第24話 ネクロ・キメラ討伐戦Ⅲ
なんとフレッドの身代わりとなったのは、ゾンビ退治をしていた灰賀だった。
「ぐわぁああああああああァァァァアーッ!!!」
彼の悲痛な叫び声が死の荒野にこだまする。
フレッドはびっくりして目を見開き、口をぱくぱくさせながら
「そんな……ハイガさぁ---ーー-んッ!!!」
スクワームハンズの凶悪な腕は、大型トラックを
「チッ……! 邪魔ガ……入ッタカ…………」
ネクロ・キメラは眼前まで灰賀を引き寄せると、息つく暇もないまま、自分の右手を再び赤い狂犬の顔へと変えていく。
「やめるのじゃ……、下郎ォオオオーッ!!」
虫の息だった灰賀は最期にフレッドの方を見て、ニコリと
瞬く間に起こった灰賀の処刑だったが、時間の流れはひどく遅く感じられた。
「灰賀よ……、オヌシの男気しかと心に刻んでおくぞ」
義に
黒焦げになった彼の死体は、化け物にぶん投げられ道路沿いに捨てられる。
「…………許せねえ……!」
フレッドの闘志に火がつき、ネクロ・キメラに向かって歩を進めていく。
「まだエネルギーが回復しきっておらんぞッ! 今のままではバーニング・ソードしか使えぬのじゃ……!! ここは一旦…………」
討ち死にの覚悟を決めているフレッドを、アップルはなんとか
(いや、後少しで……使用できる『アクティブ・スキル』がもう1つ、あるにはあるが…………今のこの敵が相手では分の悪すぎる賭けなのじゃ……)
「悪いな、アップル……! たとえココが偽りの『仮想世界』であっても、この町は俺が育った大切な故郷なんだ……!!」
「それに、民間人を守るのが保安官の役目だからなッ……!」
「フレッド…………」
赤い炎を燃やすフレッドと白い毛むくじゃらの怪物が対峙する。
「カッカッカ……死ヌ準備ハ……出来タヨウダナ!」
相手との距離は実に20メートルまで差し迫り、フレッドは右腰に手をやる。
「まさかオヌシ……、馬鹿なッ!?
そしてフレッドは自前のホルスターから、ハンドガンのP320を取り出した。
「フッ…………保安官が使う武器って言ったらやっぱコレだろ?」
間合いを計るためか――、彼は大胆にもその場で拳銃を構え始める。
一方ネクロ・キメラは両手を同時に、別々の〈ヴァリアント〉にして披露する。
「……左腕を〈ゴートサッカー〉のシルバニック・エッジにしおった……!」
ゴートサッカーは不死物危険度B-で棘が身体中から生えている、血を吸う人型の怪物である。この武器は、オーティスの町でハーパーの攻撃を防いだ銀の刃だ。
もう片方の刃は、インド風の装飾がなされた
「右腕は……パリッドガルーダのヴァジュラ・カタールか……こんなのは反則なのじゃ……」
アップルがさじを投げるほど、現状が圧倒的不利なのは否めない。
「そんな2枚刃で俺は倒せねぇよ、来なッ! 低能ひとり動物園が……!!」
煽り耐性の低いネクロ・キメラは、怒りをむき出しにしてフレッドを襲う。
「ギタギタニ切リ裂イテ……ヤルゾッ……!!」
「勝ち目はないのじゃ、引き返せフレッドォー!!」
――――銃声と共に、……爆音が轟き渡る。
「バ……馬鹿ナッ!? 何ヲシタンダ…………オマエェー!!」
一発の弾丸は前方10メートルの位置で、敵もろとも大爆発を起こした。
「まッまさか…………あやつ、〈ディレイド・フレア〉を使ったのか……?」
フレッドが撃ったのはNPCの商人から買い取った、速燃性の特殊弾薬。
まず敵を煽る際の動作で、火種をまいておく。即座に反応して、今度は火炎弾を相手と爆心地の重なる瞬間に撃つ。これは、
「本来なら5秒近く発動までの時間がかかる必殺技を……ほぼ
〈ディレイド・フレア〉という必殺技は3度目の正直でようやく敵に炸裂した。
しかしながら、ネクロ・キメラが常に『パッシブ・スキル』で炎耐性を持っている限り、ダメージを半減されてしまう。フレッドにとってはここが正念場なのだ。
「いくら軽減できてもよぉ……、
「大技を2発も受ければ……、ヤツも相当まいっておるはずじゃ!」
それまでの敗色濃厚という空気が一変し、ふたりに勝機が巡ってくる。
「ゴォオオオッ! 〈ヴァリアント〉、バジリスク・スピット!!」
ネクロ・キメラは
「不死物危険度C+の〈ポイズンモニター〉じゃ! その猛毒を喰らうとライフを徐々に減らされていくから用心せよッ!!」
苦し紛れによるネクロ・キメラの毒攻めを
ここまで6種類ものアンデッド能力をぶっ通しで使い続けているネクロ・キメラだが、エネルギー切れによる衰弱はまずあり得ない。それどころか、まだ手持ちの半分も能力を使い切っていないのである。
フレッドは極力、無駄な挙動をさけるためにハンドガンで応戦する。
「ソンナ
やはりアップルの忠告通り、化け物に銃撃は効いていない様子だった。
「チィッ、通常の弾じゃ、怯みもしねぇか……!」
「ヤツの動きが妙じゃな…………さっきまでは『アクティブ・スキル』を連発しておったのに、なかなか仕掛けてこずに間合いだけ詰めてきおる……?」
アップルの読みはおおむね正しい。――――だが……。
「罠ニ……カカッタナ……!」
「うわぁああ、なんだこれッ!? 地面が崩れていくぞ……!?」
さっきまで土で固まっていた荒地が、フレッドの周囲だけ
「アリジゴクッ!? これは〈アントキマイラ〉の設置型のスキルじゃ!!」
まんまとネクロ・キメラの張ったトラップまで陽動させられたのだ。
「コレデ…………
ネクロ・キメラはオーティスの町を焼き払った時のように、右手を悪魔のようなツノを生やした、禍々しいライオンの顔面へと構成していく。
足元を
(……レッド・アセンション分のエネルギーが溜まるまで間に合ってくれ!)
「クタバレッ……! 〈ヴァリアント〉、ブライトネス・ロア!!」
敵が最大の必殺技を打ち出そうとした。……その矢先に、フレッドは赤いオーラを
「ドウヤッテ……!? 這イ上ガッテ……来レタンダーッ!!?」
足場を見渡すと、アリジゴクの底の方にグレイズ・ハルベルトが刺さっていた。
「灰賀の落としたハルベルトを足場にしてジャンプしたのかッ!!」
アップルは大いに歓喜して、対等に渡り合うフレッドに感服する。
フレッドの赤い炎と敵の青い炎が交錯し、紫色の波動がほとばしった。
それはギラギラ燃えるように辺り一面に光を放ち、赤と青、交互に明滅する。
「オマエモ……アノ虫ケラノ様ニ、消シ炭ニシテ……ヤル……!!」
「てめぇ……、ハイガさんのことを虫けら呼ばわりしたなーッ!?」
沸点が最高潮まで達し、フレッドは