25、とうとうこの日が来てしまった。
とうとうこの日が来てしまった。
王様と何を話せば良いんだ? いやいや、無理無理。学校の先生はおろか同級生とだって碌に喋ったことのない俺が王様なんて雲の上の人と話せるわけがない……って、あれ? 何かデジャヴ?
昨日は結局エミーリオ、アルベルト、ベルナルド先生、ドナートの四人がかりで三つ。チェーザーレとバルトヴィーノが五つ回収してきた。
壊そうとしたけれど壊れず、袋に入れて持ち帰って来たそうだ。ベルナルド先生の攻撃魔法だと砕けるほどではないが多少割れることから、黒の使徒の誰かが魔法で研磨加工してばら撒いている可能性が高いって話だ。
貴族街にあった宝石店で店主が急に人が変わりつい最近失踪したという店があり、それが犯人じゃないかって。店主はまだ見つかっていない。
今までは黒モンスターを倒したその場で俺に吸収されていたせいでわからなかったが、身につけずに袋のまま持っているだけでも体が軽くなって力が湧き出てくるらしい。そしてその力を試したいという欲求が収まらず、宿に着くなり裏手で手合わせを始めてしまった。
訓練している人間ですら欲求を抑えるのに苦労するぐらいなのだから、それが一般の人、それも普段から欲望のまま生きている豚領主のようなタイプはすぐに力に呑まれてしまうだろう。
貴族街を回っていたエミーリオ達の回収数が少ないのは、本当にないのか隠しているのかわからない。
逆にスラム街を回っていたバルトヴィーノ達は小銭や食べ物をばら撒いて情報収集、現物もあっさり売ってもらったという。
回収された黒いアクセサリーの数々は、例の如く俺に吸収されていった。腕輪とか首飾りとかの台座から黒い宝石部分だけが霧のように俺に吸い込まれる様は何度体験しても慣れない。後に残ったは宝石を失い何の効果もなくなった金属のアクセサリー類だ。
あ、いくつかはルシアちゃんがモンスター化の効果だけ消せないかと解呪と浄化の魔法を試したが、そのどちらでも宝石部分が消えてしまった。もしかしたらモンスター化した人を浄化で元に戻せるのでは? とルシアちゃんが言い出して、実際に襲われたらまず試してみることになった。
「で? 今回も俺は留守番なわけ?」
『仕方なかろう? モンスターとして処分されるか、食材として調理されるぞ?』
嫌ぁぁぁ! とムンク状態の1号を馬車に残し、俺達は王城へと乗り込んだ。
因みにエミーリオだけが従者兼護衛として残り、他のメンバーは今日も引き続き黒アクセの捜索に駆け回っている。
そして始まった国王との謁見だが。
国民に聖女が来ることを周知してあり、宿の手配から謁見の日取りの調整までしてある点でまともそうだと感じたのだが、実際まともだった。
俺がパレードなんて小っ恥ずかしいこと勝手に決めて、と言ったらあっさり頭を下げたくらいだ。腰の低さではセントゥロのおっとり国王に負けていないだろう。
「国民の不安を取り除くためだ。理解して欲しい」
と。頭を下げられたままそんなことを言われたら怒っている俺が悪者みたいじゃないか。
俺の態度が不敬だとか喚いていた貴族や宰相を宥めたりしているあたりからも人柄が伺える。もしこれが俺達の信用を得るための演技とかだったら俺は人間不信になるかもしれない。
まぁ、俺やルシアちゃんを見つめる視線が若干ぞわぞわして嫌な感じだったけどね。
気にせず話は明日のパレードの話になる。
「出立の日取りまで勝手に決めてしまって申し訳ないが、決してこの国から早々に追い出したい訳ではない」
ただ、暗黒破壊神がいつ襲撃してくるかわからない以上出立は急いで欲しいというのは本心だそうだ。
急に旅立たせる詫びとして、旅に必要と思われる食料品や武器、それらの整備道具などまで一通り揃えてくれてあるという。
「馬車は既にセントゥロで用意してもらったのがありますので、それに載せていただければ大丈夫ですわ」
「ふむ、これまでの人数であればそれで十分だろうが、11名の勇者が加わるのだぞ? 馬車3台分でも足りないだろう」
王様は勇者が乗る馬車として2台、彼らや俺達用の旅の必需品でさらに馬車3台分を用意してくれていたそうだ。
まさか勇者を日本に返すつもりだとは言えず、俺はルシアちゃんにだけ聞こえるよう念話でありがたく頂戴するよう言った。
食材は無駄にせず食べれば良いし、馬車は途中で路銀に変えれば良いだけの話だ。ここまでお膳立てされているなら甘えた方が良い。下手に機嫌を損ねるのは馬鹿のすることだ。
「わかりましたわ。陛下の御心に感謝申しあげます」
明日は早朝に登城し、身支度をして王城から勇者と供にお披露目用の馬車で正門を出る。正門の外に用意した旅用の馬車、俺達が元々乗って来たものと合わせて5台に乗り換えそのまま出国という段取りらしい。
ルシアちゃんの護衛という役目をおっとり国王から申しつけられているエミーリオ以外の冒険者メンバーは「勇者と合流するまで」が契約なので本来ここで任務終了なのだが、バルトヴィーノとベルナルド先生が付いて来たいと言い出していてルシアちゃんがそれを承諾した。
ここからは金銭や契約の発生しない、本当の意味での旅の仲間として同行する。
凱旋中俺達の警護をする彼らにも上等の馬を下賜してくれるという。パレードの列の前後左右を固め、そのまま乗っていって構わないと言うのだ。馬が増えるのは同時に飼葉なども大量に必要という事であるが、馬車を曳く馬の負担が少ないからそれだけ短時間で長距離進めるという事でもある。
『出立に関してはそれで良い。所で、明日の祝典で黒の使徒の襲撃があるという情報を掴んだのだが』
俺の一言に王様一同顔色が変わる。彼らも勘付いていたということか。