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文化祭とクリアリーブル事件⑤⑧




翌日 夕方前 沙楽総合病院 結人の病室


優の事件があったが、昨日はあれから特に何も起こらず何とか過ぎ去った振り替え休日。 
本当は楽しむはずの休日が、昨日起きた事件により結黄賊のみんなには再び恐怖が襲いかかっていた。
将軍の命令によりみんなの暴走は何とか抑えることができたのだが、結人自身もこれは時間の問題だと分かっている。 “早く休日になれ、休日になれ”と願い、焦る日々だった。
そんな中、昼食を済ませリハビリを終えベッドに静かに腰をかける結人。 窓の方へ目をやりながら、一昨日の出来事を思い出していた。
―――そういや・・・あん時、真宮は結局何も言わなかったんだよな。
そう――――それは振り替え休日一日目に起きた、結人が真宮に真実を問い詰めた時のことだった。


「じゃあ・・・どうして俺を、階段から突き落したりしたんだ?」
その言葉を最後に、結人の病室には重たい沈黙が訪れた。 この後は互いに何も会話することなく、ただ時間だけが刻々と過ぎていく。
―――どうして何も言わないんだ。
―――でもあれは・・・確かに真宮だった。
100%とまでは言えないが、99%確信していた。 あれは――――何度あの時の記憶を思い出そうが、信じたくなくても結人の知っている真宮の姿だったということを。
そして時間だけが過ぎていく中、真宮はやっとの思いで口を開く。
「俺は・・・。 俺は、やっていない」
彼の声はこんなに静かな病室でも聞き取れない程にか細く、かつ何かを恐れているのかとても震えているものだった。
結人のことがそんなにも怖いのか、真宮は目も合わさずただ否定の言葉を並べていく。
「俺じゃ、ない・・・。 俺は、悪くない」
その後何度も問いただすが、彼は『俺じゃない』という言葉の一点張りのため、これ以上探ることもできず結局は断念してしまった。


そんな一昨日起きた出来事を思い出しながら、結人は一人軽く溜め息をつく。

―――真宮は・・・嘘をついてんだよな。
―――どうして、嘘をつく必要があるんだ?
―――真宮・・・お前は今、何を考えてんだよ。

―コンコン。
ノックの音が聞こえると同時に、仲間の声も耳に届き結人はふと我に返る。 そして彼らに対して返事をし、病室の中へ入るよう促した。
結人は一度立ち上がり、仲間のいる方へ身体を向けるようベッドの反対側に腰をかける。 その様子を見ていた悠斗は、結人に優しく声をかけた。
「ユイ、座るのはそこでいいのか? 布団の中に入っていなきゃ」
「いいんだよ。 リハビリを終えたばかりで暑いんだ」
彼の優しさを受け止めながら、微笑んでそう返す。 そして、ここにいる仲間のことを見渡した。
―――今日はみんないる・・・あれ?
そこで結人は、ある変化に気付く。

―――真宮がいない・・・?

いつもなら彼らに交じって見舞いに来てくれるのだが、今日は彼の姿が見当たらない。 真宮について仲間に尋ねようとしたその瞬間、夜月が先に口を開いた。
「あー、そういやさユイ。 今日、真宮が学校に来なかったんだよ。 真宮から何か聞いていないか?」
「え? ・・・いや、俺は聞いていないけど・・・」
―――夜月たちも知らないのか。
―――てより、真宮が学校を休んだ? 
―――・・・風邪か?
結人が真宮のことを気にかけ思い悩んでいると、御子紫が陽気な口調で言葉を放つ。
「アイツ、どうせ抜け駆けでもしてクリーブルを探ったりしてんじゃないのー」
「え、マジで? だったら何かズリぃなぁ」
―――抜け駆け・・・か。
「ユイの命令、真宮は聞かなかったのかな」
北野はそう言葉を発するが、この先の発言が見つからないのか皆一斉に黙り込んだ。 その時――――再び、この病室にノックの音が響き渡る。

結人が入室の許可を出すと、その扉は開かれ――――そこには、真宮が姿を現した。

「ッ、真宮!?」
「真宮! お前今までどこへ行っていたんだよ! 学校サボりやがって!」
御子紫が彼に向かって怒鳴り付ける。 そして真宮は、その発言に返事をしながら結人のもとへと足を進めた。
「悪い悪い。 まぁ、サボるつもりはなかったんだけど」
「真宮・・・。 お前風邪か? 声が変だぞ?」
「あぁ、うん、ちょっとな。 昨日の夜、喉をやらかしちまって」
そう言って、頭をかきながら苦笑する。 だがここで、結人は少しの違和感を覚えた。 服装や背丈、顔もそのままの真宮だが――――何かが違う。
彼は今、自分のカラーである紫色のネックウォーマーを身に着け顔を半分隠しており、帽子も深く被って目元しか見えない容姿をしていた。
だが服装は普段着ている真宮のものと間違いはないため、疑いたくても疑えない状況なのだが――――
「真宮は今日、何をしていたんだよ」
コウが話を切り出し、率直にそう尋ねた。 その問いにも、苦笑しながら真宮は答える。
「ん。 ・・・悪い、今日はちょっとクリーブルについて探っていてさ。 少しでも、有力な情報は手に入れておいた方がいいと思って」
「あ、やっぱり抜け駆けだな! ズルいぞ真宮! 俺にもその情報を教えろ!」
―――ズルいってそっちかよ。
御子紫の素早い反応に突っ込みをいれながらも、結人はもう一つの違和感を覚える。

―――こういう時、未来ならいち早く突っ込みを入れると思ったんだが・・・今日はやけに静かだな。

未来は今この病室にいながらも、一度も言葉を発さずにみんなの話している光景をただ遠くから見ているだけだった。
彼の表情には笑顔がなく、何かを一人で背負い込んでいるような――――
「いいよ。 でも大丈夫、俺は直接クリーブルに関わっていないし、変に行動はしていないから」
結人は真宮に『動くな』と命令を下したはずだが、それを無視し勝手に動いていることに関しては、特に感情は抱かなかった。
いや実際は抱いていたが、真宮の裏には何かあると思っているため、彼の今の行動には必要以上に口出しができないというのが事実だ。
そんな仲間も“副リーダーだから動いているのだろう”または“ユイが副リーダーだけに命令を下し動いているのだろう”と思ったのか、彼の行為を完全に否定する者はいない。
「よーし! そんじゃ真宮にクリーブルの情報を聞くから、俺たちはこの辺で! ユイまた来るからな! クリーブルの情報、何か分かったら連絡するよ。 みんな行くぞー」
ここは病院のためあまり物騒な話をして事件を起こしたくないのか、御子紫を中心にみんなは病室から次々と出て行く。
そんな彼らに文句を言わず、結人は優しく微笑み返しながら彼らが帰っていくのを最後まで見送った。 だが――――最後に一人だけ、この病室に残る者がいた。

「未来?」

みんなには付いていこうとせず、その場に立ち止まって動こうとしない未来。 そんな彼に、結人は声をかける。
未来が付いてこないということは悠斗がいち早く気付いたのだが、彼のことを気遣ってなのか、悠斗は未来の方へ一瞬振り返るも何も言わずにそのまま病室を後にした。
そして結人は、みんながこの病室から出て行ったことを確認し再び声をかける。
「・・・未来?」
「・・・ユイ」
「?」
すると未来は急に改まり、結人の方へ身体を向けてきた。 そしてどこか苦しそうな表情をしながら、自分の罪を告白する。

「優が、やられたのは・・・俺のせいかもしれない」

「なッ・・・!」

―――どうして、未来が・・・?
衝撃的な事実を目の当たりにするが、結人は何とか平然を保ち問いかけていく。
「どうして、そう思うんだ?」
その質問に、未来は結人から視線をそらしゆっくりと答えていった。
「・・・一昨日、俺クリーブルのアジトに乗り込んで、相手をボコボコにしたんだ」
「・・・!」
またもや新事実を聞かされた結人は、少し感情的になりながら更に問い詰める。
「おい待て、未来はクリーブルのアジトの場所を知ってんのか?」
それには少しの間を置いて、彼は小さく頷いた。 この時結人は『どうしてアジトの場所を知っているのか』と聞こうとしたが、あえてそこには触れないようにした。
未来のことだから、きっと無茶をして無理矢理にでもその情報を得たのだろう。
「クリーブルのアジトは、どこにあるんだよ」
すると彼は隠すこともなく、クリアリーブルのアジトの場所を教えてくれる。 それと同時に、鉄パイプも何本か拾って公園に隠してあるということも打ち明けた。
「そうか・・・」
思ってもみなかった急展開に動揺するも、結人はあることを確信する。

―――アジトの場所が分かって鉄パイプもあるんなら、結黄賊の勝利が見えてきたな。

そして、もう一つの質問を彼にぶつける。
「悠斗は・・・その時、一緒にいたのか?」
その問いにはあまり答えたくないのか、険しい表情をしながらも小さく頷いてくれた。 だがその反応を見て、結人は一安心する。
―――悠斗もいたのか、よかった・・・。
―――未来だけなら心配だったけど、悠斗もいたんなら大丈夫かな。
そんな答えに安心している結人をよそに、未来は切羽詰まった表情をしながら自分の思いを吐き捨てた。
「ユイ・・・どうしよう。 俺のせいなんだ。 俺がクリーブルの連中をボコったから、その仕返しとして結黄賊である優がやられた。 そうとしか考えらんねぇ!」
「未来・・・」
こんな状況に置かれて、もがき苦しんでいる未来を見るのは初めてのため結人は何も言葉が出なくなってしまう。

「俺は・・・俺は、どうしたらいいんだよ。 まだ終わっちゃいなかったんだ・・・。 油断しないようにはしていたけど、俺に仕返しがくるとばかり思っていて・・・。
 仲間がやられるなんて、思ってもみなかった。 俺は・・・俺は、何の罪もない優を・・・!」

今置かれているこの状況に、どうしようもなくなって自分を見失いそうになっている未来。 彼は拳に力を入れてこの場を必死に耐えているが、その手は物凄く震えていた。 
優がやられたことを自分の責任だと感じている仲間に、結人は優しい言葉を投げかける。
「大丈夫だよ、未来」
「は・・・?」
それを聞くと、未来は思わず顔を上げた。 そしてやっと視線を合わせてくれた彼に、結人は微笑みながら言葉を紡ぐ。
「未来はよくやってくれた。 やっぱり思っていた通り、いや、期待以上のことを未来はしてくれた。 クリーブルのアジトが分かったなら、もうこっちのもんだ。
 優に関しては仕方ないと思え。 別にこれは未来のせいでもないし悠斗のせいでもない。 誰のせいでもないんだ」
「でも・・・俺は」
「だから大丈夫」
未だに混乱して落ち着きがない未来に、力強い言葉を言い放した。
「俺は、未来のせいにはさせない。 絶対にな」

そして結局――――明日明後日の学校も、真宮は学校へ姿を現さなかった。


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