彼岸花
ある村には紅巫女と言う存在がいた。
それは、村にある伝承を伝えるための存在である。
村は戦国の世の定めと言うべきか
、戦では戦場となり、荒れ果てた。
この土地では作物が育たない、我々の暮らしはどうなってしまうのだ、と農民達は嘆いた。
そこで紅巫女は村人達に
「村神様に願おうではないか。きっと救ってくださるだろう」
といった。
しかし、村人総出で祈りを捧げても、少ない食料で供物を作り捧げても雨や災害はおさまることがなかった。
村人達は食料が無いため、草を食べ、泥水を啜って生き延びていた。子供は飢えて死に、老人は家族に捨てられて死んだ。
村人達は神が我々の願いをお聞きにならなかったのは、供物がお気に召さなかったのだろう。そうだ、次は神の嫁とされている紅巫女を捧げようではないか、と考えた。
そこで紅巫女を捧げるため、夜、巫女が住んでいる建物にむかった。
巫女を生贄にするために。
ドンドン!!
「巫女様!開けて下さい。」
「巫女様、儂らが凍えてしまいます。」
村人達が建物の扉をたたくと、紅巫女は建物の内側から返事をした。
「お主らは我を生贄にする気かや?その気がないのならば、今すぐお帰りなさい。夜は危のうございますよ?」「巫女様!我らは飢えております。この飢えは村神様がなんとかしてくださると今まで我慢しておりました。しかし、一向に良くならない。なんとかしてくださいせえ。」
「我に神の嫁となれと?」
「それしか手がないのでこざいます。お許しを。」
「お主らが言うのならば致し方ないが、我を生贄にしたとて、災害が収まるともかぎりはないぞ?」
巫女は立ちあがり、下にあった紙に何かをさらさらと書いた。
すると、巫女は笑いながら、村人達に言い放った。
「我、ここにて神の花嫁となりて死す。忠告として、此度の災害を忘れるな。もし村が我のことを忘れ、忠告をないがしろにしたのならば、我、花を通じて世に帰ろう」
巫女はそう言い残したあと、喉に小刀を突き立て、絶命した。
巫女の血の後には、赤花が咲いたらしい。
巫女が死んだ後の百年間は村は栄え、巫女の残した忠告は人々の記憶から薄れていった。
しかし、その次の百年目から天災が相次ぎ、村はさらに食料不足となった。
そのため、村人達は草を食べると言うは手段に乗り出した。
村人はまず、多くさいていた、赤色の花を食べた。おいしい、おいしいと言いながら、口に赤花をつめこんで。
戦国の世も終わり、日本が落ち着いたころ、役人は見たと言う。
まるで今日咲いたばかりの赤い彼岸花を口に咥えたままの骸骨を見た、と。