7、この野郎、ちゃっかりしてやがる。
エミーリオは、オチデンが勇者を意図的に隠しているという俺の無理矢理な陰謀説を信じたようで、墓を暴くことを承諾してくれた。
何でも、このところ軍備拡張をしている様子があったらしい。それで、勇者が殺されたので暗黒破壊神の討伐に協力できないと言い、セントゥロの守備が薄くなったところで攻め込んでくるのではと考えたようだった。
「遺体があれば、聖竜様の仰る通り疑惑が一つ消えます。少なくとも、勇者を隠し戦争に利用しようとしているという疑惑が」
エミーリオの話だと、こちらの世界では土葬が一般的なのだという。
世界に満ちる暗黒破壊神の悪意に触れ蘇ったりしないよう、聖職者による祝詞と封印を施されて埋葬されるのだと。
つまり、処刑の段階で俺の天罰のように骨も残さず殺されたとかでなければ、埋まっているはず。
『大丈夫だ。万が一蘇っても、俺の天罰で骨も残さんよ』
「頼みますよ。これがバレたら自分は大罪人です」
墓を暴くというのは封印を破るということ。つまり、死者を蘇らせ人々を危険に晒すこと。
見つかると暗黒破壊神の信徒だとして処刑される可能性もあるのだと。
『ふむ、では、まずマジィアの司祭を抱き込むか』
「確かに、聖職者立ち合いのもとで死者を掘り起こすことはあります」
聖竜様がいるのだし、大丈夫ですね! と見事な手の平返し。
ようやく納得してくれたようだ。
そんな話をしているうちに、国境の砦が見えてきた。レンガ造りの要塞のような建物に、トンネルのようなものが隣接していて、武装した兵士らしき人間が二人立っている。
ここで身分証の提示と出入国の理由、犯罪の有無を申告し通行税を支払うのだという。
横をすり抜けられないよう恐らく国境沿いにずっと背の高い金属製の柵がどこまでも伸びていた。
多くの人や馬車が出国審査を受けるためここで並んでいる。俺達もその最後尾についた。
エミーリオは脱走兵だが、国王の好意で騎士団所属のまま俺の護衛兼付き人の扱いにしてもらっている。
俺達の、というかエミーリオの不穏な言葉を聞いて密告した人がいたようだが、騎士団の身分証とエミーリオの「噂話ですよ」というやたらキラキラした胡散臭い微笑で何の問題もなく通過できた。
『エミーリオ、あの関所の周りには何故街が発展していないのだ?』
普通、関所となればその行列目当てに行商人が集まり、夜間関所を抜けられない人を目当てに宿ができ、とだんだん街として発展してもおかしくないのだが。
「それはですね、あの関所は1年前にできたばかりだからですよ」
何でも、昨年までオチデンとは冷戦状態。国境の境界線は小競り合いの度に変わり街は侵攻拠点にされないよう打ち壊したらしい。
目視できる範囲に街は見えない。今日中に宿に辿り着くのは無理なようだ。
「まぁ、各国を巡るのであれば何度かは野営になりますよ」
『人の多い所は何かと落ち着かぬ。まだ3オーラであるし、もう少し進もう』
「はいっ!」
野営をするにしても、明るいうちに準備をするというものらしく。
先ほど関所を抜けたものが街道から外れ草を刈り石を積みあちらこちらで野営の準備をしている。
まだ昼日中だ。先を急ぎたいこともあり、俺達はさらに進むことにした。
そして1オーラ後。
街道の両脇にはすぐ傍に鬱蒼とした森が広がっており、周囲に人は誰もいない。
このような場所は視界が悪くモンスターが潜みやすいとして野営には向かないからだ。だが、そんなことは俺とエミーリオには関係がない。むしろ望むところだ。
「この辺りでよろしいでしょうか?」
強行軍しても良いのだが、じきに日が暮れる。
俺が頷いたのを確認して街道から逸れた。
エミーリオは手ごろな太い幹に馬を繋ぎ鞍と荷物を下ろすと石を組んで竈を作り始める。
『エミーリオ、少し辺りを散策してくる』
「はい、美味しい食材を期待してますね」
この野郎、ちゃっかりしてやがる。適当に食えそうな木の実でも探すか。
俺は風呂敷を持つと森の中に入った。
そして現在。
俺の足の下には何やらグネグネと動くきのこがいた。
「やめてー。やめてよぅ。俺は悪いエリンギじゃないよう。プルプル」
『悪くないということは美味いということであろう? 大人しく俺様の食事になるんだな』
喋るエリンギ。こんなものをエミーリオに食わせても良いのだろうか?
と思ったがそういや魔物を解体して食ってたな。じゃぁこれも大丈夫だろう。エリンギだし。
観念して俺の餌になりな、と噛みつこうとしたら、舌打ちしやがった。なんか腹立つ。
「バレてしまっては仕方ない! そう、俺は人畜無害な群馬県産食用キノコ! 煮て良し焼いて良し、俺的にはバター炒めがお勧めです!」
『ああ、確かにエリンギのバター醤油炒めは最高……って、群馬県産? お前もしかして転生者か?』
「お? このネタがわかるってことはお前も地球出身か?」
少し話をしようじゃないか、というきのこをエミーリオの待つ野営地へ連れて帰る。
きのこの語る内容はとても信じがたいものだった。