第11回「ウナギ類憐れみの令」
「貴方には魔法を実地で覚えてもらいたいと考えています。そもそも、貴方に必要なのは、さらにその能力を補助するためのものですからね。実戦の中で体得していった方が、より効果的に作用するでしょう」
「いいですね。僕としても、そちらの方がありがたい。苦手なんです、座学は」
はっきり言って、学ぶより殴る方が早いと思っている。僕は根っからの蛮族なのだ。「話せばわかる」なんてのは嘘っぱちだと心の底から信じているし、実際に世界の動きはそういうものだと達観している。
「ディルスタインを取り巻く状況は、すべて『帝国』が中心になっています。今、この国の皇帝になっているのは、クリストフ・ヴァーギスという男です。彼は選帝侯によって選ばれた前皇帝に反逆し、帝位を簒奪しました。そして、『ウナギ類憐れみの令』を発布し、ウナギの保護を始めたのです」
「なんて語呂が悪い詔勅なんだ。しかし、そんな男では、帝国も危ないんじゃないですか。一気に反逆されそうな気がするなあ」
徳川綱吉もびっくりだ。
それに、最近は綱吉も再評価されている傾向にある。案外、帝国がやろうとしていることは正しいのかもしれない。もっとも、ウナギの一点に関しては譲れないから、どの道、僕とは敵対する運命にあったのだ。
「ヴァーギスは簒奪者ですが、それを成し遂げられるだけの力を持っていました。おそらくはウナギから力を分けてもらっているのでしょう」
「僕が食べたウナギから力を生み出しているのと同じ感じですかね」
「掴みどころのないウナギどものことです。もっと別の何かを使っているのかも」
それはギャグなのだろうか。
「ええと、話の規模が大きくなったり小さくなったりで、ちょっとわからなくなってきました。とにかく、僕はウナギを打倒して、やつらを片っ端から食べてしまえばいいんですね」
「その通り。貴方にはこれから闇ウナギ屋に行ってもらいます。そこの店主であるワワン・アーという男の指示に従ってください」
「何だかすごい名前だ」
もしも学校に「アーくん」がいたら、いじめられるかもしれない。人間は共同体の法則から外れた者に対して、驚くほど残酷になれるものだ。そう、僕もまたいつだって残酷になれる。ウナギ絶滅を食い止めようとする者がいたならば、たとえか弱い幼女であっても無残に殺してしまえるだろう。
「彼は帝国の外から来た移民です。迫害されていますが、ウナギ絶滅の信念を持った同志ですよ。しばらくはタチアナさんと行動を共にしてもらうことになるでしょう。貴方がここでやることの最終目標は……皇帝の暗殺です」