第1話 迷宮都市
”富と名声を求めるならば、それら全てを迷宮に求めよ”
そこにはいつの頃から存在したのか、誰が、何のために造ったのか、その全てが謎に包まれた地下大迷宮が存在していた。
自然界では見たこともない生物が生息し、人々はソレらを総じて魔獣と呼んだ。そして、人の力を軽く凌駕する魔獣たちがひしめく迷宮には、同じく自然界では見たこともない植物や鉱石を採取する事が出来た。
さらに魔獣を討伐する事に成功すると、その死体は溶けるように迷宮に吸収され、代わりに小さな六角柱のクリスタルが残る事がわかった。
クリスタルは宝石として価値があるほか、人が持つ微量の魔力に反応して自然界の事象を再現する事ができた。
赤のクリスタルは何もない空間に火を起こし、青のクリスタルからは
その利用方法は無限大で、人々は競い合うようにクリスタルを求めた。
死をも恐れず迷宮探索が活発になると、その周辺に町が生まれ、都市が出来た。
新たな迷宮が見つかればまた囲うように都市が作られ、それぞれの都市を繋ぐ交通路が整備されるようになった。
やがて複数の都市は数多の迷宮を内包する大迷宮都市へと発展し、地下迷宮に降りていく者たちは冒険者と呼ばれるようになった。
また、迷宮探索が活発化していくと同時に、迷宮の秘密が少しずつではあるが解明されるようになった。
その一つが”スキル”の存在。
それまで人は魔獣に対抗できる超人的な能力など持ちえていなかった。初期の頃の迷宮探索は、人海戦術とも言える無謀な人員の送り込みで魔獣に対抗し、何とか勝利を得てきた。
だが、いつの頃からか迷宮で生き残った者たちの間で、特別な力が使えるようになる者たちがで始めた。
ある者は手の平から火球や水球を打ち出し、またある者は魔獣に匹敵する剛力を手に入れた。他にも目を見張るほどの剣技を突然習得した者や、軽やかにジャンプして目にも留まらぬ速さで駆ける者まで現れた。
人々はこれをスキルと呼び、迷宮探索の助けとすると共に、迷宮探索に必須の能力となっていった。
同時に、より下層へと降りる事が可能になった事で、クリスタル以上の収穫物が存在することを知った。
それが”迷宮具”と呼ばれるアイテムであり、人の手では再現不能な特別な機能や効果を発揮する魔法のアイテムたちだ。
それらは迷宮内部に現れる宝箱の中にあったり、強力な魔獣を倒すとクリスタルと一緒に落ちていることもあった。
スキルと迷宮具、この二つが人々の生活をより豊かに、より幸福にすると誰しもが信じて疑わなかった。
誰かが言った。
「これは神の試練だ。この試練を乗り越えて最下層に辿り着いた者に、神は未来永劫の幸福を祝福してくださる!」
またある者は言った。
「これは悪魔の囁きだ。富と名声に誘われて降りた者の魂を、悪魔は未来永劫縛り付けて離さない!」
そのどちらもきっと真実であり、真理であった。
この物語は、そんな夢と希望と死が蔓延する迷宮に降りて行く冒険者たちのお話——ではなく、冒険者や迷宮探索の成果を管理する”冒険者ギルド”の、とある職員のお話——。