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結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉕




路上


走る。 走る。 ただ、走る。 路上を駆け回っている少年3人らは、どこへ向かったらいいのか分からないまま走り続けていた。
「本当に、俺と一緒に未来を捜せって、ユイに言われたのかよ?」
椎野は足を前へ進めながら、右隣にいる伊達の友達二人の方へ顔だけを向けて尋ねかける。
「いや、ユイから直接言われたわけではないです」
「え、どういうこと?」
「直樹は集会が始まってからずっと誰かと電話していて・・・。 多分その相手が、ユイだったんだと思います」

―――電話相手が・・・ユイ?
―――電話できる余裕があるっていうことは、ユイは無事なのか。

「で・・・。 ユイが君たち二人に、未来を捜すよう頼んだのか?」
「さぁ、そこまでは・・・」
「?」
「俺たちは直樹から未来を助けるよう言われただけで、ユイからは直接聞いていません」
そこで椎野は、一つの疑問がふと頭を過る。
「その肝心な伊達は、今はどこにいんの?」
「分かりません・・・」
「分からない、って・・・」
伊達のことで頭の中が混乱し、難しそうな表情を浮かべる。 そして――――あることを思い出し、急に椎野はその場に足を止めた。
「あ、ちょっと待って!」
「「?」」
二人も遅れて立ち止まりこちらへ意識を向けたところで、椎野は彼らに言葉を放つ。
「俺たちは今、どこへ行こうとしている?」
「え・・・。 分からないっす」
「ッ・・・」
―――そりゃ、そうだよな・・・。
―――命令は“未来を捜して助け出せ”っていうことだから、捜し出すことがまず先か・・・!
「分かれて捜しますか?」
「いや、分かれるのは危険だ。 ただでさえ今は、クリーブル集会で危ないことになっているんだろ」
「「・・・」」
―――・・・ここで黙るっていうことは、やっぱり集会で何かあったのか。
彼らの反応だけで、冷静に判断する椎野。 だが今ここで集会の方を気にしても仕方がないため、未来を見つけ出すことだけを考える。
―――どうしたらいいんだよ・・・ッ!
―――手がかりが何もないなら、見つけるのは困難じゃんか!
そして――――悔しさのあまり拳を強く握り締めるのと同時に、背後から少年たちに近寄る者が一人いた。

「どうしたの? そこの可愛い坊やたち」

「ッ・・・!」

声のした方へすぐさま振り返ると、そこにはピンク色の派手なスーツを着た男――――いや、女の人が立っている。 見覚えのない人に、不審な目で相手を見つめた。
―――誰だ・・・コイツ。
「君たち凄く可愛くていい顔しているのに、そんな怖そうな顔をしちゃ駄目よ。 ほら、もっと笑って? それとも何、何か困っていることでもあるの?」
表情を豊かにしながら、次々と言葉を並べていくお姉さん。 そんな相手に、ここにいる3人は気味悪そうな表情を返した。
「何なんだ、この人・・・」
「オカマ・・・?」
伊達の友達二人は、互いに顔を見合わせながら囁いている。 
「あの、どうしますか・・・?」
今もなお不審な目で相手を見つめている椎野に対し、友達の一人が声をかけてきた。 少しの間を置くと、身体の向きを180度変え足を進めながら答えていく。
「アイツなんかに構うな。 先へ行こう」
友達二人の間をわざとすり抜け“前へ進もう”と行動で促した。 それに続けて彼らも歩き出そうと、足を動かし始めたのだが――――
「あ、ちょっと待ってよ!」
「・・・」
後ろから呼び止められる声が聞こえるも、そんなことには意に介さず前だけを見つめ進んでいく。
「待ちなさいよ! もー!」
「・・・」

「オレンジ色の服を着た坊やを、捜しているんじゃないの?」

「なッ・・・!」

“オレンジ色の服を着た坊や”という言葉を聞き、椎野は思わず反応してその場に足を止めてしまった。 その行為により、背後にいるお姉さんは少しだけ口元を緩ませる。
―――オレンジの服と言ったら、未来しか頭に思い浮かばねぇ。
―――もし人違いだったとしても、聞く価値くらいは・・・あるよな?
椎野はゆっくりとお姉さんの方へ向き、相手を睨み付けながら力強く言葉を放した。
「どうして・・・ソイツのことを知っている?」
「さっき偶然、見かけたからよ」
「ッ、見かけたってどこで!」
「だから、そんな怖い顔はしないでちょうだい。 折角可愛い顔をしているのに、勿体ないわ」
「・・・」
いつの間にか感情的になっていた自分に気付き、目を瞑り深呼吸をして心を落ち着かせる。 そしてゆっくりと目を開け、お姉さんに向かって冷静に尋ねた。
「そのオレンジ色の服を着た男は、今どこにいるんだ?」
「この先の突き当りを左へ曲がって、5本先の路地裏・・・だったかしら?」
少年たちの背後を指差しながらお姉さんが説明していくのにつられ、椎野たちも差している方へ自然と顔を向け確認する。
妙に細かいところまで憶えていることに不審な思いを抱くが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「本当に、そこにいるんだな?」
道を確認した後顔をお姉さんの方へ戻し、念のためもう一度聞き返した。 そして不安そうな表情を浮かべながら、お姉さんは返事をする。

「えぇ、そうよ。 私を信じて。 でも助けに行くなら、早めに行った方がいいわ。 あの坊や、やられそうだったもの。 だから・・・助けてあげて?」

「やられそうって・・・。 ッ」
椎野は気合いを入れ直し、すぐに後ろへ方向転換した。 そして走りながら顔だけをお姉さんの方へ向け、言葉を投げる。
「ありがとう! 今から助けに行ってくる!」
「ふふ。 行ってらっしゃーい」
少しぎこちない笑顔を見せると、お姉さんはそれに負けないくらいの笑顔を椎野に見せつけてきた。 
そして“未来を助けたい”という一心で、少年3人は言われた通りの道へ進んでいく。
「本当にあの人が言ったこと、信用するんですか?」
走りながら、隣にいる伊達の友達は椎野にそう尋ねた。
「あぁ、行く価値はあるだろ。 俺たちは未来の情報を何も持っちゃいない。 だから適当に立川を彷徨うより、ハメられるのを覚悟して前へ突き進んでいった方がマシだ!」
「でも、本当にハメられたら・・・」
「大丈夫。 そん時は俺が、ちゃんと二人を守るからさ」
優しい表情で答えると、友達らも安心したのか小さく頷いてくれた。 そこで、二人に質問を投げかける。
「そういや、君らってクリーブルなんだろ?」
「はい」
「どうして未来を助けたいと思ったんだ? 結黄賊とクリーブルは、別もんだろ」
苦笑しながら口にする椎野に対し、彼らは迷わずにこう答えを返した。
「結黄賊のこと、俺たちは信じているんで」
「はい。 それに俺たち、未来には借りがあるんです」
―――借り・・・か。
椎野はその単語に引っかかるも、そのことにはあえて触れないようにした。

「じゃあ俺たちが、クリーブルに酷い命令をしたっていうことは・・・」

「そんな噂、もちろん信じていません」

そう言って、友達二人は引き締まった表情で自分の意志を椎野に伝えた。


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