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第20話 消えゆく防壁

 ダフネの車は実家で待機していたフレッドを乗せて……防壁までたどり着いた。

 そこはフレッドの町の北側に位置し、トラヴィスが行き倒れていた場所である。
 オーティスからこの町にかけては道路がつながっており、敵が襲撃して来る場合に、この方向が一番危険と判断しての先回りであろう。

「お嬢様……どうかご武運を……!」
「わたくし達の勝利を願っていて下さいね、バトラー」

 ゾンビが辺りに居ないことを確認してバリアをすり抜けるアップル。
「オヌシ達のレーダー網よりワシの眼の方が広範囲のはずじゃからな」

 レーダー機能は自分と敵の間合いを測る目安として、プレイヤーが常時使用できるシステムである。レーダーの広さは『精神力』の高さに依存し、レベル次第では1キロメートルほど離れている敵も捉える事が可能だ。

「う~む前方3キロメートル先にはまだ来ておらぬようじゃな……」
 オーティスの町があった方向をずっと凝視するが成果は得られない。

「他の町を襲いに行った可能性は無いのか、アップル?」
「防壁がある町はオーティスからとなると、ここが一番近いはずじゃ」
 ダフネはウサ耳を頭に付け、自慢のレイピアを手に取り気合を入れる。
 
「フレッドよ……、オヌシが昨日覚えたばかりの〈ブレイジング・エンド〉が勝負のカギとなるのじゃ!」
「おっ、おう! 俺に任せておきなさいッ!」
 フレッドは右手を胸に当て、さわやかにオッケーサインを出す。

「かなり特殊なスキルでな、炎の射程は30メートルあるのじゃが……」
「うっしゃ! やっとまともそうな飛び道具が使えるんだなッ!?」
 さらにその(たくま)しい握りこぶしをガッツポーズに切り替える。

「右手の発射口から25メートルまで、当たり判定が全く無くてのぉ……。着弾点から半径5メートルの範囲におる敵のみ焼き尽くす必殺技なのじゃ」
「……なんで、いつも変な制限されてる技が多いの……ツラいんだけど?」
 ぬか喜びに終わりガックリと肩を落としてしまう。

「……わたくしが囮になってバンダナの大男とやらを引きつけます。フレッドさんがその必殺技でトドメを刺す、といった具合の作戦でいきましょう」
「ふむッ、まともに消耗戦をして勝てる相手ではなさそうじゃからの……」
 フレッドをおざなりにして、アップルとダフネの間で敵の攻略法が決定する。

 ふいにフレッドはダフネの方に視線を移動させた――――。

 昨晩の出来事で、二人とも気まずくなっていると思われたが、ダフネはこれまで通りに気丈に振る舞っている。フレッドの方はそわそわして、体をこまめに動かしながら気を紛らわしているようだ。

「トラヴィスが言うには……、標的であるバンダナの大男は正気を失ってはいたが、会話をできる知能はあったそうじゃ」
「わたくしが寄生虫に汚染されていた時と同じ状態の可能性もありますわね……」
「ていうか、そのバンダナの大男って肉入りとNPCのどっちなんだ?」
 
 それぞれの思惑が交錯する中、アップルが不吉な気配に気づく。

「ぬッ!? 正体不明の〈寄宿者〉のエネルギー反応を感知したのじゃ!」
「やっと、お出ましってわけかいッ!!」
「わたくし達の町は絶対に守り抜きますわッ!」
 フレッドとダフネは目つきをギラつかせて身構える。

「いや……しかしこの敵性反応は3つもあるぞい、どうなっておるのじゃ?」
「……マジかよ?」 「なんですって!?」
 事前にトラヴィスから聞いていた情報と違い、フレッド達は動揺を隠せない。

「しかもこの3人は動きが結構速いのじゃ、バンダナの大男とは別人やもしれん」
 となると、単独で行動していると予測されたバンダナの大男は、複数でチームを組んでいる可能性が出てくる。早くもダフネが立案したプランに陰りが出始めた。

 それから、バリアの境界線で敵を待ち構えて15分くらいが経過する。

「ここから1.5キロメートル位かのぉ……ずっとそこに居座っておるようじゃ」
「アップルの索敵に引っかかってるとは知らずにか……」
 フレッドは持参してきたコーラのペットボトルを一気に飲みほす。

 相手と離れ過ぎている場合、アップルはステータスを覗き見る〈リーディング・ライブラリー〉のチートは使用できない。また本人が自白しているように、バグの影響で能力でしっかりと読み込めないというケースもあるみたいだ。

「こちらから仕掛けるが吉か……もし本当に防壁を消せるとなると、早めに相手を叩いた方が得策じゃしな」

――――その時、町の西方面で爆発する音がここまで届いた。
「なんじゃと?!?」 
「あぁ!! 俺の町から煙が立っているぞ……!?」

 さらに前方から押し迫る脅威に、ダフネがいち早く察知する。
「ものすごい勢いで3人の〈寄宿者〉がこちらに詰め寄ってますわッ!」

 ダフネが前方の敵に気を取られてる正にその時、フレッドとアップルは仮定していた、あってはならない最悪な現象を自身で目の当たりにする……――――。

「……町を覆っていたバリアが解けていくのじゃ……」

 なんと透明の防壁は頂上から徐々(じょじょ)に厚みが薄くなっていき、最期には影も形も残さず、完全に無くなってしまう…………。

 このゲームにおいて、絶対的な効力で安心を保証されていたセーフティエリアの崩壊。これにより、ゾンビ及びアンデッド・クリーチャーたちはフレッド達の町に侵入できる事となってしまった。 
 
「バンダナの大男がすでに町を襲撃しておるのかッ!?」
「クソッ! このままだと民間人がゾンビの餌食になっちまう!!」
 フレッドが重苦しげに悔しがっていると、そこに例の三人組が森から姿を現す。

「こいつら……3人とも同じ顔をしてやがる、三つ子なのかッ!?」
「それにしても顔色がかなり優れないようですが…………」

 その3人の男たちは白いバンダナを巻いてはいるが、背の高さは全員170cm前後でとても大男とは言えない背丈だった。白と黒のツートンカラーのミリタリー服を着ていて、槍のような武器を背中に装備している。

「あの3人組は……〈パラサイダー〉じゃな。あの組織の〈寄宿者〉は白黒または黒のみの服装を着用するのが特徴じゃ。じゃがこれは…………」
 アップルは気を取り直してフレッドとダフネに指示を出す。

「フレッドは今すぐ煙の上がった方向に、ダフネの車で急行するのじゃ! ダフネにはここでこやつ等の足止めを優先してもらうッ!」
「お前はどうするんだ、アップルッ!?」
「ワシはぎりぎりまでダフネのサポートをしてから……、瞬間移動でオヌシのおる場所にワープするのじゃ!」

 フレッドはダフネの許可を得て、執事のバトラーに運転をしてもらう。
「……ダフネちゃん! 無茶だけはしないでくれよッ!!」
「ウフフッ……心得ておりますわ、フレッドさん」

 ダフネはフレッドを笑顔で見送り出し、そして目の前の3人組を睨みつける。

「こんなタイミングで〈パラサイダー〉が攻めてくるなんて運が悪すぎですね」
「いや……これは案外、真の敵によって仕組まれていたのやもしれぬな……」
「真の……敵?」
  物分かりが早いアップルが、3人組の状態の異常をダフネに明かす。

「奴らはな……すでに息をしておらん。『動く死体』状態じゃ……」
「そッそんな……、じゃあ寄生虫に操られたゾンビなのですか!?」
 アップルは首を横に振り否定する。
 
「もしかすると……この突発的な『バグ』を逆手に取り、悪用しておる黒幕が存在するような……そんな気がするのじゃ…………」

 憶測(おくそく)の域でしかないこの発言に、森がより一層ざわめいて返答しているかのようだった……――――――。
 

 
 

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