【二人】
「思い出したんだね」
頬には涙。
どうしようもない痛み。
息が荒く、鼓動が波打っている。
「どうして・・・」
私は痛みを抑えて叫んだ。
「どうして、思い出させたの!!」
そこは白い世界。
ただ、ひらひらと羽が舞う。
この羽は忘れろといっていたんじゃない。
思い出せと言っていたんだ。
そして、木の上に天使だけがいる。
「あなたが決めたことだよ」
「私が?」
私は天使のいる木の上を見上げる。
「私は思い出したくなんかなかった!」
「でも、そのままじゃ進めない」
天使の声のトーンが変わった。
さっきまで優しく語り掛けるような声だった。
それが、感情のない機械的なトーン。
「だから、思い出して。痛みを強さに変える為に」
これ、私の声。
違う、私の声と重なって聞こえる。
「あなた、誰?」
そうだ、羽が在るから天使だって思ってたけど顔は見えない。
天使はフワリと木から舞い降りてくる。
その顔は・・・。
「もう一人の私。やっと気づいてくれたのね」
私!
何も言えずにただ呆然とする私に天使は言う。
「ここは死と生の世界の狭間」
天使はそっと私の頬に触れる。
「だから、死にたい私と生きたい私がここにいるの」
にっこりと微笑むその顔は確かに私と同じ。
「あなたは死にたかった。何もかも忘れて・・・。でも、私は生きたかった。全てを思い出して」
私は死にたかった?
違う。そうじゃない。
「私は、許せなかったのよ。私の存在が」
天使は少し悲しげな顔をする。
「ええ。でも、もういいでしょ?大丈夫。私がいるから」
そして、ぎゅっと私を抱きしめた。
「大丈夫。もう、泣いていいの。いつか笑える日のために、私の存在を認めてあげて」
私、きっと誰かにそう言って欲しかった。
たとえそれが私でも。
「そうね。もう、いいわよね」
そう言って、私も天使を抱きしめた。
多分、もう泣ける。
ほら、頬が熱いもの。