2-1 スーザン村のレイア
「剣士さん、こちらです。私の村に行きましょう」
「あ、どうも」
彼女についていく。話し方、仕草まさにレイナそっくりだ。しかも、どういうわけか、彼女の首には久瀬山の神社でレイナに渡した物とそっくりな首飾り身に着けている。
僕は通り道にあった、綺麗な池に顔を映した。死ぬ前と変わらない。たぶん、死んだときと同じ16歳のようだ。因みに、着ている服装は、死んだときと同じ学校指定のジャージのままだ。
「あ、そういえば、お名前まだでしたわね。私はレイア。スーザン村に住んでいる娘です」
「僕は・・・そうケント。ケントです」
「ケントさんですね。クエストを受けていただいて、本当にうれしいわ」
とっさに出た【ケント】という名前は、【クエクエ3】で主人公につけている名前だ。
【クエクエ1】と【クエクエ2】も同じ名前でプレイしていた。3以外は完全クリア済みだ。
それにしても、【レイア】という名前、【レイナ】にそっくりだ。
そういえば、スーザン村って、【クエクエ2】に出てきた最初の村の名前と同じだな。
「レイアさん、スーザン村って、どこの大陸にあるんでしょうか?ど忘れしてしまいました」
「レイアでいいわよ。どの大陸って、アンムルグ大陸ですよ。ずいぶんと忘れん坊ですね」
やっぱりそうだ。クエクエ2と同じ設定だ!もしかして、僕が来た異世界はクエクエ2の世界か?
「そうですよね。ちょっと忘れっぽくて、ところで、今年はムーア歴700年ですよね?」
「え?どうしたんですか?今年はムーア歴1500年ですよ。本当に忘れっぽいんですね」
レイアはクスクスと笑う。笑い方もレイナにそっくりだ。
それはそうと、ムーア歴1500年なんて、どの【クエクエ】にも当てはまらない。
【クエクエ1】ムーア歴300年
【クエクエ2】ムーア歴700年
【クエクエ3】ムーア歴1100年
という設定なのだ。つまり、1500年となると・・・・【クエクエ4】?なのか?
しばらく歩くと、高台から村が見えた。スーザン村だ。
「この配置、クエクエ2のスーザン村とそっくりだ」
「そっくりって、どうかされましたか?」
「あ、いや・・・ずいぶんのどかで美しい村ですね」
「そうなんです。私の自慢の村ですよ」
僕は適当なことを言って嘘をついた。
「レイアさん、その首飾り、綺麗ですね」
「ありがとう。似合ってるでしょ?小さいころおじいさんに貰ったの。似合っているから、ずっと身に着けていなさいって」
僕がレイナに渡した首飾りと違うのか。まあそうだろう。
僕はレイアに連れられて村に入り、ある一軒家に通された。
「あれ、ここはクエクエ2では空き家だったはず」
「空き家?ですか?私ずっとここに住んでいますよ」
「え、あ、違います。飽きが来ない作りですね」
「すみません。空き家じゃなくて、飽きが来ないですね。そうなんです。うまく配置されて、使いやすいんですよ。」
また嘘をついた。
僕は少し広めの部屋に通された。応接間のようだ。すると、奥から大きなひげを蓄え、髪の毛がぼさぼさの大柄な男性の老人が現れた。
「おじいさん、こちらはケントさんです。クエストの依頼を受けてくださる剣士さんですよ」
「おお、ありがたい。私はジル。この子は私の孫じゃ」
「初めまして、ケントです。モンスター退治に来ました」
「いや~、ありがたい。本当に困っておっての。そのモンスターは農作物を荒らすのじゃ」
「ここで作られる、スーザンマンゴーは、とても美味しくて、王都では高値で売れるんです」
「そうなんじゃ。だからとても困るんじゃ」
「そうですか。それはお困りでしょう。その退治お任せください」
モンスター退治なんてやったことないのに嘘をついた。
「ちなみに、そのモンスターはどこにいるのでしょうか?」
「おお、さっそくやる気ですな。場所はこの東にある洞窟で、みんなは【スーザン東の洞窟】と呼んでおる」
なるほど、場所といい、名前といい、【クエクエ2】と同じ設定だ。ということはモンスターは・・・・
「モンスターはモグリンですね」
「その通りじゃ。さすが剣士さん、何も言わずにそこまで分かるとは。そう、モグリンが出るんじゃが、倒しても倒しても現れてきて、何とかしてほしいのじゃ」
「分かりました。早速向かいましょう。」
「そうそう、モンスター退治のために、治療ができる魔法士か薬士も頼んでいたのじゃが、知りませぬか?」
「え?あ、そうだったのですか?僕は見かけませんでしたが、いなくても大丈夫ですよ」
【モグリン】は、【クエクエ2】の序盤に出る、2番目に弱いモンスターだ。そしてこの内容は、スーザン東の洞窟にいる、モグリンマスターを倒すというクエストで、【クエクエ2】の主人公が最初に受けられるクエストそのものだ。
クエスト名は【畑を荒らすモンスターを倒せ!】だ。これなら今の僕でも達成出来る気がする。
「ところで、ケントさん、失礼ながら、装備品は無しで向かわれるのか?」
「え?」
確かに、今僕がが来ているのはジャージだ。心もとない。
「え~と・・・大丈夫です。心配不要ですよ。ははは」
心配不要というのは、嘘ではなく本当だ。僕には秘策があった。