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五通目

やっと涙が止まって、外に出る。私と片瀬が見たのが最後の上映だったから、ほとんど人はいない。私がそのまま外に出ようとすると、何故か片瀬は立ち止まった。

「どうかした?」
「館長さんのとこ行こう」

どうして急にそんなことを言い出したのか分からなくて、困惑していると片瀬に手を引かれた。片瀬は何かを話すわけでもなくただ、黙って歩く。館長は上映が終わるとスクリーン室の奥にある館長室にこもる。片瀬は館長室の前で足を止めると、私の手をぎゅっと握った。片瀬はまゆをぎゅっと寄せて、大きく息を吐くと私の手から力を抜いた。

「行っておいで」

片瀬に背中を押されて、私はわけがわからないまま艦長室の扉を開けた。絨毯の敷き詰められた艦長室に足を踏み入れる。館長は一つだけある机と椅子の前に立って、私を待っていた。

「お久しぶりですね」

館長の柔らかい声が、私の鼓膜を震わせる。よく、最終上映に来ては館長とここで話をしたことを思い出した。大抵は洸と館長が星について語り合っていて、私には何の話か全くわからないことが多かったけれど洸が楽しそうに話しているのを見ていられるから、ここに来るのは好きだった。

「そうですね」
「これを、坂崎くんからあずかっています」

館長が机に置いてあった茶色の封筒を取り上げる。

「あなた宛の手紙です」

館長が両手で手紙を差し出す。私はそれを館長に合わせて両手です受け取った。

「どうか、幸せになってください」

館長の最後の言葉は、少し震えていた。

私は館長室を出て、片瀬と車に向かった。車の中で茶色い封筒を開ける。片瀬は手紙を読む私を邪魔しないようにか、外でよく見えない星を見上げている。

『プラネタリウム、楽しかったか?』

私はそんなに星好きじゃないよ。いつも、見ていたのはスクリーンに映し出される星ではなくて、洸のきらきらした横顔だった。

『館長と話した?』

話したよ。幸せになってくださいって言われた。
心の中で洸の言葉に返事を返しながら、右上がりの字を読み進める。

『もうすぐ、今日が終わるな』

まだまだだよ、あと4時間もあるじゃない。

『好きだよ、夏恋』

ぶわっと涙が溢れてくる。どうして、今、そんなこと言うの。

『だからさ、俺のこと今日だけは好きでいて。
忘れないで。今日まででいいから。
明日になったらきれいさっぱり忘れていいから』

忘れられるわけないじゃない。明日も明後日もその次だって。私の唯一好きになった人を、そんな簡単に忘れられないよ。

『じゃあ、次の場所な。

ヒントは1番多く一緒にいた場所

P.S.

そこで俺の日記を読めば全部わかるよ』

日記…?
やっぱり、自殺だった…?

もやもやと湧き上がってくる不安に蓋をして、私は片瀬を呼んだ。

「片瀬!洸の家に連れて行って」

1番多く一緒にいた場所。
デートってなると少し違うけれど、一緒にいたのは洸の部屋が1番多い。ベランダを超えてよく一緒にゲームしたり本を読んだり、ただぐたっとしたり。色々なことを洸の部屋でした。だから次の場所は、洸の部屋だ。

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