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「しかも、氷魔法が使えるブライス君がいるときにしか作れません。あ、あと、山羊のミルクが手に入る環境にないと作れませんし、えーっと、今回のカカオ豆輸入の説得が失敗すればチョコレートも入手がむつかしくなって……。今回が、私自身人生で何度食べられるか分からないとてつもないチャンスなのですけど……ローファスさんは食べられないのは残念です」
嘘は、ついていない。
何一つ、嘘は、ついていない。
「ローファスがくるりと壁に控えているロッテンマインさんを振り返った。
「ロッテン、俺の正装はあるか?」
「はい。ございますが、見たところ家をお出になってからずいぶんとたくましくなっておいでのようです。衣裳部屋にサイズの合うものがあればよろしいのですが、少々手直しが必要となるかも」
「すぐに衣裳部屋へ行くぞ!」
リリアンヌ様が、手をひらひらとさせ、嬉しそうにローファスさんを見送った。
「……リリアンヌの子だな……」
シャルム様が小さくため息をつく。
というわけで、さっそくパーティーに向けていろいろ準備です。
私は試作を作りつつ、パーティーに出すチョコレート菓子を作っている料理人たちにいろいろ尋ねられたことを答えたりと調理室で仕事です。
キリカちゃんとカーツくんは、昨日に引き続きマナー講習。がんばれ!
ブライス君には氷を作ってもらった後どうするのかなと思ったら、ギルドにローファスさんがパーティーに出ることの説明をしに行きました。
ああ、本当に仕事があったのかな?だとしたら申し訳ないことを……したような、してないような……。
ミルクにとチョコレートを混ぜ前。温めて混ぜ混ぜ。味を見る。シャーベットだからもうちょっと甘くしようかな。ふふ。贅沢に砂糖が使える環境なので、贅沢しちゃいましょう。おっと、試作なので、分量をメモしないと……て、すでに本番で料理をするはずの料理長?がメモを片手にがっつり見ていました。
それからある程度冷めてから、氷と塩を混ぜたところにボールを入れる。金属製のボール。熱伝導を考えるとやはり、金属です。
ボールに触れている部分から固まり始める。固まったところをそぎ落とすようにしながらボールの中身を混ぜ混ぜ。
「こ、これは……なんとも不思議な。魔法も使っていないのに、凍っていく」
ですねー。
なんで氷に塩で温度が下がるのかとか不思議ですよね。説明を求められても困るので何も言いませんが。
「そして、魔法で一度に凍らせるのと違い、少しずつ固めていくことで、がちがちになりすぎないというわけか……。
がちがち……そういえば、日本にはダイヤモンドの次に硬いといわれているルビーやサファイヤやエメラルドよりも硬いアイスもあるんだよ。小豆を主原料に使ってあるんだけど……。
「これくらいでいいかな?」
スプーンを借りて人さじすくって食べてみる。
ふわぁー!おいしい!チョコミルクシャーベット!うん、チョコレート多めで正解だった!美味しい!チョコレートでコーティングしたミルクアイスに似た味だ。……当然か。あれ?ってことは、ミルクシャーベットを作って、チョココーティングしてもおいしい?
パリパリチョコと一緒に食べるのもおいしいよね?……まぁ、今回はいいか。材料となるミルクの量に限りがあるんだもん。
……牛乳は無理でも、山羊は小屋で飼えないのかなぁ?
飼うのむつかしいのかな?あとでリリアンヌ様に尋ねてみよう。
もし、山羊を飼うことができたら……山羊ミルクといえど、料理の幅が広がる!
「あ、どうぞ」
別のスプーンにひとさじすくって、ずっと目を皿のようにして作るのを見ていた料理長に手渡す。
「ありがとう。ふむ。ふむ……むぅっ……!」
目を皿のようにしていると思っていたのに、その目をさらにかっぴらいた。
「なんと!これは、氷とは全く違う。冷たさだけが氷のようだが、味はもちろんのこと、口の中に入れたとたんにほわりと解けてなくなり、美味しさが口全体に広がって……。そう、まるで、のどを幸福をつかさどる女神様が通り抜けるようだ!」
女神……これはまた、ずいぶんと表現が大げさなような……。
リリアンヌ様への試食は、溶けてしまわないよう、氷につけたボールそのままカートにのせて運ぶことになった。
「リリアンヌ様、試食をお願いいたします」
リリアンヌ様はすでに身支度を始めているようで、お風呂上がりだった。
お風呂上りで温まった体にはちょうど冷たいシャーベットがおいしいよね?
「待っていましたわ。えーっと、ちょっと待ってくださいね」
と、リリアンヌ様は、ソファに移動して腰かけた。
「これで、準備は完璧ですわ」
準備?ソファに腰かけるのが?
「では、どうぞ」
ボールから冷やしておいたガラスの器にシャーベットを大匙2くらいの量を映してリリアンヌ様に手渡す。
「あら、つめたいお菓子なのね。もっと熱い時期であれば、氷で冷やしたスープをいただいたりすることもあるけれど……お菓子が冷やされているのは珍しいわね?」
へー。冷製スープとかあるんだね。
「では、いただくわね。そろそろチョコレートの味にも慣れてきましたから、気を失うようなことはないとは思いますが、一応ね」
あ、ソファに移動したのは気絶対策でしたか……。
スプーンにシャーベットをすくって口に運ぶリリアンヌ様。
その瞬間、伸びる手が二つ。
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気絶するか、しないか、どっちだー、どっちだ!
どっちだーーー、どっちだー。
はい。もう、その通りです……(´・ω・`)