少しやり過ぎ?冒険者崩れ退治
「俺達にそんな物を見せて良いのか? この村を救ってやったんだから、その恩に報いるってのが当然の礼儀だろうが!」
村の入り口では自警団のメンバーと冒険者崩れ達の間で睨み合いが続いていた、自警団の背後では斬られたテヘロが倒れており大量の血が流れていた。
「テヘロさん、しっかりして!もう大丈夫ですよ」
その時、洗礼を終えたばかりのリリアが到着した。 全身を流した自らの血で赤く染めているテヘロの姿を見て一瞬だけ吐きそうになったが何とか堪える事が出来た。 父の助けになりたいという強い気持ちが踏み止まらせたのだ。
「何だ?あのクソガキは」
冒険者崩れ達が訝しく見ている前でリリアは覚えたばかりのスキルを使い、死の淵に落ちかけていたテヘロを救い出した。
「万能回復!」
リリアを中心に緑色の光が周囲を覆う。 その光の中でテヘロの斬られた傷は見る見る内に塞がっていき、やがて斬られた事自体無かったかの様に傷痕すら消えてしまった。
「おい。 あのガキどうやらスキル持ちみたいだぞ。 しかも回復ときていやがる!」
「へへへ、どうやら俺達にも運が向いてきた様だな。 あのガキをどこぞの貴族様にでも売り払えば一生遊んで暮らせるぞ」
食料と金目当てに村に来た冒険者崩れ達は、思わぬ掘り出し物を目にしてターゲットをリリアに絞り込んだ。
「おい、俺達への礼はそのガキでいいや。 命が惜しければ、そのガキをこちらに渡しな」
「い、いや……」
「大人しくしていれば怪我もしなくて済むぜ、お嬢ちゃん」
「良く見るとガキのくせして中々可愛い顔しているじゃねえか、売り払う前にこのガキの具合を少し味見させてもらうのも悪くないな」
抵抗する自警団のメンバーを叩き伏せながら、冒険者崩れ達はゆっくりとリリアに近付く。
恐怖でその場から逃げ出す事も出来ずにいるリリアのすぐ傍まで来ると、冒険者崩れのリーダーらしき男が手を伸ばした。 その手に視界を覆う直前、リリアは最後に残る勇気を振り絞って出せる限りの声で叫んだ。
「た、助けて。助けてセラ~!!」
ヒュンッ! リーダーの腕を黒い影が通り過ぎた、するとカミソリで斬られたかの様にパックリと腕が裂け血が溢れ出す。
「な、何だ今のは!?」
「そこまでよ、リリアに指1本触れさせたりしないわ!」
リリアの背後でセラが仁王立ちしながら冒険者崩れ達を睨み付ける、その瞳には物凄い殺気が込められていた。
(リリアを味見するですって!? リリアの初めては私が奪う……じゃなかった、私が守る!)
リリアの側からしてみれば、えらい迷惑な話である。 なにしろ奪おうとする側と守る側、双方がリリアの貞操を狙っているのだから。
「良い気になっているんじゃねえぞ、クソガキ! たかが鳥型モンスター1匹操った位で俺達が引き下がるとでも思っているのか!?」
「その言葉、そっくり返すわ。 あなた方は何で私が創り出した鳥さんを1匹だけだと思っているのかしら?」
「えっ!?」
バサバサバサバサ……! 2種類の鳥の群れがセラの頭上を舞い始める、どちらも60羽位居そうだ。
「行け、切り裂き鳥(バード・ザ・リッパー)! あいつらが今後誰も傷付ける事が出来ない様に装備を切り刻んであげなさい」
一斉に襲い掛かる切り裂き鳥、何羽かは叩き落せても残った鳥達に武器や防具の耐久を削られていく。 5分もしない内に彼らは武器と防具を失い満身創痍の状態となった。
「この場は退くぞ、くそっ後で覚えてろよ!」
「覚えておいてなんてあげない、だってあなた達は全員吹き飛ぶのだから♪」
セラは逃げ出してゆく冒険者崩れを指差しながら、頭上で待機していた鳥達に最後の命令を下した。
「爆撃鳥(ボムバード)、爆撃開始! あいつらに恐怖を叩き付けるのよ」
「ハァハァハァ! 奴ら、追ってきているか?」
「いや、来ないみたいだ」
「くそっ! 俺達をバカにしやがって、この屈辱は何倍にもして返してやるからな」
派手にフラグを立てた事に気付かない冒険者崩れの者達、だが真の恐怖が頭上から降ってきた。
ぽとっ! リーダーの頭に鳥のフンが落ちてきた。
「まったく今日は厄日だぜ、鳥のフンまで落ちて…
ドゴォ~ン! リーダーが手で頭に付いたフンを払おうとした瞬間、閃光と共に鳥のフンが爆発した!
「なっ!?」
慌ててリーダーに駆け寄る仲間達、辛うじて生きてはいる様だが本当の意味で虫の息だ。
カァ~♪カァ~♪カァ~♪カァ~♪
頭上でカラスの陽気な鳴き声が聞こえる。 不安に怯えながらゆっくりと上を見上げると、村で出て来た鳥使いのガキが使役するカラス達が、一斉にフンの絨毯爆撃を始める姿が最期に目に焼き付いた。
「こ、こんなバカな話が有ってたまるか~!?」
ドッゴォ~ン!
冒険者崩れ達の逃げ去った先で巨大なキノコ雲が上がる、それを見ながらセラが
「た~まや~♪」
と呑気に言っている横で自警団の面々は、唖然とした顔で洗礼を受けたばかりの女の子を見つめていた。
「リリア、もう大丈夫よ。 私が全員追い払ってあげたから」
「私達、助かったの?」
「そうよ、テヘロさんも無事みたいだし私達2人の手で村を救ったのよ」
「そ、そうなのね良かった。 ……あっ!?」
「どうしたのリリア?」
セラが様子のおかしいリリアを心配して近付いてみると、リリアのスカートの下でレモンティーの水たまりが広がっていた。 張り詰めていた緊張が緩んだ事で我慢出来なかった様だ。
「リリア、折角の洋服が駄目になる前に今日も2人で湯浴みしよ」
慌てて家に帰ってきた2人とリリアの姿に驚いたヒルダであったが、セラから事情を聞くとリリアをそっと抱きしめた。
「怖かったでしょう? でもテヘロさんを助けてあげる事が出来たのはあなたのお陰よ、ありがとう」
「ううっ小母さま~!」
ひとしきりヒルダの胸の中で泣くと、ようやくリリアが落ち着いてきた。
「さあ、服は私が洗っておいてあげるから2人は湯浴みしてきなさい。 そして出て来る時はまた素敵な笑顔を見せて頂戴ね」
服を脱いだセラとリリアはいつも通り2人で湯船に浸かる。 しかしリリアの顔はまだほんの少しだけ固く僅かに震えている。
「リリア、まだ怖い?」
「うん、ほんのちょっとだけ」
「じゃあさ、私がリリアにビックリするほど良く効くおまじないをしてあげる」
「そんなのが有るなんて知らなかった、やってやって」
「ではほんの少しの間だけ、目をつぶってもらっても良い? 流石に見られていると照れ臭いから」
「?」
何だか良く分からないままリリアは言われた通り目を閉じた。
ちゅっ♪
すると唇に何か柔らかいものが触れた感触がするので思わず目を開くと、セラが目を閉じながらリリアに唇を重ねていたのだった。
「セ、セラ!?」
「ビックリした? でもこれで元気が出るでしょ、私のファーストキスだよ♪」
「するならもっと早く言ってよ、私も初めてだったのに~!?」
「えへへ、お陰で私もリリアから凄く元気を貰えたよ。 ありがとね」
「もう、セラの馬鹿!」
リリアはそう言いながら、これまでとは少しだけ違う感情が芽生えたのに気付いた。 それはほんのり甘くて切ない、そしてちょっとだけイケナイ事をしている不思議なものだった。
一方のセラは前世も含めて50年ちょっとの人生で初めての甘酸っぱいキスの味を知って、身も心も蕩けそうになっていた。