第21話 交流
魔法書との契約は【星の家】のある敷地で行なう事にした。
ピーチさんが契約した時に発した光は、家の外からも確認されてちょっとした騒ぎになったからだ。
契約の時に出る光は、壁の向こうにもかなり光が漏れてたようで、何事かと近所の野次馬が集まって来たのだ。契約の光だと勘ぐられる事は無かったが、何度もやるわけにも行かず、人気の無い【星の家】まで来る事にしたのだ。
衛星に頼めば何とかなったかもしれないけど、ついでに【星の家】との交流もしたかったし、ちょうど良かったと思う。何事も前向きにね。
院長先生に挨拶を済ませると、俺の家より山側へ向かって歩き、少し切り立った崖の麓にやって来た。
ここで全員に魔法書を配る。
魔法書と契約だけで魔法が使えるようになるなんてゲームっぽ過ぎるけど、#理__ことわり__#を……なんて俺にはできそうもないからこの設定は助かるよ。
金持ちか貴族しか契約をしないというけど、希少だからだろ? 誰が作ってるのかは知らないけど、俺には衛星という強い味方がいるからいくらでもコピーできるみたいだし、一度読み取った魔法書なら出してくれるんだよね。【星の家】の子達でも冒険者希望の子には渡してやろうかな。
衛星様様は今に始まったことじゃ無いけど、これで晴れて俺も魔法の使い手の一員になれそうだよ。だって魔法だよ? 絶対使ってみたいじゃん!
受け取った者は嬉々としてお礼を言って各々自散って行く。俺も便乗して魔法書の契約を済ませる。
皆に配ったのは基本の火、水、土、風の四元素の中級までだが、俺はプラス雷、氷、光、空間と回復の魔法書のしかも上級まで契約した。
これだけの魔法書を用意してくれたアイリスに感謝だね。
ん? 衛星がいるから必要ないって? 何言ってんの、俺だって将来キッカ達みたいに真っ当な冒険者をするかもしれないじゃないか。
今のままだとシュミレーションゲームか育成ゲームって感じになってるけど、そうじゃ無いんだよ、俺がやりたいのはアクションRPGなんだ。
だから、20枚の地図の残りを集めて衛星をバージョンアップできたら、そういう夢も叶うんじゃないかと思ってるんだけど、どうなる事やら。本当にアップデートできるかも確証はないんだけどね。
その為にも俺がいなくても大丈夫なようにしておかないと、気軽に遠出もできないだろ? 【星の家】は大分軌道に乗ったけど、元奴隷組はケーキ屋をオープンさせてからだね。
王都に向かうのは、現在領主様が申請している国家公認の冒険者の推薦が通って、認定と発行をしてもらうために向かう予定だけど、返事が来るまで最低でも一か月は掛かりそうだから、それまでにある程度軌道に乗せられればいいなと俺自身も期待してるんだけどなぁ。
各々魔法書と契約を済ませると、試しに魔法を発動している。
ここで問題が起こった、パタパタと倒れる人が続出したんだ。
原因は魔力の枯渇。
だってレベル10もある人なんていないし、せいぜい高い人でもレベル5。殆どの人がレベル2~4。MPだって15~30。初級の魔法を試して少し魔力が減ってる所で中級魔法一発でMP0。
死ぬ事は無かったけど、結局全員MP0になって気絶しちゃったよ。
最大MPが低いから、少し休憩したら魔力も元通りになると思うけど、これは当分中級魔法は禁止だね。
自分のステータスって見れると思うんだけど……あ、見れないか。キッカ達も自分のステータスって見れなかったもんな。
これは後で全員に限界を教えてあげないとな。口頭で言ってもいいんだけど、予備に鑑定水晶を持ってたから全員に使ってもらって確認してもらおう。その方が信用してくれそうだ。
マットを衛星に作ってもらって、そこに纏めて皆を俺が運んだ。
決して女性をお姫様抱っこをしたかった訳じゃ無いんだよ? やっぱり仲間だからさ、この魔力の枯渇だって俺にも責任がある訳だし、衛星に頼まずに俺が全員を運ばせて頂きましたよ、はい。
レベルは上がってるんだし軽いもんだった。でも……柔らかいんだね。ムフ
身体全体がさ、なんていうか気持ちのいい柔らかさっていうの? 触れてるだけで気持ちがいいっていうか、あ、胸は全く触って無いからね、不可抗力とかも無かったから。
匂いなんかもさ、いい香りがするんだよ。これも役得という事で。いやいや、こんな時に不謹慎だったね、反省反省……ムフ。落ち着け、我が息子よ。健康な男子という事で勘弁してほしい、ちゃんと男三人も運んだんだからさ。
皆が気が付くまでの間に魔法の検証。
崖に向かって色々試した。今の俺はレベル152、MP1687だから上級魔法を使っても問題無い。
いつか使うその時のために、魔法の検証とすぐに発動できるように練習を兼ねて、皆が気が付くまでの一時間程ずっとやってた。
ずっとやれてたのは理由があってね、MPが半分を切ると、いきなりMAXまで回復するんだ。初めは気付かなかったけど、いつまでも疲労感が無いので頻繁にステータスを確認しながらやってると判明したんだ。
剣や弓の練習とか歩いてても疲れない、いつも衛星がやってくれる補助をMPにも施してくれてたみたい。
クラマとマイアに経験値を分けてもらってレベルアップした時には、こういうのが無かった事を思うと、あの時は急激なレベルアップで判断がつかなかったのか、前回の卵によるアップデートでできるようになったのか。
衛星は話せても変な和訳だから分からないので予想でしか無いけど、何か理由があったんだろうね。
この場所って、こういう練習をするのにいい場所だから、今晩から出来る限り毎日練習しよう。ついでに弓と剣もね。
皆、気が付いたから昼食を衛星に作ってもらって食べた後、【星の家】に寄ると、院長先生が夕食を一緒に食べましょうと勧めてくれた。
交流にはちょうどいいと思って、夕食まで畑や倉庫で元奴隷組も手伝った。
元奴隷組っていつまでも言うのも嫌だな。ケーキ屋組にしようか。
ここに戻って来てからクラマとマイアはすぐに別行動でいなくなっていた。前から言ってた砂糖の為のサトウキビやてん菜の件で植える場所を決めると言ってたから、俺は加工の為の倉庫をもう一軒と加工機械を衛星に作ってもらった。
機械と言っても電気で動くものじゃない。何で動くのかは知らないけど、コードやコンセントが無いから電気ではないと思う。
サトウキビ用とてん菜用の二台あるけど、やっぱり味が違うのかな?
夜にはクラマとマイアも帰って来たし、キッカ達も帰って来た。
全員で食事を終えると、少々のお酒を嗜んだ。
その席で全員の最大魔力が低いから中級魔法を禁止と伝えたら、キッカ達も魔法書が欲しいというので三人分、俺と同じ上級まで全冊渡してあげた。
キッカ達は大喜びして、ケーキ屋組をレベリングしてあげると提案してくれた。
そしたらクラマが尻馬に乗って、レベリングなら任せろと豪語した。その時のキッカ達三人の顔は能面みたいになってたけどね。
あと、院長先生から炊き出しは来週に決まったと話が出た時、ケーキ屋組が食い付いた。
手伝うと言い出したんだ。
この【星の家】も俺が面倒をみてると聞いてたから、それなら仲間だから是非手伝いますって全員が言い出したんだ。
もう【星の家】に関しては、俺は何もやってないんだけどね。
子供ばかりを行かせるのも心配だったし、女性が多いとはいえ魔法も覚えたんだし人数は多い方がいいだろ。という事で、炊き出しの手伝いをお願いするとまた怒られた。
命令してください。だってさ。たぶん、もうちょっと慣れるまで無理だと思います。
ケーキ屋組の女性陣は俺の家に泊まる事になった。
一階で雑魚寝。俺は小屋を出して寝ようかと思ってたけど、マイアが二階でクラマも一緒に三人で寝ようと言うんで、そうする事にした。
布団は衛星に人数分作ってもらい、風呂も教えておいた。この時間なら誰も入って無いだろうし、もし入ってても院長先生かミニーさんだろうしね。
タンスは無いけど、収納バッグがあるから布団は畳まなくてもいいから朝はそのまま顔を洗って食堂に行くように伝えておく。
俺は今日から修行だ。
今日、皆で魔法書との契約をした場所で、各種魔法と剣と弓の練習をしてから寝る事に決めた。
熟練度ってのがあるらしいんだけど、剣も弓も何も上がって無いから魔法も上がらないと思う。
でもいいんだ。もしもの時のために慣れておきたいだけだから、熟練度が上がらなくてもいいんだよ。どうせ魔物とは出会わないんだしな。
おっと、そうだ! 衛星がアップデートしてから試して無いけど、『守ってくれ』から変更や追加はできるようになってない?
ついでだ、試してみよう。
「衛星、そろそろ俺も戦えるようになって来たと思うんだよね。どうだろう、俺も少しは魔物と戦わせてくれない?」
返事が無いね、予想通りか。じゃあ、前から考えてた事を試してみよう。
「じゃあさ、人間でも毎回応戦して気絶させてるやつ、あれをもう少し制限できない? 悪意がある者や殺気を向けて来る奴には今まで通りでいいんだけど、そこまでじゃない場合は気絶までさせないように手加減できない? 魔物にもそういうのはいると思うんだよ。敵意が無いとか、あっても放っておいても大丈夫な奴とかさ。そういうのは少し痛めつけて追い払うぐらいに手加減できないかな」
悪意とか敵意とか、俺には分からないけど衛星なら分かるんじゃない?
『processing is complete』
おっ、反応した。変えてくれるのかな? でも英語じゃ分かんないわ。
「日本語で言ってくれる?」
反応無しか。こういうのは訳してくれないんだね。
ま、ものによっては変更可能って事が分かったから今日の所はいいか。
明日は、皆でレベリングみたいだから、俺は町で外装工事の相談だな。