バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第14話 三枚目の地図。ダンジョン

 続いて三枚目の地図、Cポイントに向け移動を開始した。

 さっきの食事の時に位置の再確認をした。
 卵があったAポイントはハイグラッドの町からほぼ南にあった。フィッツバーグの町の逆側だね。

 Bポイントはそこから東へ真っすぐ川の北側を行った所。C地点はBポイントから北東へ上がった所にあった。
 ハイグラッドの町から見ると、ほぼ東に位置する。
 ただ、距離は遠かった。天馬がいなければ諦めてただろう。
 うまく見つける事が出来たとして、馬だとハイグラッドから往復で丸一日掛かったかもしれないぐらいの距離にあった。

 でも、今回はBポイントからだし、移動も天馬だ。
 日が暮れるまでにはCポイントと思われる所まで来ていた。

 Cポイントの地図の✖印の場所は池だった。
 これってマイアがいた池と同じパターンか?
 マイアがいた池は、マイアの封印を利用してダンジョンも封印で隠してあったけど、ここには何も封印されてる気配も無いし、結界で覆われている訳でもない。

 また難題だな。
 衛星には最終的に頼むとして、クラマかマイアが何か分からないかな。

「クラマ、ここにダンジョンがあると思うんだけど、何か分からない?」
「なんじゃと! ダンジョンがあると申すか! どこじゃ、どこにあるのじゃ!」
 凄い食いつきだね。キッカ達とダンジョンに行って、ダンジョンに嵌っちゃった?

「いや、場所が特定できないから聞いてるんだよ。ほら、この地図見てよ。ここに✖印が付いてるだろ? さっき行った場所の地図にも✖印が付いてたって事は、ここもあるはずなんだよ。この地図には『#女郎蜘蛛__ネフィラ・クラバータ__##迷宮__・ダンジョン__#』って書いてあるだろ? だからこの地図はダンジョンの地図だと思うんだ。この周辺で何か感じない? 分かるんだったら見つけてほしいんだけど」

「それは何かの仕返しか?」
 あっ、クラマは文字が読めないんだったな。でも、仕返しって言うという事は、俺に対して悪い事をしてる自覚はある訳だ。だったらもうちょっと優しくしてくれてもいいのにな。
 地図にも興味は無いんだろうな。

「そんなんじゃないよ、クラマは何か仕返しをされるような事をしたの?」
「…口は回るようじゃの。まぁよい、ダンジョンなら分かるかもしれぬな」

 クラマはさっき集中してた時みたいに上を向いて目を閉じた。隣ではマイアも同じように周囲を探ってくれてるようだ。

「あそこの樹が怪しいのじゃ」
「はい、私も同じです。あの樹は普通の植物ではありません」
 二人に言われた樹を見てみると、他の樹と高さは同じぐらいだけど、太さが三倍ぐらいあった。
 こんな特徴的な樹を見過ごしてた? いや、さっきまで、こんな樹があった?

「やはりエイジは何かしておるじゃろ」
「そうですね、エ・イジの仕業に間違いありませんね」
 何の事? 俺は何もしてませんよ。

「#妾__わらわ__#は今、周囲の探索をしていたのじゃ。すると急に結界が解除されたのじゃ。あの樹は結界で守られてたようじゃの」
「はい、私にも分からない隠蔽結界でしたが、解除された事で気が付きました」
 ふーん、結界が解除されたんだね。タイミングがいいね、ちょうど探索してる時だから二人にも分かったんだね。
 誰が結界を解除したんだろうね。

「さっきの人間共の戦争というやつでも、我らが通った時に攻撃が始まったのじゃ。が、攻撃は届く事は無かったし、人間共の気配もどんどん少なくなって行ったのじゃ」
「そう、あれは誰かが人間達を倒していったような気配でした。死んではいなかったようなので、気絶をさせられたのだと思います」
 ふーん、そんな事があったんだ。それならそうと、その場で説明してくれたら良かったのにね。

「#妾__わらわ__#はどっちもエイジの仕業と睨んでおる」
「私もです」
 え? いやいや、俺は何にもしてないよ。

 ハッ! 衛星? もしかして衛星が何かした?
 いやいや、まさか衛星も命令も無いのにしないよな。
 でも、ちょっと待てよ、戦地の最前線の真ん中を通った訳だから、両軍から攻撃が開始されたら俺達が危ない訳で、それを衛星が防いでくれた? しかも迎撃付きで?
 それなら辻褄が合っちゃうね。知らずに無双しちゃったって事?

 こっちも、今までの流れで俺の為に地図を見て探してくれたとか? 結界を解除するのも、もう慣れたもんだろうしね。その結界が俺にとって危ないものだと判断したのかもしれないな。結界って触れるとこっちがダメージを負うものもあるらしいしね。

 全部衛星がやったと思って間違いなさそうだ。

「ぼ、ぼ、僕は何にもやってないよ」
 さっきまでは知らなかった事だけど、衛星がやったって事が濃厚なだけに、キョドった返事になってしまった。

「嘘じゃな」
「い、いや、ほ、本当だよ。俺は何にもしてないって」
「嘘ですね」
「むぐっ、いや、本当に俺自身は何もしてないんだって」
 衛星の事は話した事があるよね? 忘れてるのかな?

「俺自身と言うからには、思い当たる事があるのじゃな? おっ! あの呪いか!」
 呪いじゃねーし
「呪いエイセイのせいでしたね。まさかここまで強力なものだとは思いませんでした」
 そんな呪いなんてねーし。加護だっての!

「あの……加護だからね。呪いじゃ無いからね」
「わかっておるのじゃ、そう言わないといけない呪いなのじゃな」
「確かにそういう呪いは多いですね。本当の事を言うとその場で命が無くなってしまいますからね。エイジ、気をつけてくださいね」

 だから呪いじゃないのに……あれ? 今マイアがエイジって言えた?

「マイア?」
「なんですか? エイジ」
 うぉ! エイジって言えてるよ。

「いつから言えるようになったの?」
「何がですか?」
「俺の名前だよ」
「そんなの前から言えてましたが」
 いえ、全然言えてませんでしたから。
 でも、これで三人目だ。クラマとアイリスとマイアか。もっと俺の名前が言える人が増えればいいな。


「そんな事はどうでもいいのじゃ。#妾__わらわ__#は初めから言えてたから言えぬ奴らの方が不思議でならぬわ。それよりも、あれがダンジョンでいいのじゃな?」
 俺にとってはどうでもいい事じゃないんだけどね。クラマだって言えてる事をさりげなく自慢してるじゃないか。
 でも、今はダンジョンだな。

「たぶんそうだと思う。行ってみる?」
「当たり前じゃ」
「そうですね、行ってみましょう」

 怪しい樹の前まで来てみたけど、入り口らしいものは何も無かった。
「入り口が無いね」
「そうじゃの」
「マイアは何かわからない?」
「これは樹の姿をしていますが、樹ではありません。造り物ですね。だから入り口と言われましても分かりません」

 マイアでも分からないのか、これはお手上げだね。でも、この樹が怪しいのが分かっただけでも地図が正しいって証明されたよ。
 『#女郎蜘蛛__ネフィラ・クラバータ__##迷宮__・ダンジョン__#』ね。絶対、蜘蛛とか虫とかが多いダンジョンだよね。見たくないけど、見れるもんなら見てみたい。クラマもマイアもいるんだし、衛星さえ邪魔しなければ魔物を見れるはずなんだ。
 でも、前のダンジョンでも魔物に合わなかったもんなぁ。

 何を言っても、まずはダンジョンに入らない事には始まらない。入り口を探さないとね。

 クラマもマイアも一緒になって探してくれてるんだけど、一向に入り口が見つからない。
 三十分経っても入り口が見つかる気配は無かった。
 さっき、クラマが切れて、大薙刀【岩融】で斬ったけど、傷一つ付かなかった。
 それを見て焦ったけど、傷すらつかなかった事で益々ダンジョンだと確信を持った。

 仕方が無い、また衛星に頼もうか。クラマもマイアももう参ってるしね。
 先にちょっと身体を伸ばそうか。
 ちょうどいい枝があったので、ぶら下がって身体を伸ばそうと思い、枝に飛びついた。

 ガゴンッ!

 枝がレバーの様に下に折れ、目の前に大きな入り口が現れた。

 おお! 偶然だけど、俺って凄ぇー。入り口を見つけちゃったよ。

「おお! それが入り口じゃな」
「エイジ、流石ですね。よく分かりましたね」
「そうじゃな、でかしたエイジ」
 いや~偶然なんだけどね、クラマも褒める事があるんだね。

「では、行ってくるぞえ」
 え?
「私も行きますわ」
 え? 俺は?

「えーと、俺も行くよ」
「ダメじゃ!」「ダメです」

「……なんで?」
「エイジが来ると魔物が出ん」
「そうです、前回もそうでした。ぬか喜びをさせられた身にもなってください」
「そんな……だって俺が見つけたんだし…」
「ダメじゃ」「ダメです」
 二人から強烈なダメ出しを食らった。
 クラマは分かるけど、マイアも戦いを楽しみにしてたんだ。

「今回の旅でも一度も魔物と出会わんのじゃ。夜、見回りに行っても静かなものじゃぞ。身体が鈍って仕方がない。ちょっと憂さ晴らしをして来るゆえ、そこで待っておれ」
「はい、私も偶には身体を動かしたいのでクラマさんと一緒に行って来ます。エイジはここで待っていてください」
「そんなぁ……」

 二人は俺を置いてダンジョンに入って行った。
 俺? 俺はする事が無いからノワールに乗って空を飛んでるよ。
 練習してもらってるんだ。

 残った俺と天馬達で話をしてたら、空を飛ぶのが怖いってカミングアウトしちゃったんだよ。
 そしたら『練習をして慣れましょう』って言われちゃって、飛ぶ事になってしまったんだ。

 今は誰もいないし、三頭から迫られて断れなかったしね。
 でも、初めは怖かったけど、結構気持ちがいいんだ。空を飛ぶって気持ちがいいもんなんだね。
 今は慣らしだから低い所をゆっくり飛んでもらってるけど、今度はもっと高くとんでもらおうかな。今日は無理しないよ。今度ね、また今度。

 日が暮れて、周りが真っ暗になっても二人は戻って来なかった。
 いつ戻って来るんだろう。明日の朝までに戻って来なかったら俺も入ってみようかな。
 あの二人の事だから不覚を取る事も無いだろうし、今日は一人で寝るとするか。
 アイリス達との待ち合わせは明後日の昼だし、明日一日待ってもいいかもね。俺はノワールと飛ぶ練習になりそうだね。

 天馬達の食事は衛星があげてくれてるね。
 俺も小屋を出して衛星に警備をお願いして、布団に入った。
 別にお願いしなくても守ってくれるんだけどね。言っておくと安心できるんだよ。

 残りの地図を見ながらいつの間にか眠りについていた。


しおり