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結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉓




正彩公園 


「行っちゃい・・・ましたね」
「ッ・・・」
―――何なんだよ、こんな大事な時に!
椎野の勝手な判断で、ここにいる御子紫たちを残し未来を捜しに行ってしまった彼ら3人。 
止めることができなかった御子紫は、戦力が欠けてしまったことに少しの不安と少しの苛立ちを感じていた。
後ろへ振り返り、現在ここに残っている自分を含め7人の仲間をゆっくりと見渡す。 
普段なら軽いジョークでも言ってこの場を和ますのだが、そんな余裕は既になくなっていた。
―――コイツを・・・こっちに残しておいてよかった。
一人の少年に目を付け、彼に向かって声を張り上げる。
「俊!」
「あ・・・。 はい」
いつも明るくて元気な御子紫とは反対に、いつも大人しくてクールな雰囲気を醸し出している俊。 
後輩らを二手に分ける時、この少年をこちらのチームへくるようにするため御子紫は自らあの場を仕切っていた。
あの時の判断は正しかったと自分で自分を褒めながら、俊のことを見据える。 

どうして俊に目を付けたのかというと――――かつて起きたクリアリーブル事件の時、彼は結人に命令されて鉄パイプを扱ったことがあるからだ。

「俊、お前は鉄パイプを使いこなせるよな?」
「はい・・・。 一応」
「一応じゃねぇ!」
「・・・使えます」
普段なら後輩らには優しいはずの御子紫だが、今日はいつもと違う。 今置かれている危険な状況に、焦りを感じざるを得なかった。
後輩らもいつもとは違った先輩を目の前にし、この場には自然と緊張感が張り詰める。 
どうしてこの時俊が曖昧な答え方をしたのかというと――――それはもちろん“鉄パイプ”という凶器をできればもう手にはしたくなかったからだ。
だがこんな状況で先輩である御子紫に逆らうことができず、俊は自分の意志とは反対の言葉を言ってしまう。
「じゃあこれを持っていけ」
御子紫は茂みの中に隠してあった鉄パイプを手に取り、それを俊に直接手渡した。 彼は少し怯えながらも、それを恐る恐る受け取る。
「そろそろ言われた時間だし、俺たちも移動しよう。 今起きていることは、歩きながら話すから」

そして、御子紫たちも歩き出した。 クリアリーブルに指定された、空地へ向かって。 この時間を利用して、御子紫とコウは後輩らに事情を伝える。
「まぁ、俺たちもよく分かんねぇんだけどさ。 昨日『リーダーは明日ここへ来るように』って言われたんだよ。 そんで今、ユイはその指定された場所にいる」
「え、将軍一人でですか?」
「あぁ」
「それは・・・大丈夫なんですか?」
「どうだろうな。 ユイからは連絡が来ていないし、おそらく大丈夫だとは思うけど・・・。 まぁ今は、ユイのことを信じるしかないかな」
御子紫と後輩の会話に口を挟むコウ。 そして御子紫は、後輩らに続きを話し出す。
「それで今日俺たちは、ユイと同様『リーダー以外の結黄賊はこの場所へ集まれ』みたいなこと言われて。 だから今、俺たちはそこへ向かっている最中」
そう言いながら、証拠となる今説明したことが書かれてあるメモを後輩らに手渡した。 それを見て、彼らは不安そうな表情を見せる。
「俺たちとユイを同じ日に呼び出して時間も近いとなると、怪しく思うのが普通だろ? 
 それと同時に今日はクリーブル集会ってのが行われるときたら、これは何か裏があると思ってさ。
 だから夜月たちと残りの後輩を、心配だから集会の方へ向かわせた。 他の奴らはまぁ・・・みんなバラバラだ」
「バラバラ・・・ですか」
「おう。 ま、今はそんな感じでごちゃごちゃしている」
まとまっていない話だが、御子紫とコウも実際今何が起きているのかよく分からなかった。 
いっそヘリコプターにでも乗って、立川全体を見た方がすぐに理解できるのではないか。 そう思っても、そんなことは簡単にできないのが現実である。 

そして御子紫たちは、指定された空地へと着くが――――そこにはまだ、誰も来ていなかった。
―――残り5分・・・か。
「コウ先輩、このメモの差出人って、もしかしてクリーブルっすか?」
「多分な。 俺たちはそう思っている」
「あぁ・・・。 やっぱり」
彼らの会話を聞き流しつつ、御子紫はここにいる仲間を見渡して一人考える。
―――鉄パイプが使える椎野が抜けちまって、このメンバーだけで大丈夫かなぁ・・・。
「まぁ・・・コウと俊がいるから、大丈夫か」
「御子紫」
「え? あぁ、何?」
思わず心で思っていたことが口に出てしまい、それを聞いていたコウがすぐさま反応を示した。
「俺と俊だけに頼るのは止めてくれ」
「悪い悪い。 コウがいるだけで、安心しちまうんだよ」
少し嫌がっている彼に対し、御子紫は苦笑しながら言葉を返す。 そんな時、近くから後輩らの会話が耳に届いてきた。
「俺らをここに呼んで、何をする気なのかな?」
「どうだろうな。 リンチに遭う・・・とか?」
「ッ、だからそんな怖いことを言うな!」
「「す、すいません・・・」」
彼らの会話に突然口を挟んだ御子紫に、後輩らは小さな声で謝罪の言葉を述べる。 そして俊のいる方へ視線を向け、彼に向かって言葉を放った。
「俊。 その鉄パイプはどこか周りに隠しておくか、背中にでも隠しておけ。 最初から持っているっていうことが、相手にバレないようにな」
「はい」
もう怒鳴られることが怖くなったのか、素直に先輩の言う通りにする。 

そしてついに――――御子紫たちの目の前に、彼らが姿を現した。
「待たせたな」
その言葉を聞いて、結黄賊らは声のした方へ視線を移動させると――――そこには約30人もの男が、この空地にたたずんでいた。
彼らの手には一人ずつ鉄パイプやバット、バールなどが握られており、見た目でいうと喧嘩が強そうな奴らだ。
―――相手は見たところ、30人くらいか。
―――このメンバーなら、1人4人を目安にしたらいけるな。
―――・・・1人4人でも、厳しいのは確かだが。
そしてここにいる結黄賊のみんなが黙って相手を睨み付けていると、彼らの中心にいる人物がこちらを見渡してから小さく呟く。
「あれ・・・。 人数が足りねぇな。 他はどうした?」
「「「・・・」」」
誰も問いに答えない結黄賊に、男は何かを悟ったのか突然不気味な笑みを浮かべ始めた。
「ふっ、まぁいい・・・。 どうせ集会の方へでも行ったんだろ」
一向に話が進まないこの状態に、御子紫は自ら話を切り出す。
「アンタら、クリーブルっすよね。 俺たちに何の用ですか?」
「結黄賊を今すぐ解散させろ」
躊躇いもなくその一言を言い放つ一人の男。 

だが今回の彼らの本当の目的は“結黄賊を解散させる”ということではないということは――――ここにいる彼らは、誰一人予測していなかった。

そしてその言葉に対し、御子紫はなおも相手を睨み付けながら言葉を返す。
「・・・嫌だと言ったら?」
「だったら、力尽くでもッ!」
「ッ・・・!」
そう言って、クリアリーブルは結黄賊に向かって勢いよく押し寄せた。


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