第2話 痛い人たち
「······うぅぅ、寒いですね」
いくら太陽の光があっても濡れた体に吹く風はとても冷たい。
······早く暖かい服が着たいな。
繰り返しになるけれど今は裸だ。いくら元が男とはいえ、この格好は恥ずかしい。
木の影に隠れて、辺りに人がいないか確認しながら、こそこそと進んでいく。
そろそろかな?
金属と金属がぶつかり合うような、そんな音のする方向へ向かっている。
僅かにしか聞こえなかったその音がだんだんと、はっきりしてくる。
もう、かなり近い。
今すぐに助けを求めたいが、念には念を入れる。
今の僕は、か弱い少女。
近くにいる人が悪い人ならひとたまりもない。
この華奢な腕では抵抗することは叶わないだろう。
近くの木からこっそりと様子を伺う。
「うーん?」
僕の頭の上には疑問符が浮かんでいるだろう。
悪い人······ではなさそう。なんというか······ヤバイ人って感じだ。
男と女が一人。そこは別に問題ではない。
その格好が問題なのだ。
二人は今、互いに激しく剣をぶつけ合っている。
映画さながらの迫力だ。
でも、今どき剣なんて······撮影かな?
辺りを見回すも、後ろ側にはさっきまで歩いていた川、横は森、前はちょっと開けていて、そこには例の二人が......
どういう状況? 中二病?
こんな森の中で剣をぶつけ合うとか、結構痛いと思うけど······
「誰だ!」
「っ!?」
突然声を出すものだから、びっくりしたけど、寸前のところで声は出さずにすんだ。
いきなり叫んだのは、僕に背中を向けていた男の人で、女の人は少し困惑しているみたいだ。
背中に目でもついているんですかね......
とっさに木の後ろに隠れたけれど、僕と彼の間は25mくらい離れている。ちょっとした物音なんて聞こえないはずなんだけど......
第6感というものだろうか?
「これは警告だ。3秒数える。それまでに出てこい。出ないなら敵だと認識する」
あれー、これはもうばれちゃってる感じかな?
鋭すぎるよ。ラノベの主人公もこれくらい鋭ければいいのに。
「......3」
カウントダウンも始まっちゃったよ。
できればこのまま音沙汰なく終わるのが一番だけど、ばれてるなら印象を悪くするだけだし······
いや、でも僕は裸なんだよな······
「......2」
「別に······怪しい者ではありませんよ?」
ちょうど近くにあった、いい感じに体が隠せそうな低木のところまで移動して、両手を上げながら顔を出す。
よく見ると、二人とも僕と同じくらいの年に見える。
ちなみに僕は16歳だ。でも、この体はもう少し幼く思える。
女の人は、髪が腰に届くまで長く、絹糸のようにサラサラとしていて、真っ赤な髪は活発的な印象を与える。ワンポイントに黒いシュシュがあって、とてもかわいらしい。
だが、銀髪の僕が言うのもなんなのだけど、赤い髪なんてコスプレか何かだろうか?
男の人は、金髪で少しチャラそうな感じ。この人も染めているのかな?
顔は整っていて、いかにも主人公って雰囲気を出している。よく見たら握っている剣もそれっぽい。
なんか嫉妬しちゃうな。......まぁ今の僕は100人いたら100人が振り返るほどの美少女なんだけど。
「ちゃんと体も見せろ」
「いや~、
ちょっとふざけた感じで言ってみる。
けれど、そんなことはお構い無しと、一層顔を怖くして近づいてくるイケメン君。
僕の心臓は緊張でバクバクといっている。
そんなイケメン君が、ある程度近づくと頬を赤くして横を向く。
多分、僕の状態を把握したのでしょう。
同じように女の人も近づいてきたけれど、イケメン君と同じように頬を赤くして、慌ててイケメン君の目を隠す。
僕の今の体は同性の人でも恥ずかしくなるようなほどの整いっぷりということなのかな?
「きゃー、変態! こんないたいけな美少女を無理やり裸にするなんて」シクシク
胸を両手で隠して被害者アピール。
泣き真似まで加えて、第三者が見れば確実に僕に軍配が上がりそうな感じ。
もう自分でも何をやっているのか良くわからない。
「お、俺はそんなことしてない! お前が勝手に裸なだけだろ!?」
「あー、また見てきたー。やっぱり見たかったんですね。このロリコン!」
なんか表情とかがコロコロと変わるから面白い。
このままいじっていたい気持ちに駆られたけれど、印象を悪くするのも嫌だしな......
「す、すいません。このバカには後で言っておきますから......。それとこれ、着てください」
そう言って、赤髪の女の子が上着を貸してくれる。
少し大きめだけど、なかなかに着心地がいい。
格好はあれだけど、結構いい人ですね。
「ありがとうございます。お姉さんは優しいんですね!」
天使のような僕の笑顔は彼女の心をガッチリと掴んだようだ。
身長差のせいで僕が彼女を見上げるような形になっているから、上目遣いで効果は倍増。
「あ~、もうなんてかわいいの! ねぇ、連れの人はいないの? 一人? 近くの町まで送ってあげようか?」
「はい! ありがとうございます」
あー、なんてチョロ......優しいんだろう。こんなにチョロ......優しいと心配になっちゃうな。
変な人に騙されないか心配になってしまいます。
「じゃあ、早速移動しようか? ちょっと降りたところに馬車があるから、それまでは辛抱ね?」
馬車?ですか。今どきの日本にそんなものがあるんですかね?
これも設定なのかな?
あっ、そうだ。
「すいません。携帯貸してもらえませんか? 親に連絡したいので」
「ケイタイ? なんのことかな? 魔道具か何か?」
ここまで、設定を守るんですね......
もはやここまで来ると尊敬すら感じてしまいますよ。
「いえ、何でもありません。気にしないでください」
町に行けば電話くらいあるだろうし、今すぐに連絡する必要もないか。
そう思い彼女と
誰か······忘れているような?
「おい待てよ、そこの痴女」