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ゴッド・エレメント

古代エジプトに眠るフィフスエレメント。それを見つけるために私はこのピラミッドに来た。「永遠の命の玉座とされる五つ目の要素…。それがここに眠るはずなんだが…。」第3次世界大戦が起こると予想された現代、私たちは生きるためありったけの武器密輸をし、世界は大混乱に陥っていた。そこで私は永遠の玉座とされるゴッド・エレメントを探しに来た。「永遠の玉座は健全なる魂に宿り、生死を穿つであろう…。」壁画には天使が玉座に座る姿と悪魔が玉座に座る姿が真反対に描かれていた。天使が座る玉座には永遠の命、溢れ出る噴水のような酒、それを祝福するかのような「昇華」の絵が描かれ、悪魔の座る玉座には永遠の闇、溢れ出る血と肉の大地、それをあざ笑うような「逆転」の絵が描かれていた。ライトを頼りに手探りで壁画を触っていると何かくぼみのようなものに手が触れた。それは鍵穴のような形をした小さな穴だった。鍵の絵は壁画にも記されている。「純粋なる魂に鍵は授けられん…。鍵は生命の繁栄を…。ダメだ、これ以上分からん…。」なんせ1万年以上昔の壁画だ。朽ちて落ち読み取ることの出来ない部分が多かった。私は今日の研究を諦め、宿に戻ろうとした。
古代、対立した天使と悪魔がそれぞれの主張で戦争を勃発させ、それを見た神様が五つ目の要素、フィフスエレメントを大地に落としたとされている。そのフィフスエレメントは風火水土以前の力で力を得たものは無限の力を得るという。一体どのような力なのか…。これさえあれば此度起こる第3次世界大戦を止めることができるのではなかろうか…。私はベッドに横になった。「何が鍵となるのだろうか…。」考え事をしているうちに私は眠りについてしまった。その晩は悪夢にうなされた。天使と悪魔が血みどろになって戦う夢を見た。モーニングスターやトマホークを持った天使や悪魔がその首を取らんと無差別に殺し合いをしているのだ。リーダーなどおらずただお互いに生きるために戦う。戦いの理由など分からない様子で。私の眼前に天使の首が落ちたところで私は目が覚めた。まだ夜の3時を示していた。暑苦しい朝とは違い夜は寒かったが、それがとても心地よく感じた。ふと外に耳を向けると原住民たちが歌をうたっていた。「深淵へと目を向けよ。深淵もまたのぞき込むであろう。朝日ささぬ夜のとばりは無限の玉座の証。健全なる魂に聖杯を掲げよ。その器もまた我らを写す鏡とならん。健全とは善悪ではないのだ。どちらかに振り切らねば扉は開かぬ…。」面白いうただなと思っていた私はふと鍵のことを思い出した。世界を救おうとする気持ちが私にはあるのだろうか。私は利己的な感情でこの遺跡を調べているのではないだろうか。私は世界を救う。そう決意してテントのベッドに戻った。
その日から心を清める修行に没頭した。マントラを唱え、シヴァ神に1016回水を掛け流し願いを唱え、毎日世界平和を願った。時間はそれほどなかったが私の心は平穏を破らなかった。そうして幾年が過ぎただろうか。私はひとつの結論に至った。「聖杯を我が血で満たし、深淵なる鍵穴に注いでたもう。」理由などなかった。しかしやる価値はあるだろう。私は聖杯に血を注ぎ鍵穴に入れてみた。するとどうだろうか。血が固まり、鍵となったのだ。鍵を回し、玉座の間へと歩んだ。そして座った。玉座には私の亡骸だけが残り、トビラは閉まった。そして10年後、第3次世界大戦は起こった。ナパーム弾は森林を燃やし尽くし、ワーグナーのワルキューレの騎行を流しその戦いを讃えるようにマシンガンが人を殺した。何故世界は救われなかったのか。それは玉座に座ったものが天使ではなく悪魔だったからだ。幾年の修行で悟ったのは世界救済よりも世界平和であり、平和な世界には人間が邪魔だと感じたからである。そうして人間の大半が死んだ世界大戦は誰も手を取ることなく終戦へ向かった。玉座にはもう誰もいない。また誰かが座る時を待ち望んでいる。健全とは善悪と限らない。純粋な悪も健全な魂になりえるのだ。

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