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結人の誕生日とクリアリーブル事件2④




家から出た結人と伊達は、先刻言った通り行く当てもなく適当に街を歩き出した。 綺麗な夕日が沈む中、誰もいない通りに二人の影だけが浮かび上がる。
そんな優しい光に包まれながら、伊達は結人に向かって静かな口調で言葉を紡いだ。

「なぁユイ。 結黄賊のこと、教えてくれよ」

「ッ・・・。 結黄賊の何を知りたいんだよ」

突然“結黄賊”という単語が飛び出し驚いて伊達を見るが、今歩いているこの通りには人がいないということに気付き、顔を前へ向け直しながら苦笑して答える。
「そうだなぁ。 例えば、どうやって結成したのだとか」
「結成? チームを作ったのは去年だよ。 俺たちが中3になったばかりの頃に作った。 だから、結成してまだ一年ちょっとしか経ってねぇよ」
「みんなは最初から喧嘩が強かったのか?」
「まさか」
「じゃあ、どうやってメンバーを集めたんだよ」
その問いにしばし考え込み、答えをゆっくりと綴り出した。
「まぁ・・・そうだな。 俺たちは二つの小学校から集められたんだけどよ。 集められたっていうか、二つの小学校が一つの中学校に上がったって意味な。
 俺と夜月、未来、悠斗、北野が同じ小学校で、残りの奴らは違う小学校だったんだ」
「へぇ・・・。 だから未来たちは、夜月と仲がいいのか」
「仲がいいっていうか、今も同じクラスだからっていうのもあるけどな」
そして続けて、過去を思い出しながら言葉を紡いでいく。
「でも俺、違う小学校の奴らとはあまり関係がなくて。 中学に上がって初めて会った時も、俺は夜月とずっと一緒にいたし他の奴らとは関わる機会があまりなかったんだ。
 それで中3の時、何か新しいことを始めようと夜月と考え出したのが結黄賊」
「へぇ・・・そうなんだ。 それで、メンバーはどうやって集めたんだ?」
細かいことをもう一度聞かれ、必死に過去を思い出そうとする。

「えっと確か・・・。 まぁ、まずは未来と悠斗は分かるだろ? 普通に小学校の時から仲がよかったし、一番最初に入れた。 
 そんで真宮に関しては、住んでいるところは違ったけど俺が頼み込んで入れてもらった」

「北野は? 一緒の小学校だったんだろ?」
「北野に関しては、まぁ・・・うん。 ぶっちゃけ北野と初めて関わったのは、結黄賊を結成して少し経ってからだったんだ」
「え?」
「クラス、北野とは全く被らなくてさ。 あまり接触する機会もなかったし」
結人は過去を思い出しながら、苦笑して言葉を返す。
「じゃあ・・・どうして入れたんだ?」
難しそうな表情をして尋ねてきた伊達に、少し微笑みながらその答えを返す。
「俺たちの保健係に最適だと思ったからさ」
「保健係?」
「そう。 優しい奴で人もよさそうだったし、とにかく応急処置が得意だったから、即採用したぜ」
「採用って・・・」
その言葉にあまり納得がいっていないのか、更に複雑な表情をする彼をよそに先刻の続きを話し始めた。

「まぁ他の奴らは、繋がりだ。 未来と悠斗は小さい頃からコウと優と仲がよくて、二人を誘った。 それでコウたちは仲がよかった、御子紫と椎野を誘った。 そんな感じ」

「やっぱりそのツーペアは最初からだったのか?」
「まぁな」
「・・・あ、でもどうして未来たちは小学校の違うコウたちと、仲がよかったんだ?」
「そこら辺のことは・・・忘れた」
「そうか・・・」
そして結人は、付け足すように言葉を続けていく。

「あぁ、後輩たちも一緒で、みんなと仲がいい後輩を誘ったんだ。 もちろん適当に誘うんじゃなくて、人の性格を見た上でな。 性格が駄目だったら即切り捨てる」

「だから・・・結黄賊は、いい奴ばかりが集まっているんだな」
「そういうこと。 仲間を思いやったり、街の人々を争い事から助けたり、かつ喧嘩も強いだなんて・・・最高なチームだろ?」
「そうだな」
結人が笑いながら口にすると、彼も微笑みながら返してくる。 そして少しの間考え込み、伊達は再び口を開いた。
「そういや、リーダーはどうやって決めたんだ?」
その質問を聞いた瞬間結人は大袈裟に溜め息をつき、かったるそうに答えていく。

「それは適当だよ適当ー。 そう、適当。 チームみんなが集まって“リーダーを決めよう”って話になった時、立候補する奴が誰もいなくてさー。
 それで結局、言い出しっぺの俺がリーダーをすることになったわけ。 な? 適当だろ。 リーダーはちゃんと、みんなの意見を聞いて決めた方がいいのにな」

そう言って、自虐的に笑った。 だがそんな笑顔を打ち消すように、隣にいる伊達はそっと言葉を口にする。
「・・・でも俺は、ユイがリーダーでよかったと思っているよ」
「え? ・・・伊達は結黄賊でもないのに、どうしてそんなことが言えるんだよ」
溜め息交じりでそう呟くと、彼はその問いに丁寧に答えていく。

「ユイは本当に、リーダーとしての才能がある。 たくさんいるみんなのことをちゃんとまとめられているし、仲間のことを第一に考えているし。 
 というより、結黄賊のみんながユイに忠誠を誓っていることから凄いと思う。 それだけみんなは、ユイを信用しているっていうことだろ?」

「はは、どうだろうな」
「俺たちクリーブルみたいに、一番上の人間がいないっていうのも気楽でいられていいけど、ユイみたいなしっかりしたリーダーがいてもいいなって思ったよ」
「・・・」
そう言われ、結人は突然黙り込む。 次に伊達が何を口にするのかを予測し、それを言われる前に言葉を放った。

「でも伊達は、俺たちみたいな喧嘩をするチームには似合わねぇよ」

「・・・それも、そうだな」

その時彼は少し寂しそうな表情を見せるが、結人はわざと気付いていないフリをする。 そして気まずい空気が続かないよう、彼は違う話題を口にしてきた。
「そうそう、ユイは夜月と仲がいいじゃんか。 どうやって仲よくなったんだよ?」
「あ・・・」
「?」
その質問には、言葉が詰まり思わず息を呑む。
―――でも・・・もう、いいんだよな。
―――終わった、ことなんだし。
「俺・・・マズいことを聞いちまったか?」
より気まずくなった空気をどうしようかと、伊達は急にあたふたし出す。 そんな彼をフォローするように、結人はその問いに対しての答えを静かな口調で口にした。
「いや・・・。 夜月と知り合った時は、仲よくなんてなかった。 というより・・・俺は、夜月から嫌われていたよ」
「・・・嫌われていた?」
聞き返してきた言葉にゆっくりと頷き、過去に起きた苦い事件を一言にまとめ、覚悟を決めてから息を吐き出す。

「・・・俺は夜月に、二回殺されかけたことがあるんだ」

「! なッ・・・殺され、って・・・ッ!」

~♪

結人の一言でこの場の空気が一気に凍り付いた瞬間、その雰囲気を無理矢理打ち砕くかのように伊達の携帯が突然鳴り出した。
彼は申し訳ない気持ちと迷惑な気持ちが入り混ざったような複雑な表情をしながら、携帯を取り出し相手を確認してから電話に出る。
「もしもし? ・・・あぁ、うん。 分かった、今すぐ戻るよ」
通話は数十秒で終わり、携帯をポケットにしまい込みながら口を開いてきた。
「母さんが、ご飯ができたからそろそろ戻ってこいって」
「そっか。 じゃ、家へ戻ろうか」
そう言って家に向かって歩き出すと、先刻の話をもう一度切り出してくる。
「ユイ。 その、さっきの話なんだけど・・・殺されかけたって、どういう意味?」
尋ねられると、その場に立ち止まり後ろへ振り返った。 心配そうな面持ちで質問してきた伊達に、微笑みながらこう返す。
「その話はまたいつかな。 そんな重たい話より、今は楽しいことを話そう。 そうじゃないと、飯を美味しく食えねぇだろ」
そう言い終えると、結人は再び前へ向き直り一人歩き出した。


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