第０４話 まだ冒険者ギルド。
レベル１じゃない事はマスターに確認してもらった。
別の悩ませる案件が増えたけど、その誤解もその内解けてくれたらいいな。
残り一個の水晶玉はキッカに渡しておいた。
キッカ達はまだまだレベルを上げていくだろうし、上がったレベルも気になるだろうからね。
マスターと共に一階に降りると、受付より先に倉庫へと連れて行かれた。
馬耳ポーリンもいた。また睨んでる。なんでそんなに睨むのか、まったく身に覚えが無い。睨まれてる人に聞く事なんて俺にできるはずも無く、できる限り目線が合わないようにしていた。
マスターに促されて素材を出していくキッカ。
解体済みだったが、素人の俺が見ても分かるぐらい、#杜撰__ずさん__#な解体だった。
皮も穴だらけ骨や牙や爪も傷が多いし欠けてる所もあった。
骨に肉がたくさん付いてたり、オークの頭がどーんと出されたりもしている。
これは酷いね。誰か解体を教えてあげられないのかな。
「素材はいいが、これは酷いな。買い値も相当下がるぞ。それでもいいか？」
「確かにこりゃ酷いな。腕も悪いんだろうが、道具も大した物を持ってないんだろ」
マスターの言葉に被せるように、買い取り倉庫の担当のガンドランダーさんが割って入ってきた。デカイ熊の獣人だ。
「道具？」
解体用は普通のナイフとは違うのか？ という疑問でつい口から漏れてしまった。
「そんな事も知らないで解体してたのか。前に納めてくれた時は、どこのプロが捌いたのかと思ったが、今回はお前さんがやったんじゃないよな？ なんで教えてやらないんだ」
前に買い取りしてもらった時は衛星が解体したものだからね。そりゃ綺麗だろうさ。
教えろって？ 俺にそんなのできるわけないじゃん。無茶を言うんじゃないよ。
「すみません、教えられないですね」
「そんなに秘密にする事でもねぇだろ。ケチケチせずに教えてやれよ」
そう捲くし立ててくるガンドランダーさんにマスターが割って入ってくれた。
「ガンさん、イージには事情があるんだ。察してやってくれ」
「事情？ 解体のコツを教えるのに事情なんかあるんですかい？」
「のろ……い、いや、エイセイのせいなんだ」
「エイセイ？ あ、衛生って綺麗にする？ 意味がわかりませんね」
衛星もアウトだけど、今、呪いって言いかけたよね。大丈夫かな、マスターの口って軽いのか？
困ってる俺を見てケンが出てきてくれた。
「すいません、あっしらのためにイージさんにご迷惑をかけちまって。あっしは今日からここで修行させてもらおうと思います。どうでしょう、マスター、おやっさん、あっしを雇ってくれませんか。報酬はいりません。でも、なるべく短期間で教えてくれませんか」
そんな事を言い出すケンに困ったのがマスターとガンドランダーさん。
「ただで働いてくれるって言うのなら断る事も無いが、ここの責任者はガンさんだ。どうするガンさん」
「おやっさん！ お願いします！」
「おやっさん…おやっさん……」
ガンドランダーさんがメッチャ照れてるね。おやっさんと呼ばれて嬉しかったのかな？
「ゴホン…報酬無しはいい心意気だ。だけど捌く魔物は売り物だ、素材を無駄には出来ないんだ。どの程度経験があるんだ？ この解体済みの素材を見れば大体分かるけどよ」
気を取り直しケンに尋ねるガンドランダーさん。
「はい、完全な独学です。誰かが解体している所も見た事がありません。素材に関しては自分で捌く分は持って来ます。その解体したものも授業料としてこちらに納めます。それでどうかお願いできませんか、おやっさん！」
「おやっさん……」
おやっさんと呼ばれて感動してるのか、復唱して上を見上げた後、目を閉じ言葉を噛み締めているガンドランダーさんだった。
これは落ちたね。
「分かった、明日からでも来たらいいぜ。但し！ 授業料はいらん。素材は持ってきてもらうが、解体したものはそのまま自分のものにすればいい」
「おやっさん！ ありがとうございます！」
「なーに、いいって事よ」
なんだ、この三文芝居！ ケンが入るとこうなるのか？ 三文芝居はヤスのせいだと思ってたよ。
解体は最悪だったが元が高レベルの魔物だったので、金額としては白金貨三枚程になった。
そのお金を受け取ると、通常受け付けの窓口へ移動する。ランクアップで冒険者カードの書き換えのためだ。だから俺には関係ないんだけど、一緒に行こうとすると呼び止められた。
馬耳ポーリンだ。
「エイージ、あなたいつまで私を無視するつもり？」
「え？」
無視するっていうか、よく睨まれてるんで目を合わさないようにしてただけなんですが。
「私がずっと話し掛けてって、視線で合図を送ってるのに随分じゃない」
え？ そういう合図だったの？ 俺には何か恨まれる事があって怒ってるとしか思えなかったんですけど。
「えーと…どういう事ですか？」
「最近、孤児院の子達が蒼白草と月光草を持ち込んでくれてるのは、あなたが絡んでるんでしょ？」
もう【星の家】から持ち込んでるんだな。誰が来たんだろ？ 何か不手際でもあったかな？
「うん、薬草関係は俺も手伝ってるけど、何か問題がありましたか？ もし、問題があったらすぐに直させるけど」
「とんでもない！ 問題なんて無いわ。こちらとしては大変助かってる。蒼白草も月光草も薬草の中でも上位種だから、いつでも不足気味なの。通常、低ランクの薬草や毒消し草の採取依頼はあなたも知ってる通りヨモギ系やシソ系の雑草に近いものだから、蒼白草も月光草も非常にありがたいの」
だったら問題は無いんじゃないの？
「萎れてたとか？」
「いいえ、鮮度も良かったわ。半分はキチンと乾燥させて来てくれたし、残りの半分も採れたてのように瑞々しかったわよ」
乾燥させてる分もあったんだ。それは知らなかったな、誰がやってくれたんだろ。院長先生あたりかな？
「じゃあ、何が問題なの？」
「さっきも言ったけど問題なんてないわ」
「だったらなんで呼びとめられたんですか？」
「そ、それは……ケ…いえ……あの、ケー……コホン、折角の機会だからハッキリ言いましょう」
ポーリンさんは少し口籠ったが、何かを吹っ切ったように話を再開した。
「ケ、ケーキを分けて欲しいのよ」
「ケーキですか？」
そんなに気合を込めて言う事？
「ケーキぐらいならいつでも……」
「ぐ、ぐらいって…そうなの⁉ でも、中々言い辛かったのよ。私って初めはあなたの事を見下してたでしょ？ でも、あなたは冒険者ギルドに、特にここの買い取りに非常に貢献してくれてるわ。しかも、今回の薬草の件でしょ。その上ケーキもって言い辛かったのよね。もし、売り物ならお金を払うからケーキを分けてくれない？ 前に貰った時の味が忘れられなくて」
やっぱりポーリンさんも女子なんだね。甘い物が好きなんだ。
「じゃあ、今一個持ってるんで、渡しておきます」
と、ケーキを箱入りで一ホール渡した。
「でも、アイファには偶に渡してるんですけどね。今日も渡したんだけど、こっちには分けてくれないんですか？」
「そうね、こっちは買い取り窓口で倉庫とは関わりが深いけど、受付窓口とはあまり関わりが無いわね。全く無いって訳じゃ無いけど、お裾分けする程じゃ無いわね。それで、このケーキは貰ってもいいの？」
「はい、特に売り物って訳じゃ無いし、注文を受けて作ってる訳でも無いですから代金はいりません。その代わり、頻繁に持って来れる訳でも無いので、偶にならって事でいいですか？」
「ええ、十分。ありがとう、無理を言って悪いわね」
「いえいえ、その代わりと言っては申し訳ないんですけど、孤児院の子達が薬草を持って来た時は目をかけてもらえると助かります」
「それは任せて。あの子達はもうお得意さんよ。早く冒険者ギルドに登録してほしいぐらい。今のまま無所属だったら、いつ薬屋ギルドに引き抜かれるか心配してるぐらいよ」
農業ギルドには入ってるから無所属って訳じゃ無いと思うんだけど、農業ギルドで薬草は売れないからね。俺みたいに両方入るべきなのかな？ でも、冒険者ギルドってランクがあるしな。蒼白草や月光草は高ランク素材になるみたいだし、ＦやＧランクだといくら持って来てもランクアップに繋がらないんだろ？ その点、薬屋ギルドはどうなってるんだろ。
「孤児院の子達が冒険者ギルドに持ち込んでるのは、俺やキッカ達に気をきかせてくれてるのかもしれないんですけど、新人冒険者だと蒼白草や月光草を持ち込んでもランクアップにならないんですよね？ だったら薬屋ギルドに登録させた方がいいのかな」
「あなた、そんな事を私の前で言うわけ？ 確かにその通りかもしれないけど、そういう事はここで言っちゃダメでしょ」
確かに。でも、相談するとしたらここでしょ。薬屋ギルドで相談したら、間違いなく向こうで登録させられるよ。
「でも、その点を何とかしてくれるんなら、冒険者に登録しなくても持ち込みは続けるかもしれないよ。俺としては向こうの事は知らないから冒険者ギルドでいいと思うんだけど、やっぱり買い取り金額だったり、何か特典がある方を取ると思うよ」
「それはそうだと思うけど、これって今だけの一時的なものでしょ？ 蒼白草に月光草だから、どこか群生地を見つけて持って来てるんでしょ？ ずっと続くのならまだしも一時的なものではマスターまで巻き込めないわね」
「え？ 畑で育ててるから、ずっと定期的に持って来るけど？」
「え？」
「え？」
ポーリンさんと俺は目を合わせたまま固まってしまった。
言っちゃダメだった？ 薬草って栽培しないの？
「……エイージ？ 今、なんて言ったの？」
「い、いや、何だったかなー。忘れてくれると嬉しいかなー」
「そんなわけないでしょ！ 薬草を畑で育ててる？ しかも蒼白草と月光草を？ そんなのありえないでしょ！ どこに群生してるとか、どうやって育てるかなんて低級の薬草でも解明されてないのよ！ それを上級の蒼白草や月光草を育ててるって、あなた自分で何を言ってるのか分かってるの？ そんな事が出来たらこれまでの市場が変わるどころじゃない、歴史が変わるわよ！」
やっぱり言っちゃダメなやつだったか。失敗したなぁ。
無かった事には……できそうにもないね、ポーリンさんは大興奮だよ。
幸い、ギルド内にいる冒険者の数も少なく、買い取りの方には誰も来てなかったので、聞かれてはいないようだったけど、ポーリンさんからは逃げられそうにないね。
結局、ポーリンさんに連れられて、またマスタールームに行く羽目になった。
さっきも行って来たばっかりなのに。
また嫌味を言われそうだよ。
