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3人組、世に放たれる

 セラにとって運命の日がようやく訪れた、そう16歳の成人の日だ。 一足先に成人を迎えていたリリアやリィナも、この日が来るのを待ち望んでいた。

「やっとこの日が来たね、セラ」

「そうね、準備は整ってる?リリア」

「もちろん!」

 準備というのは、当然ながら村を出る準備のことである。 リィナは教会で、ニナリスと一緒に来たシスターの仲間達に別れの挨拶を済ませてから合流する予定だ。

少女3人が村を離れての冒険者となる。 普通であれば誰もが止める筈だが、この3人を止める者は居なかった。

 おそらく勇者か魔王が大軍を率いて現われでもしない限り、挑めば返り討ちに遭うのは確実だろう。

 そのリィナは現在ニナリスから最後のお説教を受けている。

「リィナ!  別れの挨拶の最中にあくびをするとは何事ですか!?」

「だってセラが一晩中寝かせてくれなくて」

 ニナリスはめまいを起こしそうになった。 3人で何をして過ごしているのか、正直聞くのが怖い。 最近では家にもろくに帰らずに、秘密基地で特訓に明け暮れている。

 神の試練から6年の間に、3人の仲がどこまで進展したかはあえて書かない。 大人のキスからずっと先まで背伸びしている事だけは、ほぼ間違いないだろう。



「父さん母さん、それじゃあ行くね」

 両親に挨拶をするセラの頭上では鳥達が空を舞い、一見3人を祝福している様にも見える。 

 しかし飛んでいる鳥が爆弾鳥や切り裂き鳥なので、見送る村人達は気が気ではなかった。

「私が居なくなっても、あの鳥達が村を守ってくれるから」

 とんでもない物を残して村を旅立とうとしているセラの服装は、白のノースリーブの服とスカートの上から、両肩に肩当と胸当てだけの白を基調としたシンプルな服装で固められていた。 
 セラの青い髪がよく映えている。

 防具をほとんど身に付けていない素人同然の格好だが、左腕にはめられたバックラーが異常な性能を誇っているので何も問題は無かった。

 そしてリリアとリィナの服装は青が基調となっていた。 セラの髪の色に合わせたい2人の意向にそったものである。

 リリアは青のワンピースにミスリルで出来たロッドを装備。 リィナは青地に金糸で鳥の刺繍が施されたチャイナ服を着て、ミスリル製のカイザーナックルを装備している。

 軽装に見えるがミスリル繊維を使用しているので、並の鎧よりも硬くて丈夫な上に軽く動きやすい。 セラは最後に白のリボンで後ろ髪を留め、ポニーテールにして準備は完了した。

 おしゃべりしながら村を離れていく3人を見守っていた母ヒルダが、この場にもう1人の娘リサが居ない事に気がついた。

「あら、そういえばリサが見送りに来ないわね?」

「あいつもそろそろ年頃だからな、泣き顔を見られたくなかったんじゃないのか?」

 父ヨハンはそう言って、長女セラの姿が消えるまでその場を離れようとはしなかった。

 一方、その頃……。



「離せ~! 離してくれ! セラにもう1度だけ会わせてくれ」

「だめです、タシム様。 あなたには私が居るのですから、あの女の事はいい加減忘れてくださいませ」

 セラへの気持ちを断ち切れず、会いに行こうとするタシムを後ろから羽交い絞めにするリサの姿があった。

「それに……」

 リサはタシムの耳元で小声でささやく。

「姉さんは興味無さそうにしておりましたが、この村で産出されるミスリルの権利の大半は我が家にあります。 私を妻にして頂けるのであれば、タシム様のご実家にも権利の一部をお譲りしても構いませんのよ?」

 タシムの動きが一瞬止まる。 脈有りと踏んだのか、リサはさらに言葉を続けた。

「それにタシム様も、近々お義父様の跡を継いで自警団に入られるとか。 姉さんと同じ白に統一した防具で身を固めれば、どれだけの人の目を奪えるか見当もつきません」

 姉のことを散々けなしておきながら、意中の人の心を射止めるためなら手段を選ばない。 

 【偏愛】と【肉食女子】の影響があるかもしれない。

「セラと同じ白の鎧を俺が着る……」

「その通りですわ。 そしてその傍らでは、姉さんにも劣らない美貌を手に入れた幼き妻が寄り添う。 私はタシム様を、タシム様は姉さんの代わりに私とミスリルの権利の一部を手に入れる……。 悪い話では無いと思いますが?」

「だが、何で俺なんだ? 俺はお前に何かした事が有るのか?」

 何故ここまでリサが自分の事を好きなのか理解出来ないタシムが問いかけると、彼女は少しはにかみながら答えた。

「昔、姉さん達の後を追いかけて転んだ私をタシム様は起こして下さいました。 あの瞬間、私にはタシム様が王子様に見えたのです」

 そんな事も有った気がした。 セラの気を引こうと待ち伏せていた時に、姉を追いかけていた妹が石につまづいて転んだので助け起こした。 やけに顔が赤かった様に見えたのは、それが原因だったのか。

「王子様、私をどうかあなたの后にしてください」

 両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて挨拶するリサ。 それを見たタシムはリサに心を完全に奪われたというか、食われてしまった。

「あ、あと5年でセラを上回る容姿になっていたら、俺の妻にしてやっても良いぞ」

「本当ですか!?」

「セラを上回っている事が絶対条件だ! それ以外は認めないからな」

「はい♪」

 セラ達が村を旅立つ中、このようなやり取りが有った事を2人は誰にも話そうとはしなかった……。


 転生~旅立ちの章  終



 次回より、新たな章に入ります。

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