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第18話 町への道

 
 クラマの話はこうだった。

 今日、キッカ達のレベリングの為にレッテ山に登ったそうだ。
 すると現れる魔物の縄張りの場所や種類が異常なほど変わってきていて、原因を山の上から探した時に違和感を感じたのが俺が作った町への道だった。

「エイジの作った道が魔物の生態系を狂わせておるのじゃ。完全に森を分断しておるからのぅ」
「そんな事になってたんだ。ゴメン、そこまで考えて無かったよ。このままだとどうなってしまうの?」
「人間の町が魔物に襲われる事になるじゃろうの。森を通ろうにも通れぬのじゃ、こちら側は#妾__わらわ__#でも通れぬ結界がある。そうなると魔物は町の方へ行くじゃろ? その数が少なければ人間でも対処できるであろうし、再び森へ戻って来ると思うが、魔物の数が多いと人間も対処しきれぬのではないか?」
「それは大変だ。すぐに魔物が道を横切れるようにするよ。道は今後も俺が使うからそのままでもいいとして、魔物が通れないって事がこの原因になってるんだよね」
「そうじゃ」

 俺はすぐに衛星に頼んで、道はそのままで魔物が道を横切れるようにしてもらった。

「そうなると、この【星の家】に住んでる人達が気軽に町へ行けなくなってしまうな」
「あのトレント達に守ってもらう訳にはいかないの?」
 キッカが心配そうに聞いて来る。

「守ってくれるだろうけど、そんなに強くはないからね。オーガぐらいの強さなんだよ」
「オーガ⁉ それって結構強くない?」
「ほぅ、エイジは鑑定持ちじゃったか。では#妾__わらわ__#の強さも分かっているであろう。#妾__わらわ__#程では無いが、時折強い魔物もこの森を通るでな。そういう魔物が現れればトレント如きでは、いくら数がおっても無駄じゃろうのぅ」

「じゃあ、私達が護衛に付くわ」
 え? キッカじゃ役に立たないだろ。

「そうじゃな。あと一週間も#妾__わらわ__#と行動すればオーガの群れでも軽く一蹴できるぐらいにはなるであろうの」
 えー! マジ? そんなに強くなれるの? オーガ単体じゃなくって群れ? だってキッカはレベルも10程で、オーガの強さの半分も無かったんだよ? それが一週間でオーガの群れにも勝てるようになるの? 俺もレベリングしてくれー!

「……じゃあ、それまでの間は、必要な物があれば俺が買い出しに行く事にするよ」
「何をそんなに落ち込んでおるのじゃ。一人で行くのが寂しいのじゃな? では、#妾__わらわ__#が付いて行って進ぜよう」
「いや、別に一人が寂しいって訳じゃ無いよ。今までだってそうだったし。それにクラマにはキッカ達の事を見てもらわないといけないじゃないか」
「ぐぬぬぬ」

 悔しがるクラマを尻目にマイアが手を上げた。
「それでは私が付いて行きます」

 今度はマイアが付いて行くと言い出した。
 別に寂しい訳じゃないのに。

「いや、一人でいいんだけど、今後の事を思うと、誰かがずっと付いて行く訳にも行かないでしょ。何かいい方法があればいいんだけど。地下道を掘るとか」
 うん、衛星ならやってくれそうだし、地下道でも作ってもらおうかな。それなら安心だろ?

「地下道でしたら、私がいた池に地下道があったはずですが」
 マイアが封印されてた池に地下道があるの? それって町に繋がってるのか? いや、でも元があれば少しぐらい逸れてても衛星に頼めばやってくれそうだし、その方が早そうだ。
 確かめに行ってみようか。

「じゃあ、マイア。明日、案内してくれる?」
「はい、わかりました」
「今から行けばよいではないか。まだ時間はあるであろう」
 自分も行きたいから今から行こうと主張するクラマ。

「今日はマイアには畑を見てもらいたいんだよ。だから明日行く事にするよ」
 さっきからの話だと、マイアは植物には強そうなイメージがあるから、小麦畑じゃないもう一つの方の謎の畑には何が植えてあるのか知りたかったんだよな。畑の状態もこれでいいか教えてほしいしね。
 ついでに後回しにしていた北側もやってしまおうかな。

「ちょっといい?」
 畑の事を考えているとキッカが問いかけて来た。

「ん? なに?」
「池の所にある地下道って事で思い出したんだけど、それってダンジョンじゃない?」
「ダンジョン⁉」
「そう。盗賊の時に地図を見た事があるんだけど、フィッツバーグから近い森の中の池に印がしてあったわ。池の真ん中に印がしてあったから、私達は池の底にあるんだと思ってたの。私の実力では森の奥まで入れないし、ましてダンジョンにも行こうとは思って無かったし、池の底じゃ行く事もできないから行こうとは思って無かったんだけど。でも町から近いから覚えてたの。たぶん、マイア様の言ってる地下道ってダンジョンの事じゃない?」

 地図? 盗賊団のアジトにあった地図か。確か収納に……
「これの事?」
 そう言って二十枚の地図を出した。

「あっ! なんでイージが持ってんのよ」
 なんでって、そりゃ盗賊団のアジトから盗んだからだよ。
 所謂、戦利品ってやつ?

「トコトコ団のアジトから取って来た」
「はぁ~? アジトから取って来たって……」
 キッカは納得いかないようだが、ここにあるものは仕方が無い。
 目的の地図もあるみたいだしね。

 『#漆黒大蛇迷宮__ピュートーンダンジョン__#』

 なにそれ? #漆黒大蛇__ピュートーン__#ってアカンやつだろ。なんでそんなのが人間の町の近くにある訳?

 他にもダンジョンの場所を示す地図がいくつかあった。帰ってから確認しようと思ってて忘れてたよ。
 今日まで色々と忙しかったもんね。

 大体、俺ってダンジョンに入れないからね。レベル10だっけ? ランクは上がってもレベルが10を超えないとダンジョンに入れないルールだったよね。
 あ、でも、人間が管理してないダンジョンは入ってもいいんじゃなかった? 確かそうだったよ。

 もしかしてこれって初ダンジョンってやつじゃね? ちょっと諦めてかけてたけど、ダンジョンに入れるの? でも、『#漆黒大蛇迷宮__ピュートーンダンジョン__#』ってハードルが高すぎないか? どんな魔物かは知らないけど、#漆黒大蛇__ピュートーン__#って名前からして強そうじゃん。毒とか酸とかめっちゃ吐きそうな名前だよ。
 #主__ぬし__#だったクラマなら何か知らないかな。

「クラマはダンジョンがあるって知ってた?」
「いや、先代の#主__ぬし__#。つまりは#妾__わらわ__#が倒した先代の#主__ぬし__#が、池には近づくなと言っておったからのぅ。それでも一度行こうとしたのじゃが、結界に阻まれて近づけなかった事を覚えておるのぅ」
 確かに結界があったみたいだね。衛星に壊されたんだと思うけど。

「じゃあ、ピュートーンは知ってる?」
「黒くてデカい蛇という事だけは知っておるが、見た事は無い」
 漆黒大蛇だからね、黒くてデカい蛇。正解だよ。それ役に立たねー情報だよ。

「イージ。あなたはダメよ」
「え? キッカ、何がダメなの?」
「あなたはまだ…その…レベルが足りて無いじゃない。ダンジョンに行っちゃダメよ」
「あ! イージさんはレベル1っすもんね」
「こらっ! ヤス! お前ぇはこんな時だけしゃべんじゃねー。黙ってろ!」

 ケン。お前のその優しさも、俺の心にグサグサ突き刺さるよ。

「なんじゃ、もしかしてエイジがさっき沈んでおったのはその事か? そんな事なら#妾__わらわ__#がレベルを上げてやるぞえ」

 #皆__みんな__#優しいんだね。俺、このままレベル1でもよくなって来たよ。

「クラマ、そうじゃないの。イージはね魔物に出会わないからレベルが上げられないの。呪いなのよ」
「なんと! 呪いじゃと!」
 呪いじゃねーよ。加護だよ。
 もうここまで来たら呪いと同じかもしんねーけどね。

「呪いじゃ無いからね」
「では何なのじゃ」
「体質?」
「そんな体質は聞いた事は無い! はっきり言うのじゃ。それによってはエイジのレベルを上げられん事もないぞえ」

 本当か⁉ 脱レベル1? マジ?

「クラマには前に言ったと思うけど、俺には加護があって、その加護に守られてるんだよ。ただ、その加護が過剰すぎてね、俺に魔物との戦闘をさせないんだ。最近ではクラマとトレント以外だと魔物の死骸も見て無いからね」
「なんじゃ、そういう事かえ。それならば簡単じゃ、#妾__わらわ__#がエイジのレベルを上げて進ぜよう」
 マジ⁉ クラマってそんな事もできんの?

「待ってください。その役目は私に任せてください」
 え? マイアもできるの? 俺メッチャ期待しちゃうよ。

「ちょっと待って二人共。どういう事か説明してくれない? 俺は戦闘が出来ないというか戦闘にならないんだよ。それでも俺のレベルを上げられるの?」

「では、#妾__わらわ__#が教えて進ぜよう。#妾__わらわ__#は#主__ぬし__#であったゆえ、部下の魔物に経験値を譲り渡す事ができたのじゃ。今は#主__ぬし__#ではないから部下には譲り渡す事はできなくなったが、今はエイジの従者じゃ。この繋がりがあれば経験値を譲り渡す事ができるのじゃ」
 おお! なんか凄く便利機能だ。でも、それってクラマのレベルが下がるって事じゃないの?

「それってデメリットもあるよね」
「なんじゃ、そんな事を気にしておるのか。#妾__わらわ__#のレベルをいくつか知っておろう。レベルが1下がったとしても、エイジのレベルは10では利かぬ程、上がるであろう」
 クラマのレベルは確か263だ。263が262になっても大差ないけど、経験値は凄い物がありそうだよ。

「私もレベルは高いんです。私はイージに助けて頂いた恩があります。レベル5の分の経験値をお譲りしましょう」
「な! それなら#妾__わらわ__#は10じゃ!」
「では、私は20を」
「むむ、30じゃ! それにマイア殿はエイジと繋がりが無いではないか」
 クラマの言葉にハッとするマイア。
 マイアは、キッ! っと真剣な眼差しになると俺の方を向き頭を下げた。

「イージ、私を従者になさい」
 命令? それって今から従者になる人の態度じゃないよね。頭を下げた意味も無くなる言葉だよ。
 いやいや、そうじゃなくて、なんで従者にしなくちゃならないのさ。

「ちょっと落ち着いて。まず、マイアを従者になんてしないから。まずは落ち着いて話し合おうよ」
「そうじゃ、エイジの名前も呼べぬ者をエイジは従者にせぬわ」
 そんなの全く関係ありません!
 ほらぁ、そんな事言うからマイアが名前を呼ぶ練習を始めちゃったじゃないか。
 おい! 横でこっそりキッカも練習するんじゃない! お前まで俺の従者になる気じゃないだろうな。


「エ・イ・ジ。ほら言えました。これで私もあなたの従者です。これで添い寝も私の物です」
 一言一言で区切ったわけね。それって言えたうちに入るの? そのドヤ顔は認められないからね。
 変なフレーズが最後に付いてるし。

「むむむ、添い寝は譲れぬ。マイア殿は別のお願いを考えるのじゃ。添い寝は#妾__わらわ__#のものじゃ」
「添い寝はどうでもいいけど、従者の話はちょっと待ってよ」
「どうでもよくは無い!」「添い寝は大事な事です」

 なにそれ。添い寝ってそんなに重要なの?

「わかった、添い寝は大事なのね。でも、今は一旦置いておこう。マイアの従者の話が先だよ」
「エ・イ・ジは鑑定を持ってると言ってましたね。私を鑑定してみてください」
 もうその呼び方はいいから。イージでいいから。


【鑑定】
――マイアドーランセ(森の精霊):LV577 ♀ 7704歳
 HP:5441 MP:5990 ATC:4846 DFC:4772 SPD:5220
 スキル:【召喚】【結界】【豊穣】【念話】【精気解放】【精気吸収】
 武技:【槍】Max
 魔法:【風】Max【水】Max【回復】Max【雷】Max【樹】Max【召喚】Max【聖】Max
 称号:―――


 何これー! 凄ぇー! クラマの倍ぐらい強ぇーよ。全然わからなかった。
 年齢も7704歳って人間じゃねー。あ、人間じゃなくて精霊か。


「見ましたか?」
「……はい」
「それでは分かったと思います」
 いいえ、こんな強い人が従者になろうって気がまったくわかりません。

「人間の寿命など、私にはほんの少しの時間です。その間の恩返しなのです。問題ありませんよね?」
 問題アリか無しかで言うとアリアリだよね。だってレベル1の人間の従者に魔物の#主__ぬし__#だけでもおかしいのに精霊ってありえねーって。


 結局はマイアの美貌から繰り出されるお願い光線に負け、マイアは俺の二人目の従者となった。

しおり