も多いそうだ。俺達が泊まってる宿もそのメインストリートの脇道を入ってすぐの所にある。
 因みにフィッツバーグ方面は東だ。

 ノワールにはゆっくり走ってもらったけど、やっぱり歩く速さとは段違いで、偶に脇道に入ったりしながら一時間ほどすると寂れた場所に出てしまった。
 ここから北門まではまだ少しあると思うけど、この周辺の雰囲気は覚えがある。

 スラム街だ。

 王都にもあるんだな。ここから北東方面に行くほど酷くなっているように見えるな。フィッツバーグの町のスラム街ではいきなり襲撃されたんだよな。
 この辺りはまだマシなような気はするけど、奥に入れば同じように襲撃されるかもな。

 おや? こんな所にもお店はあるんだな。
 フィッツバーグの町のスラムにもあったけど、あれは奴隷屋だったし、こんな感じじゃ無かったよ。あっちは入ってみないと商売をやってるかどうかも分からなかったもん。

 入ってみる? 宿からは遠いからクラマ達と歩いて散策では来れないし、折角の王都だし、寄ってみるか。もう来ないかもしれないもんな、寄れる時に寄っておこう。

 ノワールを待たせて店に入ってみた。
 雑貨屋? 色んな物が雑多に置いてあるけど、食料品は無いみたいだな。
 六畳ぐらいはあるかな? そんなに大きくは無いけど、お店としては十分な広さかな。でも、ホント色んなものがあるね。え? こんなのアリ? 靴が片方だけ? こっちの鞄なんてボロボロじゃん。絶対に中古だよな。

「なんだい兄さん、買い取りかい?」
 奥から痩せた中年女性が現れた。商品の影に隠れて見えなかったよ。

「おや、冒険者かい。どんな話を聞いて来たか知らないが、今日は薬草関係は品切れだよ」
 薬草も売ってるって、ホント何でも売ってるのかもしれないぞ。

「すみません、何のお店かも知らずに入ってしまったんですが、ここは何屋さんなんですか?」
「何屋さんだ~? うちは何でも売ってるし、何でも買い取る何でも屋だ。ちゃーんと商業ギルドにだって入ってるんだからね」
 大きめの声で商業ギルドに登録をしていると主張するおばさん。
 商業ギルドに入らないで商売すると捕まるんだったね。

「それで何か買ってくのかい? それとも売ってくれるのかい? うちは冷やかしはお断りだよ。店に入ったんなら何か買うなり売るなりしとくれ」
 何か買うか売るんだね。
 前回、ダンジョンに潜った時のドロップアイテムに、爬虫類系の魔物の肉や爪や皮があるけど、それでもいいのかな。ここにあるものって買っても役に立たなそうなんだけど。

「魔物の肉って、買って……」
 おや?

「なんだいあんた! 魔物の肉を持ってんのかい? うちの売れ筋商品だよ。こんな界隈だからさ、入ってもすぐに売れちまうんだよ。ま、虫系魔物の安い肉しか入らないんだけどさ、それでもよく売れるんだよ」

 これって……

「ほれ、どんだけ持ってんのさ。あんた冒険者のわりにゃ身なりがいいから、アイテムボックスなんか持ってんだろ? 査定してやっから、さっさとお出しよ」
「え、あ、はぁ」

 仕方が無いので魔物肉を一塊出した。50センチ角のサイコロ状の肉だ。
「おやまぁ、こんなにかい。おや、ちょいと待ちなよ。これって……こりゃダークパイソン…いやいやビットバイパーの肉じゃ無いのかい⁉ 高きゅ……そこそこの肉じゃないかい」
 高級って言いかけて辞めた? 鑑定なんてしてないから何の肉かは知らないけど、収納バッグのこやしになってるだけだから売れるんならそれでいいんだけど、俺にはこっちの方が気になる。

 しかしなんでこんなに新鮮なんだいって言いながら、何やらブツブツ計算を始めたおばさんは放っておいて、気になる商品の山に近づく。
「なんだい、そんな本が気に入ったのかい? なんなら安くしよくよ。その代わり、この肉を銀貨70枚、いや銀貨80枚で売ってくれないかい」
 たぶん適正価格より相当低く見積もったな? すごく悪い顔してるもん。ヒッヒッヒって笑い声が聞こえてきそうな顔だよ。

 でもこれ、魔法書だとは分かってたけど、何の魔法書かまでは分からなかったから近寄って確認したんだけど、これって…重力魔法? あと、こっちは空間魔法かな? よく分からないけど、前にアイリスからもらった魔法書には無かったやつだ。全部で五冊か、これ欲しいな。

「これっていくらですか?」
 魔法書を一冊手に取って尋ねてみた。

「それかい? そ、それは結構、た、高いよ。あんまり高いから誰も買い手が無くてねぇ。そうだ、兄さん。この肉と交換ってどうだい」
 たぶん違うと思う。高いから売れないんじゃなくて、スラムだから魔法書に興味がある者がいなくて売れ残ってたんじゃないかな。
 この雑に積まれて埃をかぶってる所を見ても、値段もそんなに高く設定してないような気もする。
 でも、欲しいな。このおばさんって業突くそうだから、足元を見られないようにしないとな。

「この本とその肉を交換?」
「そそそそうだよ。あたしゃ読めないから分かんないけど、それって続きもんなんだろ? 本の形が似てるからそれぐらいあたしにも分かんだよ。続きもんの本は纏めて読まないと気持ちが悪くなるって昔聞いた事があるよ」

 そうか、識字率が低いから何の本か分かんないのか。
 この魔法書が本物か偽物かは分からないけど、肉と交換ならいいか。ずっと余ってる肉だからね。

「わかった、その肉と交換でいいよ。じゃあ、この本は頂くよ」
「ホントかい! それはあんたラッキーだったねぇ、そんな続きの掘り出しもんはうちぐらいしか置いてないよ? 続きもんが手に入って嬉しいだろ!」

 おばさんの方が嬉しそうだよ。本物だったらラッキーだけどね、おばさんの方がラッキーなんじゃないの? そういう顔してるよ?

「あの…」
「なんだい、もうこの肉はあたしんだよ。返せって言われても返さないからね!」
「いや、そうじゃなくて…」
 もう必死だな。さては相当ぼったくったな。

「まだこういう本が無いかなぁと」
「なーんだい、本の事かい。それならまだどっかに埋まってるかもね」
 おばさんは肉を奥に仕舞うと、積み上げてる商品? をサルベージ? トレジャーハンティング? してくれた。
 なかなかサービスがいい。よほど得したと思ってるんだろう。これが本物の魔法書なら俺の方が得だろうね。

 サルベージできた本が五冊出て来た。
 おばさんはサービスだと言って渡してくれたけど、俺は悪いからと言って、同じ肉をもう一塊出してあげた。

 なんか抱きつかれちゃったよ。キスまでして来そうだったから、それは遠慮したけどね。

 お店を出るとまだ時間があったので、もう少し奥まで行ってみる事にした。
 フィッツバーグの町のスラム街では俺も何度か炊き出しを手伝った事があるし、こっちの雰囲気も少しは知っておきたいと思ったんだ。

 奥まで行くと明らかに身体を売っていると思われるお姉さんが立っているのを何度か目にした。
 不衛生だし、ヤバそうだよな。
 立ち止まる事は無かったから襲撃も受けなかったけど、ここのスラム街はフィッツバーグっより規模が大きいのは分かった。

 奴隷屋は分からなかった。外からは分からないようにしてるもかもしれないね、フィッツバーグでもそうだったし。
 まだもう少し時間はあるけど、宿に帰って魔法書を確認しようかな。

 あ! 商業ギルドに行かないといけないんだった。
 小麦を売るんだよ。セシールさんに言われてたのに忘れてたー。
 今からでも間に合うかな。

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