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結人の誕生日とクリアリーブル事件2⑪




数分前 路上


椎野たちが救急セットの買い出しへ行き、公園へと向かっている中――――結人、真宮、夜月は3人で立川を彷徨っていた。
「大丈夫か? 真宮」
「・・・俺は、大丈夫だよ」
夜月は隣にいる真宮に向かって、優しい言葉を投げかける。 彼をあまり一人にはしないよう、積極的に外へ誘い一緒にいる時間を増やしていた。
「何か嫌なことがあったらすぐに言えよ。 真宮一人で抱えるもんじゃ、ねぇんだから」
「・・・」
副リーダーを本当に辞めようかと迷っているのか、真宮の気分は上がらない様子。 そんな時――――突如、結人の携帯がこの場に鳴り響く。
「あぁー・・・。 もしもし、御子紫?」
彼らの会話をよそに、ポケットから携帯を取り出し電話に出た。 すると電話越しからは、御子紫の焦った声が聞こえてくる。
『ユイ、大変だ! 今すぐ公園へ来てくれ!』
「は?」
『ユイ宛に、メモが残されている。 ・・・おそらく、クリーブルから』
「ッ・・・。 分かった、今すぐそっちへ向かう」
「ユイ、どうした・・・?」
急に表情が険しくなった結人を見て、夜月がそっと声をかけた。 そして電話を切ると同時に、現在副リーダーである真宮に向かって言葉を放つ。
「真宮、今すぐみんなに連絡をして公園に集合させろ!」





数分後 正彩公園


結人が公園へ着く頃には、病院で入院している悠斗以外のみんなは集合していた。 と言っても、真宮から連絡が届きここへ足を運んだのは、未来、コウ、優だけなのだが。
優はまだ松葉杖を使っているため、ベンチに一人腰を下ろしている。 そんな事情を知っている結人は彼には何も言わず、みんなのいるもとへと足を運んだ。
そして着くなり、椎野が一枚のメモを手渡してくる。
「くッ・・・」
刹那、再び結人の表情は厳しいものとなった。 
御子紫から電話が届いた時には漠然とした不安だけが襲いかかってきたが、実物を目にして内容を把握すると不安から恐怖に変わり心が支配された。
そんな心境を読み取ったのか、椎野は結人に向かって一言を放つ。
「ユイ、明日は俺たちも行く」
「それは駄目だ」
「どうして?」
「まだ何をされるのか決まったわけではない」
「もし相手がユイをリンチにでも遭わせたら」
「そん時はそん時だ。 とにかくここに書いてあることを守らなかった方が、俺が酷い目に遭うということは目に見えている」
「・・・」
結人自身はそう言って強がってはいるが、本当は一人だととても怖かった。 だけど仲間を同じ不安な気持ちにさせないよう、そう口にするが――――
「相手は俺たちのリーダーと話し合うことが目的なのか?」
「さぁな」
「じゃあせめて、鉄パイプくらいは持っていけよ」
「自ら喧嘩を売ってどうすんだよ」
仲間は結人が一人で行くことに対して、不安に感じ心配しているようだ。 
だが結人はこのメモに書いてあることをハメられると分かっていながらも、事件をこれ以上大事にさせたくないため素直に従いたかったし――――
何と言っても、仲間をこれ以上酷い目には遭わせたくなかった。 だから結人は戸惑いながらも、一人で行くことを決意したのだ。 
クリアリーブル事件は、まだ完全に終わっていないのかもしれない。 だったらいっそ自分の手で、事件を終わらせてしまえばいい。 そう考えていた。 

たとえこの先――――残酷なことが、待っていようとも。

「素手だと負けるかもしれないんだぞ? 相手は何人いるのか分かんねぇんだし」
「この間コウに喧嘩の練習相手になってもらったから、身体は十分動くようになった。 つーか、俺はやられるっていうことを勝手に決め付けんなよ」
「・・・」
鋭い目付きで御子紫を睨みながらそう言うと、彼は思わず結人から目をそらし口を噤む。 そんな中、夜月がこの場の空気を変えるようにそっと別のことを口にした。

「やっぱり・・・ユイが呼び出されたのも、クリーブル集会と何か関係があんのかな」

「「「・・・」」」
確かに結人が呼ばれた日はクリアリーブル集会と同じ日で、時刻も近い。 そんな奇妙な一致に、ここにいる彼らは違和感を覚える。
少し冷静さを失っていた結人は夜月のその一言によってようやく我に返り、一度深呼吸をして仲間に向かって命令を言い渡した。
「とりあえず、俺は明日一人で行くよ。 でも確かにお前らが言った通り、俺はリンチに遭うかもしれねぇ。 だからその時のために、お前らはここで待機していてくれ。
 何か危ないことがあったらすぐに連絡する」
「「「了解」」」
みんなが命令を了承する中、一人の少年がそっと口を開いた。
「ユイ。 ・・・悪い、明日のその時間帯、俺はここには来れない」
そう口にした少年――――未来の方へ、ここにいる仲間は自然と注目する。 そして結人は、そんな彼に対し尋ねかけた。
「いいけど・・・。 明日、何かあんのか?」
「ちょっとな。 用事が入っちまってて」
「そっか・・・。 分かった、いいよ」
「悪いな。 用事が終わり次第、俺もこっちへ向かうから」
「了解」

―――未来の奴・・・悠斗が言っていた通り、確かに様子がおかしいな。

その後は特にみんなに伝えることはなく、そのまま解散する。 これから、結人は未来に声をかけようとしたのだが――――突然、北野に呼び止められた。
「ユイ」
「え? あぁ、何?」
「今日、救急セットの買い出しへ行ってきたんだ。 倉庫の中の箱に補充したいから、倉庫の鍵を借りてもいい?」
「あ、いいよ。 すぐに返してな」
「ありがとう」
北野に鍵を手渡すと、すぐにその場から走り去り未来を追いかける。 公園を出て左へ曲がり、彼の姿を発見すると同時に声を張り上げた。
「未来!」
それによって未来はその場に立ち止まり、後ろへ振り返る。 結人は走って彼のもとまで行き、呼吸を整えた。
「どうしたんだ? ユイ」
両手をポケットに突っ込みながら何食わぬ顔をして尋ねてくる未来に、真剣な表情で尋ねかける。
「未来、明日はどこへ行くんだ?」
「え?」
「用事ってのは、一体何なんだよ」
相手が未来だからなのか、結人は直球に聞きたいことだけをぶつけた。 その問いを聞いて、彼も険しい表情へ変わり口を開く。
「・・・それ、悠斗に言われたのか?」
「・・・」

―――気付いていたのか。

結人は言葉に詰まり、黙り込んでいると――――急に、未来は笑い出した。
「ははッ! そんなに俺、分かりやすいかなー」
誤魔化すように口にした後――――突然笑うのを止め、優しい表情になる。
「俺は平気。 悩みや困っていることがないっていうのは、本当さ」
「・・・本当か?」
「あぁ」
そして、その表情のまま――――未来は結人に心配をかけないよう、言葉も優しく口にした。

「ユイ。 明日、マジで気を付けろよ。 ・・・もし何かあったら、俺もユイを助けに行くから」


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