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結人の誕生日とクリアリーブル事件2⑧




放課後 沙楽総合病院 悠斗の病室


「クリーブル集会?」
「あぁ。 さっき学校で『今週土曜日、初のクリアリーブル集会を行う』っていうメールが届いたんだ」
悠斗の病室に足を運んだ結黄賊たちは、ベッドを半周ぐるりと囲むようにして立ち話をしている。 どうやら内容は、先刻伊達のもとに届いたメールの話をしているらしい。
「どうして今更集会?」
「さぁ・・・」
「クリーブル事件が一段落したというのにいきなり集会をするとなると、何か嫌な予感しかしねぇな」
「「「・・・」」」
夜月の迷いも見せない鋭い発言を聞き、この場の空気は一瞬にして凍り付く。 誰もが思い出したくもない出来事を強制的に蘇らせるような、クリアリーブルからのメールだった。
内容などは一切書いておらず、初のクリアリーブル集会だという緊張感と何が起こるのか分からない漠然とした不安だけが、伊達以外の結黄賊たちにも襲いかかる。
「そのメールは、クリーブルのリーダーからか?」
「・・・分からない」
「つか、その前にクリーブルにはリーダーがいんの?」
「分からない・・・」
伊達は『分からない』だけを貫き通すが、それは無理もない。 

クリアリーブルは縦と横の繋がりがハッキリとなく、ましてや色も無色透明なためどんな集団なのかすら分からないのだから。

「伊達は、その集会へ行くの?」
「何が起こるのか分からないから、一応行くのは止めようと思っていたんだけど・・・。 さっき、クリーブルの仲間から連絡が来てさ。 『土曜日、一緒に集会へ行こう』って」
不安そうな面持ちで口にする伊達に、椎野はその背中を押し一歩前へ踏み出せるよう勇気を与える。
「大丈夫だって、行ってこいよ。 クリーブルは人が多いんだろ? つーことは、200人や300人くらい普通に集まるっしょ。 それだけいりゃ大丈夫さ。
 オフ会みたいな感じで楽しそうだし、行っても後悔はしないと思うぜ。 何かあったら、俺たちにすぐ連絡してくれていいから」
「・・・うん、そうだな」
優しく笑いかけてくれた椎野に、伊達も微笑み返す。 そんな彼らの光景を見て、御子紫は突然声を張り上げた。
「よし! それじゃあ気分を盛り上げるために、今からみんなでカラオケにでも行こう!」
「お、いいねそれ」
「どういうグループ分けにする?」
「グループはカラオケへ向かいながら決めようぜ」

この病室でカラオケの話で盛り上がる中――――一人の少年がそっと口を開き、みんなに向かって静かに言葉を紡いだ。

「みんな、悪い。 俺は今日・・・パスで」
「えー。 未来がいないとつまんねぇじゃん!」
申し訳ない表情で断りを入れた未来に、御子紫はふてくされた態度で言葉を返す。
「悪いな。 この後俺、予定が入っちまっているからさ」
「そっかぁ・・・。 じゃあ、また誘うよ」
「あぁ、さんきゅ」
苦笑しながら答える仲間を見て、優も同様声を張り上げた。
「じゃあ早速、カラオケへ出発だ! 悠斗、また来るね!」
「うん。 楽しんでおいで」
優が椅子から立ち上がる瞬間、コウはさり気なく彼の身体を支える。 そして無事に立てたことを確認すると、自分のバッグと優のリュックを両方手に取った。
「グループ分けはどうしようかなー」
「俺はコウと一緒がいい!」
「優はいつも、コウと一緒にいるだろうが」
悠斗は楽しそうにカラオケの話で盛り上がっている彼らを優しく微笑みながら見送っていると、寂しそうに背中を向けた一人の少年に気付き、刺激を与えないよう優しく言葉をかける。

「未来・・・?」

「ん?」

突然名を呼ばれ立ち止まる未来。 だが口を開かずにずっと黙っていると、何かを察したのか口を開いて言葉を綴った。
「あぁ、何か欲しい物でもあるのか? 言えよ、買ってきてやるからさ」
ぎこちない口調で言葉を紡ぐ彼に、心配そうな面持ちで尋ねる。
「いや、それは大丈夫だよ。 それより・・・未来は、大丈夫?」
「大丈夫、って?」
「今から、どこへ行くんだよ」
「・・・」
悠斗の発言を最後に、この空間には沈黙が訪れるが――――そんな中、未来は小声で呟いた。
「・・・悠斗には、関係ねぇだろ」
「俺は、未来のことが心配だから」
「病人は俺に構わず安静にしておけ!」
「ッ・・・」
悠斗の発言を遮るように力強く発せられた言葉に、思わず返事を詰まらせる。 その様子を見て、真剣な表情をしていた未来は一瞬にして笑顔になり、優しく言葉を綴った。
「何か欲しい物があったら、俺に連絡しろ。 すぐに買って、届けてやるからさ」
それだけを言い残し、足を止めずにこの場から逃げるようにして去っていった。 
悠斗は未来をこれ以上止めることができなかった代わりに、自分のバッグから携帯を取り出し――――廊下へ向かって、一歩足を踏み入れる。

そして、電話の繋がる場所まで移動した。 歩くことに関しては特に痛みはない。 
上半身を捻じったりすると背中の傷口が少し開き痛みを感じるが、そうしない限り生活には支障が出なかった。 携帯使用可能な場所まで来た悠斗は、電源を入れ電話をかける。
『・・・あ、もしもし?』
「・・・ユイ?」
そう――――悠斗は結人に連絡し、彼に助けを求めようとしたのだ。
『おう、どうした? 何か欲しい物でもあんのか?』
「いや、そうじゃない。 その・・・未来の、ことなんだけど」
『・・・』
彼の名を聞いた結人は、何かを察したかのように突然黙り込む。 その反応を感じ取りながらも、悠斗は言葉を紡ぎ出した。
「未来の様子が少し変なんだ。 一人で何か、また事件を起こそうとしている。 ・・・そんな、気がするんだ」
『それで、俺に何をしてほしいんだ?』
少し溜め息交じりで尋ねてきた結人に、頼み事を入れる。
「俺が未来に聞いても、何も答えようとしなくて駄目だった。 だから、時間がある時でいい。 
 いつでもいいから・・・未来に、今何をしているのか、今何を考えているのか、聞いてみてほしい」
『・・・』
そしてまたもや、二人の間に沈黙が訪れる。 結人はこの時、きっと“悠斗でも駄目なら、俺ならより駄目だ”と思ったのだろう。
だが仲間の頼みを聞いてあげるのがリーダーとしての役目でもあり、仲間のことを第一に気にかけるのもリーダーとしての役目でもあり――――
『分かったよ。 時間ができたら、俺から未来に聞いてみる』
「・・・ありがとう、ユイ」
結人は仲間から頼られることを嬉しく思いながら、悠斗の頼みを快く受け入れた。


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