文化祭とクリアリーブル事件⑦⑧
―――・・・もう、ここまでか。
真宮から聞かされた今までの事実を知ってから、一度も口を開いていない色折結人。 彼らのやり取りをずっと見守り続けていた結人は、今の仲間の状況を見てそう思う。
真宮が決定的な質問を口に出してから、皆一斉に黙り込み誰も口を開く者がいない様子。 そんな彼らを見かねて、そっと口を開き言葉を発した。
「まぁ、お前らそこらへんにしておけよ」
長い沈黙を静かに破った結人の方へ、ここにいる結黄賊らは自然と目を向ける。 そして彼らの視線を全身で感じながら、続けて言葉を放した。
「真宮に聞きたいことは、一通り全て聞き終えたんだろ?」
「「「・・・」」」
尋ねると、ここにいる彼らは気まずそうに目をそらしたりして俯き出す。
―――ここはみんなの意見を聞いていった方がよさそうだな。
―――真宮を許してくれる奴は当然いると思うが、許してくれない奴もきっといるだろう。
―――俺がここで下手に命令を下すより、みんなの意見を聞いて参考にしてから、言い渡した方が納得するだろうしな。
今の状況を見てそう判断した結人は、仲間のことを見渡しながらゆっくりと言葉を紡いでいった。
「よし。 いいか、お前ら。 今から一人ずつに意見を聞いていく。 これから真宮をどうするのかという話は後にして、今はみんなの意見が聞きたい。
今お前らが、真宮に対してどう思っているのかを」
―――・・・やっぱり、最初は未来かな。
―――みんなの意見を聞いて感情的になる前に、自分の思いを吐き出してしまった方がいいか。
その言葉に対して何も口答えをしてこない彼らに、一人の少年に目を付けて口を開く。
「じゃあ、まず最初は未来から。 未来はどう思っているんだ? 真宮のこと」
結人が“未来”という名を口にすると、ここにいる仲間は皆同じような反応をした。
まさかトップバッターが未来だとは思わなかったのか、みんなはこの緊張感が張り詰められた空気の中、彼から出る言葉を覚悟して聞くかのように身を強張らせる。
そして未来は少しの間考え込み、静かな口調で言葉を放した。
「・・・俺は、お前を許さない」
―――・・・だろうな。
みんなも結人と同じようなことを思ったのか、その一言にはそれ程大きな反応を見せなかった。
そして彼は感情的にならないよう自分を制御しながら、落ち着いた口調で言葉を紡ぎ続ける。
「真宮の、苦しさも分かるけど・・・。 だからと言って、俺たちに手を出すのはおかしいと思う。 相談してくれてもよかったし、他にも方法はあっただろうし。
でも実際・・・真宮は、直接仲間に手を出したんだ。 そんなこと、簡単に許せるわけがねぇ。 俺らだって、真宮を最後まで信じていたんだよ。
だけど、その信頼を裏切られたこの気持ち・・・真宮は分かってんのか!」
「・・・」
今はみんなからの意見を聞くだけなので、真宮も空気を読んだのか反論はしてこなかった。 そんな彼に同情しつつも、次の人へ話題を振る。
「分かった。 未来ありがとう。 じゃあ次、優の意見を聞かせて」
そう言うと優は予め言いたいことを考えていたのか、結人に続けてすぐに言葉を発した。
「もし俺が真宮の立場だったら、俺は真宮と同じことをやっていたのかもしれない。
藍梨さんと結黄賊、二つとも守るために・・・みんなには、犠牲になってもらっていたのかもしれない。 だから俺は、真宮を責めることはできないよ。
俺もきっと、真宮と同じことを考えるだろうから」
そして――――そんな彼の意見に対し、口を挟む者が一人。
「優。 それは、お前は真宮にやられていないからそんなことが言えるんだ」
そう口にした少年――――御子紫に対し、優は否定の言葉を述べていく。
「そんなことないよ! もし俺が真宮にやられていたとしても、きっと同じことを言っているはずだ!」
「実際真宮にやられてもいないのに、そんなことは言えないだろ」
「どうしてッ・・・」
御子紫との口論に言葉が詰まってしまった優を見て、隣にいたコウはフォローするように自分の意見を言っていく。
「俺も優と同じ意見だ。 もし俺が真宮の立場だったら、俺だって同じことをしていたはず。 だから俺も真宮を責めることはできないし、恨んだりもしていない」
そしてまた――――その意見に対し、口を挟む少年が一人。
「コウは違うだろ。 もしコウが真宮の立場だったら、お前はそんなことしないはずだ」
「・・・どういう意味だ」
コウは向かい側にいる未来の方へ目を向けながら尋ねると、彼は目をそらしながら淡々とした口調で言葉を綴っていく。
「よく考えてみろ。 コウが真宮の立場だったら、お前の性格からして俺たちには一切手を出さないはず。
藍梨さんを守り結黄賊を守り、そして仲間にも手を出したくない・・・。 だからコウは自分自身だけが犠牲になるよう、他の方法を考えていたはずだ」
「ッ・・・」
その言葉にも反論することができなくなったのか、コウは悔しそうに目をそらした。 そんな状況を見て、結人はこれ以上気まずくならないようにと慌てて次を促していく。
「分かった。 優とコウ、ありがとな。 じゃあ・・・次、北野。 北野はどう思う?」
北野も優と同様、尋ねるとすぐに口を開き言葉を紡ぎ出した。
「俺も真宮を許す。 真宮だって今まで苦しい思いをしてきたわけだし、これはみんなの責任だと思う。 だって・・・これだけの事件で、俺たち結黄賊の関係は崩れないでしょ?」
最後の一言を聞いて、結人は思わず微笑んでしまった。
「そうだな。 これだけのことで、俺たちの関係は崩れねぇよ」
―――そう・・・北野は、それでいい。
―――これからもずっと、中立な立場でいてくれよな。
そして続けて、北野の隣にいる椎野に話題を振る。
「次は椎野。 お前は、どう思う?」
口にすると、椎野は少し俯いたままいつもより声のトーンを低くして、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「俺は・・・真宮の辛さ、苦しさに、気付くことができなかった・・・。 ・・・だから、真宮を許さないなんて、言える立場じゃない」
―――被害者である椎野は、真宮を許す・・・か。
そんな意見を口にした彼を見て、すぐさま一人の少年が口を挟む。
「待てよ、お前は真宮にやられた身なんだぞ!? だから、椎野は真宮を少しくらい恨んだりしても」
「だから、俺にはそんなことができる資格はない」
御子紫の容赦ない鋭い発言にも、椎野は落ち着いた態度で淡々と返していく。 そんな彼の意見を聞いて、真宮はそっと口を開き言葉を放した。
「椎野。 ・・・椎野は、俺が苦しい状況にいるということを一番最初に気付いてくれた。 でも俺は『特に何もない』とか言って今まで誤魔化してきた。
だから・・・嘘をついていたのは俺だ。 椎野が今、思い悩む必要はない」
言い終えると、椎野はその言葉を聞いて拳を強く握り締める。
「俺は・・・あの時、もう少し真宮を引き止めていれば・・・ッ!」
椎野と真宮の事情については、この二人以外誰にも分からない。 だから彼らの発言に口を開ける者なんていなかったが、結人は空気を変えるよう違う者に話題を振った。
「分かった。 椎野、ありがとな。 ・・・じゃあ次、御子紫」
彼は急に話題を振られ一瞬戸惑うも、すぐに状況を把握し自分の意見を紡ぎ出す。
「俺は真宮を許さない。 未来と意見は一緒で、俺たちに手を出したりすんのはおかしいと思う。 ・・・仲間を、見捨てたんだからな。 ・・・それに」
「・・・」
真宮は目を合わさずに、耳だけを傾ける。 そして少しの間を置いて、御子柴は突然声を張り上げた。
「もしユイがあのまま目を覚まさなかったら、お前はどうしていたんだよ! 下手したら、ユイは死んでいたのかもしれないんだぞ!」
「ッ・・・」
―――御子紫の気持ちも分かるが、俺は今大丈夫だからなぁ・・・。
怒鳴られた真宮は、歯を食いしばり何とかこの場を耐えやり過ごす。
―――まぁ・・・こんなもんか。
―――一応難しい奴らは、一通り聞き終えたかな。
結人は今まで聞いてきた彼らの意見を振り返りながら、心の中でそう呟いた。