夜泣き
赤ん坊の泣き声がする。
仕事で遅くなった帰り道、近道になる土手を歩いていた。
ここから見える周辺の住宅はみな寝静まっている。どこのお宅かは知らないが夜中に泣かれて母親は大変だろう。
そう思いつつ先を急いだが、どこまで行っても泣き声がついて来るので次第に薄気味悪くなってきた。
おぎゃあ。おぎゃあ。
自分の真後ろで聞こえ居ても立ってもいられなくなり思わず走り出したが、何かに足を取られて転んでしまった。
たくさんの赤ん坊の手が足首をつかんでいた。さわさわとふくらはぎを撫でながら内腿に這ってくる。
胎児たちの丸い頭が地面からぽこぽこと浮かび出てくると下腹部に向かって先を争った。
そう言えばこの川では、望まずしてできた子を流したという伝承がある。
そんなことを思い出したが、かといってどうすればいいのかわからない。
下腹がどんどん膨れてくる。
やめて。わたしは母親じゃない。
ぱんっ。
破裂音がして股間が温かく滑る。
激痛の中、遠のく意識が見たものは泣きながら地面に戻っていく赤ん坊たちの後ろ頭だった。