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黄金の悪魔

地下深く眠る悪魔にて繁栄を築いたダングウェルダン。その悪魔の伝説をいまお聞きいたそう…。
ダングウェルダンの街は黄金の街と呼ばれるほど金が採れた。それは些かまことであるか分からぬが街の人は悪魔のおかげだという。悪魔は毎年働き盛りの時期になると黄金を貢いでくださる。黄金のある金鉱へ導いてくださるそうだ。私はそんなこの街が大嫌いだ。何かわからぬものに頼った商売、垢抜けた傲慢な態度、悪魔崇拝の盛んなこの街が。大学では郷土史について専攻していた。その時見たのだ、この街を虚実の黄金に染めた薄汚い悪魔の姿を。以来、この話は自分の中でとどめておくつもりであったが遺書には書き留めておくことにする。
まず私は何故悪魔はこの街を盛んにして助けるのかを調べることにした。金鉱について行き金を一部もらって帰ったり、過去栄えてなかったこの街がどのようにして繁栄を築いたかを調べたりした。悪魔崇拝によって得られた金は探掘家が最初に発見したのだった。街のすぐ近くの山にぽっかりと穴をあけ、その奥には神殿の様な造りと大量の金が見つかったらしい。掘っても掘っても出る金に興奮した探掘家は金が出なくなっても掘り続け、どこか大きな穴に落ちたと記録されている。金の採れる山は1つであり、もうすっかり山は穴だらけになってしまっている。しかし山は昔に比べ随分と大きくなったと思われる。また、毎年探掘家が1人穴に落ちては帰らぬ者もいれば、恐怖に怯え口を聞かなくなる者もいる。山を掘りすぎた者には当然の罰だと私は思っていた。しかし、それにしては様子がおかしいと思った私は金鉱についていく事にした。悪魔崇拝のサバトの日、私はひとつの興味も示さず山へ向かっていった。金鉱では落盤がないように基礎工事がされ私がついた時には既に掘り進めている途中であった。一端の大学生に金を渡したくないのかなかなか前に進むことが出来なかったが、一番前へたどり着くことが出来た。そこで私もピッケルとライトを頼りに掘り進めて金を後ろへと渡す作業に没頭していた。何時間かしたところで金は取れなくなり危険だと言って片付け始める者もいた。しかし私は金に魅入られて、掘り進める手を止めなかった。これが後に悪魔と対面することになるとは知らずに。その時だった。ガラガラと崩れる音が聞こえて私は大きな穴に落ちてしまった。数分間落ちただろうか。背中を強く打ち、重い腰を上げるとなんとか立ち上がることが出来た。ぱっと見上げると神殿のような造りをした地下迷宮は私の好奇心をくすぐった。大丈夫か、と聞こえる声を無視し私は奥へ進んで行った。ほとんど読み取ることの出来ない古代文字だったがかろうじていくつか読めるものがあった。サナドゥ、メルキデス、アロウロデューネメリッサ、イティ。それは悪魔の言葉であった。意味は分からぬがこれが悪魔の言葉であることは読み取れた。恐怖した私は引き返そうとしたが恐怖より好奇心の勝った私は奥へとさらに進んでいった。そこには周りは溶岩、牢獄と黄金の人骨たち、そして悪魔の金像があった。金像には「忘却の彼方、虚実の黄金」と書かれた1文があるだけで他には何も書かれていなかった。その時だった、ヒソヒソと周りから声が聞こえてきたのは。私はすぐ金像の後ろに隠れた。ヒソヒソという声はどんどん近ずいてくる。私はアッと大声を出しそうになった。黄金の人骨が金像をガリガリと削り始めたのだ。そうしてさっきは気づかなかった穴だらけの上部の穴の空いていない部分に削った金を詰め込み始めた。そうして半分ほど詰め終わるとぱたりとまた倒れてしまった。私は息の詰まるほど不思議な経験をしたと思い、この場を後にした。
地上に帰った時、私は震えていた。あの人骨はなんだったのか、悪魔の言葉はなんだったのか、そして悪魔をかたどった金像はなんだったのか。何一つわからなかった。金を貰い、私は金について調べてみることにした。すると分かったのがこの金は地球外のものだということとごく少量であるが人間の骨と同じ成分であるということであった。つまり私が見たあの光景は宇宙の神秘、宇宙との交信だったのだろうか。ここで行き詰まった私は金鉱で落ちて怯えてしまった人々に話を聞くことにした。全くと言っていいほど口を開かぬ者たちであったがあの悪魔の言葉をたまに口にした。やはりこいつらも見ていたのだ。時間はもうすぐ夕方になろうとしていた。帰路につこうとしていた私の耳にあの朝からやっていたサバトの声がふと入った。そしてその言葉に恐怖した。あの悪魔の言葉とそっくり同じ言葉を口にしていたのだ。私はドアにぴったりと耳をつけ小さな声を拾っていた。そうして私は気づいたらドアを開けており黄金の悪魔と共にあの言葉を口にしていた。私も死後、黄金の人骨となるのだろう。そして地下深く永遠と悪魔と共に人間に黄金を与え、その名を忘れ去られるまでこの街に繁栄を約束するのだろう。

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