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第23話 ダンジョン制覇

 【星の家】に戻ると、まだケーキ屋組がいた。
 自分達だけでは帰れないのかと思い聞いてみると、明日もレベリングを続けると言われた。
 人数が多いからレベリングの効率が悪いのかもな。レベルは上げておいて損する事は無いだろうし、やる気になってるんだから任せておこう。
 俺には経験が無いけど、レベルが上がりだした時って楽しいって言うしね。

 人数が増えて食材は足りてるのか、シスターミニーにも確認したけど、キッカ達のおかげで余裕だそうだ。
 風呂も、今日は全員で入ったと言ってた。
 俺と院長先生とミニーさんを除いた全員で入ったんだって。
 ケーキ屋組の男も? と思ってたら、そこは自重してくれたみたいだ。男三人は夕食後に入ると言ってた。

 風呂ね、昨日お姫様抱っこした時の余韻を思い出しちゃったよ。
 気持ち良かったなぁ、少しは悪戯してもよかったよなぁ。誰も見てなかったんだし。
 いやいや、それは男としてダメだ。でも、男として悪戯をしなかった方がダメじゃないのか? いやいやそんな事は無い。人間としてダメだ。

 食事終わりのアルコールも出している雑談の場で、そんな葛藤を皆に見られてたみたいで、俺は気づかなかったけど、ケーキ屋組がヒソヒソと何か企んでたようだ。

 翌日は、ゼパイルさんと店舗の外装の打ち合わせをし、材料が揃い次第作業を始めると言ってくれた。予定では竣工まで一週間も掛からないって自慢気に言われた。それが早いか遅いか知らないけど、ドヤ顔で言ってたから早いんだろう。
 でも、一人でやるんだね。そう考えればこの大きさの建物の外装を一週間なら相当早いと思うな。内装は衛星に一時間も掛からずやってもらったけどね。
 一応、外から中は見えないようにカーテンやシートで隠してあるけど、完成してるだけなんで、見られても特に問題はない。衛星が作業してる所はさすがに見られたくないけどね。

 打ち合わせだけだったので、すぐに終わってしまった。
 時間が凄く余ったので、前から考えていた『#漆黒大蛇__ピュートーン__##迷宮__ダンジョン__#』に行ってみようと思う。
 今日は一人だし、クラマもマイアもいないから文句を言われる事も無いからね。
 俺と一緒だと魔物が出て来ないからって文句を言われるんだけど、いない方がいいじゃん!
 クラマは魔物だし戦闘大好きってのは分かるんだど、マイアまでそうだとは思わなかったんだよね。上位精霊なのにさ。


 久し振りにやって来た『#漆黒大蛇__ピュートーン__##迷宮__ダンジョン__#』。来たのは二度目だ。
 前は皆出来たので賑やかだったけど、こういう洞窟系に一人って中々来るね。お化けが出そうで怖い。
 この世界ではお化けというのは死霊系の魔物なので、衛星がいる限り近寄らせる事は無いんだろうけど、怖いものはやっぱり怖い。
 衛星にはいつもより明るくしてもらって、下層を目指して歩く。
 いつも通り歩くだけ。先日、設定を変えるお願いを衛星にしたけど、悪意や敵意がある魔物はいつも通りって言ったし、ダンジョンにいる魔物って間違いなく襲ってくるわけだし、今まで通り魔物と出会わないだろうな。

 予想通り、魔物にはまったく出会わない。因みに宝箱もいくつか見つけたけど空っぽ。一度どのぐらい倒したか確認してみたいな。最下層まで行ったら聞いてみようか。
 罠も無く(たぶん、衛星が罠解除したんだろう)止まる事無く進んでいく。
 一階層に掛かる時間は十分程度。衛星に先導してもらってるから迷う事も無い。最短距離で各階層を攻略? して行く。
 50階層だという事は聞いていたので、このペースでは一時間で六階層。このままでは夕食に間に合わなくなるので走る事にした。
 走っても衛星が補助してくれるので全然疲れない。レベルも上がってるしステータスも高くなってるから無駄に、ホント無駄に走るのも速くなってる。俺が走り出すと、つられて衛星の動きも早くなる。

 俺の周りにいる衛星が四つってのは変わらないんだけど、各階層に下りた直後に他の衛星が飛び散って行くんだけど、歩いてる時より行ったり来たりを頻繁に行なうようになった。
 途中から何階層か分からなくなったけど、多分ここが最下層だと思う。

 広~いワンフロアになってるし、次へ下りる階段も無い。なにしろ玉座があるのでここがダンジョンマスターの部屋で間違い無いと思う。
 ダンジョンマスター……ちょっと見てみたかったな。
 玉座の横には魔法陣が光を放ってるので、あれに入れば地上に戻れるんだろうな。

 久し振りに時計の魔道具を出して、時間を確認した。まだ16時すぎだから、夕食には十分間に合うね。
 玉座の横、魔法陣とは逆側に各階層にあった宝箱の二倍ぐらいの宝箱があった。
 中を確認すると空っぽ。また衛星が確保してくれたんだろうけど…有難いような…迷惑なような。

 折角、広いところなんだから、ここで確認しようか。
「衛星、今日ダンジョンで取ったものを全部出してみて」

『Sir, yes, sir』

 ドッサ―――――――――――――――――――――――――!

 ……。
 ……。
 ……ハッ!

 なんだよこの量は! あまりの多さに一瞬意識が飛んじゃったよ。
 この場所って相当広いんだよ? 天井もめちゃくちゃ高いし。冒険者ギルドの倉庫なんか十個は楽に入るぐらいの広さがあるんだ。その半分を天井近くまでってどんだけ倒したの!
 ダンジョンの魔物を根こそぎ倒してもこれだけにならないんじゃない?

 せっかく衛星が出してくれたので、俺が収納しながら検証してみた。種類ごとに分けてくれているから検証はしやすかった。皮から想像すると蛇やトカゲなどの爬虫類系が多いね。という事はこれは爬虫類の肉か? ……微妙だな。
 キッカやクラマの話から、ダンジョンの魔物はドロップ品を落とすらしい事は分かっている。
 どのぐらいの魔物がいたのかは分からないけど、この量は異常だ。

 それで自分なりに予想してみた。
 キッカ達とクラマの話では、ダンジョンで魔物を倒すと魔物は魔石を残しダンジョンに吸収されるらしい。経験値はもちろん入るけど、地上と違って魔物はダンジョンに吸収される、これは俺のラノベ知識でもあった話だ。色んなパターンの読み物はあったけど、そういうパターンのものもあったと記憶している。
 更にキッカ達とクラマの話では、倒した魔物が必ずドロップ品を落とすわけではないと言っていた。

 魔石は大小あるし属性も様々みたいだけど、この量……、多過ぎ。
 でも、魔石の量から見て、全ての魔物がドロップ品を落としたとしても多過ぎる。宝箱の分を足してもだ。
 そこで俺が立てた予想は、魔物を倒してダンジョンに吸収される前に解体をしてしまう。その後にドロップ品が落ちる。ドロップ品の出現率が高ければこれぐらいにはなるんじゃないか、という予想なんだけど……わからないね。

 衛星にも聞いてみたけど、まだ和訳が変だし何とも言えないな。
『たくさん、魔物。たくさん落とすアイテム。たくさん金貨。たくさん宝石。たくさん魔石』

 たくさん以外まったく分からん。
 でも、衛星が出してくれたものを収集してたら、ラスボスの宝箱にあったと思われるものがあった。『卵』だ。
 卵って収納してもよかったのかよ! 俺は抱っこ紐で恥ずかしい思いをしながら抱いてたんだぞ!

 これって孵化するタイミングが分からないから、夜寝る時だけ出すようにして、普段は収納しておくか。周りに邪魔者がいたら前回のように勝手に追い出すだろ。

 あの孵化をして衛星がアップデートした日から、誰も卵の事を言って来なくなった事も不思議なんだよなぁ。意識疎外の何かが発動したのかな? 誰も何も言ってこないからあえて放置してるけどね。
 孵化後の卵の殻は俺の収納バッグに入ってるけど、邪魔にならないしこのまま持っててもいいか。あと卵が入ってた木箱もね。
 前回、護衛依頼で行った町で探した時の……忘れてた! 鍵もあったし、もう一つダンジョンがあったんだ! あっちもまた行ってみないといけないのか、これは大変だ。

 でも、予想通り、衛星のためのアイテム(今回は卵)があったね。これで、もう少し分かりやすい説明をしてくれるとか、俺が魔物と戦えるようなアップデートをしてくれたらいいな。初めは遠くから弓での戦闘にしたいから、今日から魔法だけじゃなくて、弓の練習の時間も多くしよう。


 大量の戦利品を収納して、転送魔法陣に入り地上へと戻る。
 ダンジョンには核となるものがあるはずなんだけど見当たらなかったな。

 あ、これって初ダンジョン制覇じゃないの? しかも単独制覇、だよね?
 まったく実感がないよ、だって魔物と一度も戦ってないっていうか、魔物を見てない。戦利品があったから魔物はいたんだろうけど、魔物の影すら見てないからね。


 【星の家】に戻ってくると、もう食事は始まっていた。
 戦利品が多過ぎて収納に時間がかかったためだな。

『『おかえりなさいませ』』
 ケーキ屋組が挨拶をしてくれると、その後から【星の家】組も挨拶してくれる。
「兄ちゃんおかえりー」「遅かったねー」「今日は肉じゃがだよー」
 温かい言葉で迎えてくれた。

「ただいま」
 挨拶を返して用意してくれていたトレーをもらって席に着く。
 もう、みんなは粗方食事が終わりそうで、飲む方が忙しくなってるようだ。
 そうだ、ドワーフの酒を飲ませてやろう。

《衛星、昨日作ってくれた『竜王の杯』をまた作ってよ。もちろん樽でね》

『Sir, yes, sir』

 ゴトン

 出てきた樽に皆が注目した。
「あ、これはね、昨日ドワーフのゼパイルさんって人に教えてもらったドワーフ国の最高級酒『龍王の杯』ってお酒なんだ。強いお酒みたいだけど、よかったらどうぞ」
「おお!? 『龍王の杯』じゃとおおおお!」
 一番初めに食いついたのがクラマ。飲んだ事があるんだろう。
 他の人達も名前ぐらいは知ってるようで、口々に『龍王の杯』と銘柄を口走って驚いている。

 クラマには俺が専用で出した柄杓で掬って、差し出されたコップに入れてやると、横からマイアがコップで樽から掬っている。
 それを皮切りに次々と差し出されるコップに注いであげた。俺が食事できないよ。

 皆に注いだ後、ようやく俺が食べ終える頃には、全員ベロンベロンになっていた。ちょっとした修羅場になってるよ、相当強いお酒だったみたいだ。
 クラマも少し酔ってるみたいだな。クラマを酔わすぐらいだから、やっぱり強いお酒なんだ。
 でも、マイアは普通みたいだね、まだペースが変わらずに飲んでるよ。

 何人かはもう酔いつぶれて寝ているので、俺がおぶって運んでいく。
 背中に嬉しい感触があるけど、これは役得って事で。ムフ
 一人を運んで戻ってくると、ケーキ屋組の全員が寝ていた。

「そんなわけねーだろ!」
 ついツッコんでしまった。
 だって、クラマとマイアまで寝てるんだ、絶対寝た振りに決まってるじゃん!

 俺のツッコみで大爆笑が巻き起こる。
 完全に出来上がってんな、こいつら。【星の家】の年少組がいなくなってる時間でよかったよ。
 年長組はまだ残ってる子もいるけど、これから社会に出て、すぐにこういうのを見る事になるからいい社会勉強だな。

 それからは、寝ている人は笑ってない人だから、ちゃんと把握しておいて順番に運んでいく。
 戻って来るごとに、寝ている人が増えて行く。どうやら全員俺に運ばせる気のようだ。というか、俺に運んでもらうために酔い潰れようとしてるみたいだ。
 なんで男の奴までなんだよ!

 全員運び終わって残りはクラマとマイア。
「むむむむ、なぜ酔い潰れる事ができぬのじゃ!」
「同感です。エイジ、もっと強いお酒は無いのですか」
 知らねーよ。

 明日もまだレベリングを続けるそうだから、もう終わりだよと言って二人を部屋に連れて戻った。
 いつまでも二人がぶつぶつと愚痴って来るから仕方が無いので、順番におぶってやったよ。

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